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25話 翔の全力

 翔は那月が吹き飛ばされるのをただ立ち尽くして見守るばかりだった。


 ━━動けなかった……あいつは動けたのに俺は震えて動かなかった。


 自分を殺したくなるほどの怒りがその身に湧き上がってきた。

 しかし、翔が自分を殺すよりも前に殺すべき存在を思い出し、そいつを睨む。


 ゴブリンセイバーは布切れのように動かない那月からつまらなそうに視線を切ると、今度こそと目の前の百花に手を伸ばす。


「ーーーー《雷電》」


 直後、ゴブリンセイバーの手が小さく焦げる。

 ゴブリンセイバーは手を伸ばす事を止めると、不思議そうに手を見つめ、痒いと言わんばかりに巾着布に擦り付ける。

 そして、自分に小さいとはいえ傷を付けた相手に大きな瞳を向ける。

 しかし、そこから発せられるのは殺意ではなく、玩具を見つけた子供のような好奇心であった。


「お前の相手は俺だ。言っておくが俺は強いぞ……!」


 翔は大きく息を吸うと、きっと口を結ぶ。


「《雷電》!」


 ゴブリンセイバーに向けて鋭い雷が放たれる。

 しかし、ゴブリンセイバーもバカではない。二度も同じ攻撃が通じるはずもなく、左の手でそれを弾く。

 続いて攻撃に移ろうと右手に握る長剣を振り上げるが、そこに翔の姿はない。


「はぁぁぁ!!!」


 気合いとともに短剣を繰り出す翔はゴブリンセイバーの真横に姿を現す。


 翔はゴブリンセイバーに雷を放った後、直進した。そして、ゴブリンセイバーの視線が手によって遮られる瞬間を狙って真横へ走り、大きく回って、ゴブリンセイバーへと剣を繰り出したのだ。


 流石のゴブリンセイバーもそれには一瞬面を食らった様だった。

 硬直するゴブリンセイバー。

 この機会を逃せばこいつを殺せる機会はもう無いだろう。

 翔は頭の隅でそう考え、渾身の一撃を繰り出す。


「ギギャァァ!………ギギギギ」


 ゴブリンセイバーは恐怖に顔を歪めたかと思うと、次の瞬間笑みを浮かべた。

 キィィンという音が部屋一面に響き、尾を引いて消えていく。


 翔は驚愕と絶望に心を砕かれかけていた。


 翔の繰り出した短剣は見事にゴブリンセイバーの腹部に当たった。

 しかし、その刃が肉を割くことは無かった。


 それは翔の力が弱いのではなく、ゴブリンセイバーの筋肉が硬かったためである。

 仮にその短剣でかすり傷の一つでも付けられたのなら勝機はあった事だろう。

 だが、結果は無傷。何度やってもこの結果は変わらないだろう。


「ギギャ……」


 ゴブリンセイバーは那月の腕を掴むと、自分の目と翔の目が会う位置まで持ち上げる。


「ーーッ!」


 翔の目にはゴブリンセイバーが憐れむような目を向けている様に映った。

 悔しさに胸がはちきれそうだった。


 翔が顔を伏せると、ゴブリンセイバーはつまらないと言った風にため息を吐くと、翔を手から放す。

 そして、大きく拳を引き絞ると翔の腹部目掛けて閃かせる。


「ぐはぁっ!」


 まるで、その瞬間だけ重力が縦から横に切り替わったかと錯覚を覚えるほどに、翔の体は真後ろに引っ張られた。

 瞬刻。翔は重たい衝撃と共に壁に穴を穿ち、地面に倒れ落ちる。


「翔くん!!」


 百花の声甲高く反響する。

 だが、朦朧とする意識を保つことでやっとの翔にそれは聞こえない。


 ゴブリンセイバーは翔と百花を交互に見ると、翔へと近寄っていく。


 翔が己の死を覚悟して、大きく瞳を閉じる。


 ━━━━……だっせぇ


 不意に那月の言葉が途切れゆく意識の中を駆け抜ける。


 ━━そうだ。俺は強い。あいつなんかに、あいつなんかにーー


「ーー負けてたまるか……《雷、電》!」


 敵愾心を込めた瞳でゴブリンセイバーを睨みつけ、力一杯の雷電を放つ。


 今までにないほど大きく膨れ上がった雷は、油断をして欠伸をしていたゴブリンセイバーの片腕を大きく抉り、切り離す。


「ギギャァァァァァ!!!!!」


 今度こそ、正真正銘の悲鳴を上げるゴブリンセイバー。

 それを耳に、翔は小さく笑みを零す。


「油断大敵だ……この、ブスゴブリン……」


 ゴブリンセイバーは怒気を全身に巡らせ、地面を揺らしながら翔に迫る。

 既に全ての気力を使い果たした翔にはどうすることも出来ない。

 死が目の前に迫り来る。

 すると、脳の奥へと追いやったはずの恐怖と後悔が顔を覗かせる。


 ━━くそっ!やっぱり俺は強くなんて無かった。もう何も出来やしない。指の一本も動きやしない。俺は、俺はなんの為に弾二四高校に入ったんだ……少なくともここで死ぬ為では無かった筈だ。


 ゴブリンセイバーの足音が徐々に大きくなる。


 ━━だせぇな。確かにだせぇ。力を持っていたつもりでも、蓋を開ければこんなダンジョンの一層のボスにも勝てやしない。それどころか恐怖に足すら震える始末。よくこんなんで、あいつらを殺せると思い上がれたな。あぁ、死ぬのか。


 ゴブリンセイバーの足音が無くなり辺りは静寂に包まれる。


 ━━そうだ。死ねば会えるじゃないか。そうだよ死ねば良かったんだ。もうすぐ、もうすぐでまた会えるから待っててね、母さんーーーー


 とうとう翔の体から力が抜ける。


「ギァァァァァォァ!!!!!!」


 ゴブリンセイバーは動けずにいる翔の目の前に立つと、高々と剣を持ち上げ、全力を持って、それを振り下ろした。


「ーーいやぁぁぁ!!」


本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


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「頑張れ!!!」



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