139話 匂い匂い匂い匂い
翔を追って飛び出した那月達は日奏を先頭に進んでいた。
翔追跡の手がかりは彼が握っているため、那月達は先導に従う。
「それにしても酷いですね。住人の皆さんが無事だといいんですが……」
めめが崩壊した街並みを見て呟いた。
那月達が弾二四高校を出て初めに目にしたのは街だった頃の名残など全く感じさせない無惨な瓦礫の山だった。
音淵先生からモンスターが暴れているとの情報は得ていたが、それでも実際に目にすると絶望感が込み上げる。
幸いにもモンスター出現はプレイヤーが日本中で最も多いとされる弾二四市のみだったため、迅速な対応が取られた。
それでも先輩方が帰ってこないのを見ると、出現したモンスターがなかなか強力だったのだろう。
これがもし弾二四以外のところで起こっていたらと考えたらゾッとする話だ。
「住人の避難は先輩たちがやってくれている。俺たちは俺たちのやるべきをするんだ」
「あぁ。翔の野郎を取り返して、ついでにディクトも捕まえてやる!!」
「ちょっと、那月! 急に前に出ないでよ!!」
気張りすぎて急行しようとする那月を日奏が咎める。
すると、彼がぴくりと眉を動かした。日奏の足がおもむろに止まる。
「日奏?」
「──出てきた」
「白仮面がこっちの世界に出てきたのか!?」
突然立ち止まる日奏を訝しげに眺めた那月だが、彼の言葉を聞いて即座に反応した。
那月の言葉に日奏がうんと頷く。
「きっと彼女のスキルも万能じゃないんだよ。度重なる瞬間移動に、結界。更には翔くんを拘束した繭の生成にも魔力を貸していたみたいだから、スキルが使えないほどまでに魔力を消耗しているんだと思う」
「てことは今が捕まえ時って事だな!」
「──あ、待って! また動き出したよ!」
「すぐ追うぞ!!」
那月が日奏の手を引っ張って走り出す。
日奏が指示を出して、瓦礫の隙間の小さな道を縫って進む。
それからしばらく進むと、眼前に公園が見えてきた。
公園の中に入り、中央あたりで日奏が立ち止まる。
「ここだ。白仮面はさっきこの場所でこっちの世界に戻ってきたんだ」
「確認します。──『限定憑依──銀狐』」
めめがスキルを発動させると、彼女の小さな鼻頭がちょんと黒くなり、銀色の三本の尻尾がお尻から生える。
めめの変化を見た那月がゴクリと息を飲んだ。
そんな彼を颯がジト目で見る。
「まさかキミも天斗の系譜なのかい?」
「い、いやいや! なんの事だかさっぱりだぜ! ハハハ……」
那月はめめを愛でたい気持ちを必死に押さえつけた。
二人が会話している最中にめめが周囲の匂いを検める。
すると彼女は青い顔をした。
「おかしいです」
「おかしい? 何が?」
「翔さんを連れ去ったのは白い仮面の女性一人のはずですよね」
「あぁ、そうだが……それがどうかしたのか?」
「それが──この場所には二人の他にあと四つの匂いが充満しているんです」
四つの匂い。それが意味するところを察せない那月達ではなかった。
木菟が大きくかぶりを振る。
「ま、まさか。きっと何かの間違いだよ。ほら、避難した人達の匂いかもしれないでしょ?」
「いえ、匂いはこの場所に突然現れ、そして白い仮面の女性と同じ方向へ向かって伸びています」
「──なるほどな」
めめの説明を受け、颯が頷いた。
彼は皆に分かりやすく説明をする。
「白仮面は瞬間移動でモンスターを市内に解き放った。今度はそれを人間でやったって事だろう」
「つまり、増援を呼んだ……」
日奏が全員の考えていたことを代表して述べる。
全員の間に困惑の空気が漂った。
弱っている白仮面一人の追跡なら可能だが、そこに四人敵が加わるとどうだろうか。
それは当初の任務とは全くの別物なのではないのか。
全員がそのことを一度考える。
しかし、中には考えることをやめた男もいた。
「敵が増えようが、味方が減ろうが関係ねぇ! 俺は翔を助ける! そのためにここまで来たんだ!!」
那月はバカだから、細かいことは考えられない。
それでも時にはバカの発言が有効に働く時もある。
那月の言葉を聞いた面々の顔が明るくなる。
「……そうだな、俺たちが追うのを諦めたら翔はどうなるんだって話だよな」
「それに、プレイヤーになったらきっとこんな窮地は日常茶飯事なんだろうね。だから今のうちに慣れておきゃなきゃ」
「翔さんを助けて、みんなで無事に帰りましょう!」
「──今日の那月ってば、絶好調だね!」
「おうよ!!」
颯、木菟、めめが那月の意見に賛同し、もちろん賛同した日奏が那月に笑いかける。
那月は彼の言葉に元気よく返事を返すと、敵が向かった先を睨んだ。
「──しゃあ! 行くぜ!!」
「──待って!!」
那月が勢いよく駆け出そうとしたところで、めめが待ったをかける。
出鼻をくじかれた那月がめめを睨む。
「なんっで止めんだよ!!」
「ごめんなさい。──でも、もう敵さんはいるみたい」
「「「「──ッ」」」」
めめの言葉に男どもは瞬時に気を引きしめる。
めめが公園の脇に並ぶ並木道の方を睨んだ。
「そこにいるのは分かってます! 姿を見せなさい!!」
めめが叫ぶと、一瞬の静寂が場を満たす。
直後、木の葉がガサガサと音を立てて、そこから一人の男が枝にぶら下がって姿を見せた。
赤い頭髪に挑発的な目をした男だ。
彼は枝に宙吊りになった状態で那月達を睨んだ。
「お前、誰だ?」
那月が問う。すると、男はその質問を待っていたと言わんばかりに口の端を嬉々として歪めた。
「オレサマは『シャイン』。ライト様よりお前らにゲームの招待状を渡しに来たぜィ!」
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