140話 追いかけっこ
「オレサマは『シャイン』。ライト様よりお前らにゲームの招待状を渡しに来たぜィ!」
木の枝に宙吊りでぶら下がる男が不敵に笑う。
ふざけた態度を取るシャインに那月が鋭い視線を向ける。
「お前が白仮面──いや、ライトの手下か!?」
「そうだと言ったら?」
「ぶっ飛ばす!!」
直後、那月が勢いよく駆け出した。
彼は枝にぶら下がるシャインにしっかり狙いを定めると、地面を蹴って飛びかかる。
対するシャインは、迫り来る那月を見て、あろうことか余裕そうな笑みを浮かべた。
次の瞬間、シャインは掴まっていた枝から手を放し、足でその枝を蹴っ飛ばす。
彼はその勢いのまま那月に接近すると、彼の額に手をついて跳び箱を飛ぶかのように押し出した。
空中で予想にない力を加えられた那月は体勢を崩して地面に落下した。
反対にシャインは、那月を利用して跳んだ勢いでジャングルジムに着地する。
彼はその上で胡座をかき、勝利の笑みを那月に見せつけた。
「へっ、他愛ないぜィ」
「んだとお!!」
シャインにおちょくられた那月が激昂して再び立ち向かおうとする。
しかしそれをシャインが手で制した。
「おいおい、オレサマはまだお前たちと戦うとは言っていないぜィ」
「……何? 戦わないなら俺たちに何の用があるんだよ!」
「だから最初に言ったはずだぜィ。──『ライト様からお前らにゲームの招待状を渡しに来た』ってな」
「ゲームですか……?」
珍しくめめが不快感を顕にして首を傾げる。
委員長としてクラスメイトのピンチにそのような提案をされたことが気に食わなかったようだ。
彼女の視線を受けたシャインはポリポリと頭を搔く。
「そう、睨むなって。こいつはお前たちのためを思ってのゲームなんだぜィ」
「僕たちのため?」
木菟が尋ねると、シャインはお尻のポケットからクシャクシャになった紙を取り出した。
そしてそれを音読する。
「えーとぉ……『ゲーム名は『追いかけっこ』。ゲームの内容はいたって簡単。私が用意した刺客を倒しながら翔くんを追いかける、ただそれだけ。でもそれじゃああなた達に有利だから制限時間は三十分ね。もしあなた達がこのゲームをクリア出来たら翔くんとお話する権利を与えましょう。ただしクリア出来なかったり、ゲームに参加しなかった場合は問答無用で翔くんを連れていきます。そうそう、その時は発信機も外させてもらうからそのつもりで。それじゃあけ……けん…………』……なんだこの漢字? ──分かんねぇから飛ばそ。『──を祈ります』……だってよ」
一部読み飛ばされた所があったが、大事な部分は聞き取れた。
故に那月達の顔に影が落ちる。
「ゲームに乗るって事は刺客との戦闘は避けられないって事だよ」
「けど、乗らないって選択肢は俺たちには選べない」
「そうですね、もし断れば翔さんを助けることは出来なくなります」
「僕の発信機もバレてるみたいだからね」
みんなが小声で会話をし、最後に那月の方を見る。
どうやら決定権は那月に委ねられたようだった。
やるもやらぬも那月次第。尤もどんな質問もどんな懸念も、那月にとっては愚問に雑念だった。
彼がニヤリと不敵に笑う。
「やってやるよ。元からそのつもりだったしな」
「へへっ! ゲーム成立だな!」
那月がゲームに参加する旨を伝えると、クシャクシャになって投げ捨てられていた紙が蛇に変わり、すごい速さでどこかへ這っていった。
現実では有り得ない光景にめめが目を丸くする。
「今のは一体……」
「んな事はどうでもいいだろ。それよりゲームはもう始まっているんだぜィ!!」
刹那、ぼうっと蛇の向かった先を眺めていためめの真横にシャインが立つ。
彼は拳を振りかぶって今にもめめを殴り飛ばそうとした。
気がついためめが回避行動を取るが遅い。
迫りくる拳。
──しかし、めめの顔の前でその拳は何者かの手によって受け止められた。
「なんのつもりだ!」
シャインの拳を受け止めた那月が彼を睨む。
シャインは那月の手を振り払うと、後ろに跳んで距離を取る。
「言っただろう。ゲームはもう始まっているって。つまり──オレサマこそが第一の刺客ってわけだぜィ!」
「ちっ! 汚ぇ野郎だ。さっきは戦わねぇなんてほざきやがってたくせによお」
「戦わねぇとは言ってねぇぜィ。オレサマは"まだ"戦わねぇと言ったんだ。勝手に勘違いしたのはそっちの方だぜィ」
「そうかい。だったら遠慮は要らねぇな!!」
那月が血が滲むほど強く握りしめた拳を振りかぶって、シャイン目掛けてかけ出す。
しかし、その足は三歩といかず踏みとどまった。
那月が目の前を睨む。
「どういうつもりだ──木菟」
那月の視線の先には木菟が、彼の行く手を阻むように立っていた。
木菟が怯えた表情で那月を見る。
「落ち着くんだ、那月くん。彼の挑発に乗ってしまったら、相手の思うつぼだよ」
「なんだと?」
「シャインはきっと本気では戦わない。わざとおちょくるような態度をとっているのも、妙に話を長くするのもきっと時間稼ぎのためだよ」
那月はこのゲームには三十分という短い制限時間があるのを思い出した。
そして危うく敵の罠にハマりそうになった自分を恨めしく思う。
「……だからってアイツがおいそれと俺たちを逃がしてくれるとは思わないぜ?」
「うん。だから──」
木菟は何かを決意した顔を見せると、くるりと那月達に背を向け、シャインの前に歩いていった。
敵の前に立ち、木菟は後ろの仲間たちに向けて言う。
「こいつは僕が引き受けるよ。みんなは気にせず翔くんを追って!」
「木菟、お前……」
「時間が無いよ! 急いで!!」
「──分かった! 死ぬなよ、木菟!!」
木菟の覚悟を受け、那月達はめめを先頭に匂いの向かった方へ走っていく。
その後ろ姿が見えなくなるのを目で追って、木菟はシャインに目を向けた。
「以外ですね。あなたが僕の仲間を逃がすなんて。てっきり邪魔をすると思ってました」
「オレサマはそんなんダセェ事はしねぇんだぜィ。もしあそこでアイツらの邪魔をしたら、それはお前の覚悟に泥を塗るってことだからな」
「本気で言ってます?」
「冗談だぜィ。本音は──タイマンこそが喧嘩の華型だからなぁ!!」
シャインが戦闘の構えを取る。
木菟も遅れてポーズを取った。
「オレサマはシャイン。お前は?」
「僕は木菟。烏野木菟」
「ミミズクか……獲物らしいいい名前じゃねぇか!」
直後、シャインが地面を蹴ったと同時に彼と木菟の戦闘が始まった。
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