141話 炎猿魔
捕食者の目をして駆け出したシャインは──しかし、木菟のいる方向とは全く別の場所へ走り出した。
「逃げるのか!?」
「バーカ! 場所を帰るんだよ! ついてきな!!」
シャインはお尻を叩いて挑発をする。
木菟としては別に追いかける必要性は皆無だったが、舐められっぱなしは癪だったため、彼の挑発に乗ってついていくことにした。
シャインが向かったのは、公園から走って五分くらいの位置にある植物園だ。
ここもモンスターの被害に遭い、本来の姿とはかけ離れた外観をしていたが、周囲の建物に比べると比較的原型を保っていた。
木菟はシャインが入っていった壊れた窓から中へ入る。
植物園というだけあって、中は木や草で生い茂っており、人工の森のようであった。
「どこ行った!? 出てこい!!」
「出てこいと言われて出ていく馬鹿がどこにいる!?」
森の中からシャインの声が響く。
それに伴って上や後ろや左右から草葉が擦れる音が聞こえてきた。
そして次の瞬間、木菟の真正面から何かが飛来し、彼の頬を掠めて行った。
「──ッ! ……今のは?」
「見ることさえ出来なかっただろう! おらおら! もっといくぜィ!!」
木菟が困惑していると、前後左右、至る方向から何かが飛んできて、木菟の肌を掠めて切り裂いていく。
しばらく我慢していると、真正面からもう一度攻撃が仕掛けられる。木菟はそれを捕まえた。
「これは……!?」
木菟が飛来物を捕まえた手を開くと、ベチャリとした液体が付着していた。
木菟はすぐにそれがシャインの唾液だと言うことに気がついた。
つまりシャインは唾液を弾丸のように射出していたというわけだ。
「気がついたみたいだな。だが、無意味だぜィ!!」
「それはどうかな──《真呈霊鳥》『フォルム──霊鳥ミミズク』!!」
飛来する唾液弾を前に木菟はスキルを発動させる。
彼の肉体が鳥のそれへと変化していき、体が一回り大きくなる。
霊鳥へと変身を遂げた木菟は翼で唾液弾をガードすると、次いで上空へと飛翔した。
「『森を見渡す霊瞳』!」
木菟の瞳が神秘的な輝きを帯びる。
すると彼の視界は植物園全体へ拡大し、視力は木々に生い茂る葉の葉脈さえ見分ける程強化される。
そして、それほど精密で広角の視野を手に入れた木菟にはちょこまかと動き回る物体の動きは容易に捕捉できた。
木菟の足の爪が鋭く光る。
「そこだあ──!!」
次の瞬間、木菟がある一点目掛けて急降下する。
そこは何も無い草むら。
しかし、木菟の足が地面に着く直前にそこに人影が現れた。
「なにィ──!?」
草むらに飛び込んできたシャインは、ドンピシャで襲いかかる木菟に驚いた。
驚いたのもつかの間。彼は木菟の鋭い爪に捕まり、地面に押さえつけられた。
シャインが唾を何度か飛ばすが、木菟はそれらを全て交した。
木菟が霊鳥化した状態のままシャインを睥睨する。
「キミ、降参した方がいいよ。キミのスキルは確かに強いけど、所詮は子供騙しだ。これ以上僕には通じない」
「──へっ。捕まえたのに喰わないとは、随分と余裕綽々だな。けど、勘違いしちゃいけねぇぜィ。捕食者はお前じゃなく──オレサマだってことをよお!!」
その時、シャインが突然大きく口を開いた。
今までの唾による攻撃では無い。何か別の攻撃。
嫌な予感が木菟の全身を駆け抜けた。
そしてその予感はすぐに的中した。
「喰らえ──『炎吼』!!」
大きく開いたシャインの口に火花が散り、直後に巨大な火の玉が生成される。
それはあまりに巨大で、木菟はシャインを押さえてつけておけなくなった。
木菟がシャインから足を放して逃げる。
僅かに遅れて放たれた火球は、先程まで木菟がいた場所を通り過ぎ、植物園の天井に当たり爆発した。
「今の攻撃は……なんだ?」
木菟はシャインのスキルを『唾を高速で射出する』ものだと考えていた。
しかしそれでは火を吹き出したことに説明がつかない。
もしその両者が同じスキルによるもので、どちらもまだスキルの一端の力でしかないのだとしたら。
「──ッ!!」
その時、強烈な悪寒が木菟の背中に走った。
彼が怯えて振り返ると、そこには奇妙な生物が鎮座していた。
長く伸びた両腕、筋肉質な太もも、くるりと巻かさった長い尻尾。
外見的特徴は猿のそれだが、奴の頭髪は燃え盛っていた。
炎を纏った猿。その表現が一番正しかった。
木菟がじっと猿を見つめていると、そいつは不敵な笑みを口元にうかべた。
「こいつがオレサマの真の姿だぜィ」
「お前は──シャイン!」
猿の口調を聞いて、木菟はようやくそれがシャインなのだと気がついた。
しかし、当の本人は被りを振った。
「オレサマは最早シャインじゃねぇぜィ。──『炎猿魔』サマ。そう呼ぶことを強制するぜィ」
シャイン──改め炎猿魔はそう言うと木菟の視界から忽然と姿を消した。
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