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23話 ゴブリンセイバー

 扉が閉まり、真っ暗な空間に三人は閉じ込められる。


「ひとまず、助かったな」

「うん。そうだね。良かったぁ」

「でもよ、なんか変じゃね?安全地帯ってこんな真っ暗なの?それに変な臭いが……」


 那月の言う通り、本来の安全地帯はこんなにも暗くはない。

 むしろ昼のように明るいはずだ。

 でなければ、街なんかが出来るわけが無い。


 それに、微かに流れてくる香りは鉄の香り。

 いやーーーー


「これはーーー血の臭い…」


 血のように生臭い香りが那月の鼻を鋭く撫で付ける。

 那月は人よりも鼻が優れているため、この部屋にこびり付いた微かな血の臭いに反応したのだ。

 しかし、那月の言葉に翔と百花が鼻を引くつかせるが首を傾げるばかりである。


「確かに安全地帯がこんなに真っ暗なのは変だけど、そんな臭いはしないよ。ここはダンジョンなんだからトラブルの一つや二つあるでしょ」

「いや、でも鼻につくこの嫌な香りは、絶対血の臭いだって……」


 那月はおもむろに立ち上がると、暗闇に向かって歩みを進める。

 翔は那月を止めようとするが、走ったせいか、思うように足が動かなかった。


「ーーッ!」


 歩き始めて三歩ほどのところで那月が足を止める。

 否、止められる。

 身の毛が全て逆立つほどの、足が自然と震えるほどの、心臓を直接撫でられているような錯覚を覚えるほどの、殺気。

 那月はこれほどまでに感じたことの無い巨大な殺気に当てられて、その足を止められる。


 那月が止まるのと同時に、壁中に埋め込まれた蛍光石に魔力が流される。

 蛍光石は青白く光り輝き、その部屋全体を薄明るく染め上げる。


「なんだ、やっぱり明かり付くじゃん。那月くんったら脅かさないでーーーっ!」


 百花が部屋全体に明かりがまわった事に安堵を覚える。

 しかし、その直後に百花は恐怖にその目を大きく見開いてその場にぺたりと座り込む。


「う、そ……」


 目の前の光景を目にして、百花は掠れた声を何とか絞り出す。


 ダンジョンにはモンスターが入れない場所が二つある。

 一つは安全地帯と呼ばれるモンスターの存在が許されない絶対隔離空間。

 そして、もう一つはその部屋の外にいるモンスターが近づく事を恐れるほどの圧倒的強者の根城。

『ボス部屋』である。


 明かりに照らされる部屋は先程の空洞よりは小さいがそれでも動き回るには十分過ぎるほど広い。

 そして、その広大な部屋の中央に胡座をかいて座る人影が一つ。

 耳は尖り、頭も後ろに伸び、肌は緑色をしたゴブリン。

 だが、先刻戦ったゴブリンとは違い、その体の至る所に黒の墨が幾何学模様に入れられている。

 手には立派な長剣を持ち、それを肩に担いでいる。

 剣には恐らく人の血と思われる赤い液体がこびりつき、異臭を放っている。


 ゴブリンの上位個体。『ゴブリンセイバー』


「まさか、ボス部屋だと……」

「ボス部屋って、無理だろ……死ぬ。逃げよ、今すぐここから!」

「無理だ!ボス部屋は一度入ったらボスを倒すか、はたまた死ぬか……その二つ以外に出ることは出来ない」


 翔の説明に那月が歯を力いっぱいに食いしばる。


 大きな声でやり取りをしていたせいで、ゴブリンセイバーの目が那月達を睨みつける。

 今までは広範囲に発していた殺気が那月達へ集中する。


「くっ……!」


 喋ることは愚か、呼吸すら楽には出来ないほどの重圧。

 今にも座り込んで、抱え込んで、震え上がりたい。そんな事を無意識に考えてしまう。

 だが、どうにか作用する意志の力でそれを脳の一番奥にしまい込んで那月は目いっぱいにゴブリンセイバーを睨む。


 ゴブリンセイバーはゆっくりとした動きで立ち上がる。

 遠くからでも分かるほどにその体は大きかった。

 那月の体を最低でも二回りほど大きくした感じである。

 筋肉も贅肉でお腹が出ていたゴブリンとは違い八つに割れている。


 ゴブリンセイバーは那月、翔、百花の順でねっとりと視線を向けると、百花を見て、醜悪にも目を細め、口を横に引き裂いた。


「ギギャ!」


 直後、ゴブリンセイバーは消えた。

 いや、移動したのだ。一瞬で、百花の目の前へと。

 突然目の前に現れたゴブリンセイバーに百花は恐怖で声にならない悲鳴を上げる。


「ギギギギ」


 百花の顔が余程、興奮をそそるものだったのか、嬉しそうに声を上げると、ゴブリンセイバーは剣を持たぬ方の腕を持ち上げる。

 そして、それを百花に対して振り下ろす。


 百花は恐怖で足がすくんで動けない。

 迫り来る拳を避ける手段は持ち得ない。

 ついに、視界が拳でいっぱいになり、死を覚悟して、その瞼を思い切り閉じる。


「うぐっ!」


 ぼごっ、という鈍い音と共に吹き飛んだのは那月だった。


 足すらがくついて、ろくに動けない那月であったが、何故かその瞬間、脳に電撃が走ったかのように恐怖が薄れ、百花の前へ飛び出ることが出来たのだ。


 那月の体が骨が数本ボキリと折れる音を残して、真横へと吹き飛んでいく。

 野球ボールのように飛ばされた那月は風を切り裂くほどの速度で、岩の壁へとぶち当たる。

 壁に人型の彫刻を彫り込んだ那月はそのまま、地面に、力なく倒れ込む。


「ーー那月くん!」


 百花の悲鳴が那月の脳を小さく揺する。

 ゴブリンセイバーの不服そうな声が耳に入った気がした。

 翔の驚きの混じった声が耳を撫でたような感覚がした。

 しかし、那月の視界は薄れ霞、耳は聞こえず、体に力も入らず、ただ意識だけが、どこか深いところに落ちていく感覚だけが、その身に残って気絶した。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


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「頑張れ!!!」



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