142話 幻のニューフォルム
「──ガフッッ!!」
シャインが姿を消した。
そう木菟の脳が判断した次の瞬間、彼は腹部を殴られ、遥か後方へ吹き飛ばされた。
何本もの木をへし折り、大木の根元で落ち着いた。
腹部を押さえ、口から血を吐き出す木菟。
「何が、起こった……!?」
「何もカニもねぇぜィ。オレサマがお前を殴った。ただそれだけのことだぜィ」
いつの間にか目の前にいたシャインが嗤う。
木菟はようやく彼が目にも止まらぬスピードで木菟を殴り飛ばしたのだと理解した。
理解して、恐れた。
「ふはッ! お前いま、オレサマに恐怖したな! したよな! ふはは!!」
木菟の顔に浮かんだ恐怖の色を見て、シャインがゲラゲラと嗤う。
そんな彼を睨めつけ、木菟は翼を振るった。
鋭くとがった羽がシャイン目掛けて飛来する。
「──遅せぇなぁ」
一瞬、シャインの体が霞のように揺蕩った。
すると、木菟が打ち出した羽が全て彼の後ろの木に突き刺さる。
木菟を嗤う男の体に傷はひとつも無かった。
「まさか、今のを全て避けたのか!?」
「その絶望に打ちひしがれた顔、最高だぜィ!」
シャインの体が再び消える。
と思ったら、木菟は顔面を蹴り飛ばされていた。
地面と平行に吹き飛ばされる。
そして、吹き飛ばされた先でもう一度、今度は空へ蹴り上げられた。
「まだまだァ!!」
下、右、左、上、左、右、下────。
木菟の体があちらこちらに吹き飛ばされ、その度に彼は血を吐きだした。
何度目ともしれない衝撃の後、木菟は地面に叩きつけられたことを知った。
「あがァッ!!!!」
苦痛の声が叫ばれる。
喉には常に血の味が滞留し、上手く酸素を吸い込めない。
それでも木菟は立ち上がった。
「……お前、何故まだ立ち上がる? もう勝負は見えてんだろうがよ」
「……確かに、不思議だ。僕も少し前まではそう思っていたよ。──でも、今は違う。負けたく"ない"、死にたく"ない"はもう要らない。僕は生き"たい"、勝ち"たい"! ──ただ皆の役に立ち"たい"から僕はお前をここで倒すんだ!!」
木菟が渾身の羽ばたきで天井スレスレまで飛翔する。
風圧に動じず、木菟の動きを目で追ったシャインが額に青筋を浮かべる。
「そこまで言うならやってやらぁ。お望み通りぶち殺してやるぜィ!!」
「僕はプレイヤーだ。お前たちディクトには絶対に負けない!! ──《真呈霊鳥》」
木菟が翼で全身を覆い隠すと、淡い光に包まれた。
光の中で木菟の形が変化する。
一瞬の煌めき──しかし、光が消えた先にいたのは瞬刻前とは全く別種の怪鳥であった。
分厚い胸板、大きな翼。そしてツンと尖った鋭い嘴。
空気抵抗を極限まで減らすようにデザインされたその体はまさにハヤブサのようであった。
「『フォルム──幻鳥ハヤブサ』」
木菟が小さな声で呟いた。
スキルにより聴覚が強化されたシャインがそれを拾う。
「ハヤブサだァ? 突然光出した時は驚いたが、ほんのちょっと姿が変わっただけじゃねぇか。それでオレサマに適うと思ってんのか!?」
「──捕食者ってのは気づいた時には獲物を咥えているものだ」
「──あぁ?」
木菟はそうとだけ告げると、太くなった両足で空気を掴んだ。
空気はまるで宿り木のように従順に木菟の足場となると、ゴムのように緩くしなった。
木菟が翼を折りたたみ、空気のトランポリンを享受する。
空気のたゆみは徐々に大きくなっていき──そして空気がはち切れそうになったところで木菟は脚を放した。
「────」
──ビュンッと風を切り裂く音を置き去りに、木菟は目標を目掛けて急降下する。
シャインは遅れて木菟が攻撃に移ったことに気がついて即座に逃げようとする。
しかし、それよりも早く、木菟はシャインを捕まえた。
音速を超えた速さで飛来した木菟がぶつかった衝撃で地面に大きなクレーターが出来がる。
そんな衝撃のクッションにされたシャインはひしゃげた両足の痛みに耐えかねて悲痛な叫び声を上げた。
木菟が冷酷な視線で見下ろした。
「殺しはしない。でも、当分は大人しくしてもらうよ」
木菟は気を失ったシャインにそう告げると、植物園の出口へ向かった。
だが──
「──っ!?」
スキルを解除して人間の体になった途端、足の力が全て抜けた。
膝から地面に倒れた木菟に疲労がどっと押寄せる。
「これが……『幻鳥』フォルムの代償か…………」
使い慣れていないフォルムだったのもあって、疲労は一際強大だった。
気が遠くなる眠気に苛まれ、それでも木菟は仰向けになって空に手を伸ばした。
「頼んだよ……なつ、き……………………」
バタンと力泣き腕が地面を叩いた。
木菟vsシャイン。『植物園』の闘い。
勝者──烏野木菟。
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