144話 楽勝?
「──《加速》!!」
颯がスキルを使い瞬く間にルフレの間合いに飛び込んだ。
地面を強く蹴り、跳躍。
彼女の頭上の電線を踏み台に、再びスキルで加速する。
「ソッコーで倒させてもらうよ! 『落花旋』!」
颯が車輪のように回転し、彼女の脳天目掛けてかかと落としを見舞する。
しかし、彼の攻撃がルフレに当たる直前、彼女は自らのスキルを発動させた。
「あわわ! ──『無為の両腕』!!」
「んなっ!?」
刹那、颯のかかと落としが確かな感触を捉えた。
しかし、クリーンヒットに思えた颯の攻撃は、まるで透明な分厚い壁に阻まれたかのように、ルフレの頭上三十センチ程度のところで止まっていた。
「これは、なかなか面倒なスキルだな……!」
一瞬、まるで空中に浮かぶように攻撃後の姿勢のまま静止していた颯は、攻撃したのとは反対の足で透明な壁を蹴り、元いた場所に着地する。
それから観察するようにルフレを眺めた。
彼女のスキルは一体なんだろうか。
スキルを発動する前と後で彼女の外見に変わった点は見られない。つまり変身系のスキルではないことは確かだ。
颯の攻撃が彼女の頭上で止まったことを考えると愛莉の《結封》のような透明な結界を生成するスキルだろうか。
しかし、それでは彼女が初めに那月を襲った際のあの攻撃への説明がつかない。
結界などの防御系のスキルは間接的な攻撃は可能でも直接的な攻撃は不可解だ。
「……現段階ではスキルの特定は難しいか。となると、彼女のスキルを暴くまでひとまず情報収集に徹するとしようかな」
颯が戦闘方針を決めて不敵に笑う。
するとルフレが青ざめた表情で颯をジト目で覗いた。
「何やらひとりでブツブツ呟いたと思ったら、笑った? 気持ち悪い!」
「気持ち悪いとは失礼な! こっちは真剣に考察をしてだな──」
「ひぅッ。 今度は突然大声で怒鳴る。ますます気持ち悪いッ! ──気持ち悪いから近づかないでッ!!」
ルフレはそうと叫ぶと再びスキルを発動させた。
不可視のスキルは一切の予備動作を必要としないため、何時何処にそれが発動したのか分からない。
しかし、颯は大きく深呼吸をして集中すると、トンと軽く地面を足で蹴ると、跳んで背後に少し下がった。
直後、彼が元いた場所に大きな音と共にクレーターが刻まれた。
「ウソ、うちの『無為の両腕』を避けた? あなた彼の腕が見えてるの?」
「いいや、そんなもの影も形も見えやしない。でも、攻撃には必ず殺意が混ざる。それを読み取れば不可視の攻撃だろうと避けられる」
「殺意……」
颯が回避のカラクリを説明すると、ルフレは苦虫を噛み潰したような顔をする。
恐らく彼女は今のような不可視の攻撃による不意打ちでこれまで幾度となく勝利を収めてきたのだろう。
その必勝パターンを攻略されればそのような表情になるのも頷ける。
反対に、彼女のスキルの全貌を理解した颯の口角が彼の意志とは関係なしに上がるのも仕方の無いことだろう。
「しかし、腕か。なるほど。あんたのスキルは不可視の腕を生成するスキルのようだな」
「なっ!? どうしてそれを……?」
「さっき自分で「腕が見えるのか?」とか何とか言ってたし、それにその地面に出来たクレーターの形を見れば一目瞭然だ」
颯は先程出来たばかりのクレーターに目を向ける。
それは大きさこそ通常ではないが、人の手のひらを押し当てたような、綺麗な楓の葉の形をしていた。
つまり彼女の先程の攻撃はハエたたきのように、手のひらを振り下ろしたものだったのだろう。
「そうなると稲荷さんの探知に引っかからなかったのは手の中にすっぽり収まっていたりしたんだろう」
「…………」
「その表情、図星だね」
ルフレはハッとしたような、それでいて悔しそうな、そんな表情を浮かべていた。
だが、すぐに不敵な笑みを薄く浮かべる。
「確かにうちのスキルは不可視の腕を召喚できるよ。……でも、だからなに? そ、それが分かったところで見えないことには変わりないでしょ……!」
「さぁ、それはどうかな!!」
颯が再び後ろに下がる。
するとまた楓形のクレーターが颯の目の前に刻まれた。
「な、なんで当たらないの……!?」
「だから殺気があるんだよ! ──《加速》!!」
攻撃が当たらず呆然とするルフレを見遣り、颯はスキルを発動させる。
透明な腕を滑走路とし、気弱そうな少女目掛けて駆け出した。
「あ、『無為の両腕』……! うちを守って!!」
「遅い! 『乗速一脚』!!」
「──キャア!!」
ルフレがスキルに命令を出すが、その時には既に颯が彼女の懐に入っていた。
颯の加速を一点に集中させた蹴りが放たれる。
それは彼女の眼前でピタリと止まり、しかし衝撃波が彼女を吹き飛ばした。
砲弾のように放たれた彼女は背中を崩壊した建物の壁にぶつけると、肺の中の空気を全て吐き出して地面に倒れた。
そんな彼女の元へ颯が近づく。
「……ゴホッゴホッ! ……ど、どうして、当てなかったの……?」
近づいてきた颯をルフレが恨めしそうに睨みつけた。
それを受け、颯はぽりぽりと鼻の先をかく。
「俺はプレイヤーだ。だから例えそれが敵だろうと、必要以上に痛めつけたりしない。俺は実力を十分に示したつもりだ。あんただって分かるだろ? あんたじゃ俺には勝てない。だから、蹴り飛ばす前に自首を勧めに来た」
「……随分とお人好しな人だね。エクラタとは大違い…………」
ルフレは呆れたように鼻で笑うと、しかし唇を強く噛み締めた。
「……でも、あなたの提案は聞けない。だってうちは────」
ルフレがぽつりと小さく呟いた。
するとどこに潜んでいたのかと思うほど大量のカラスが一斉に空へ羽ばたいて行った。
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