138話 希望を紡ぐ仲間たち
「ありゃりゃ、ライトの結界破られたよ。これって打首じゃないの?」
「儀式で魔力のほとんどを使ったのよ。でもまさか学生に破られるとは思ってなかったな」
「御託はいいですから。彼、来ますよ」
結界が破られ、仮面集団も驚いた様子だった。
ゲナウの一言により、那月に意識を向けた三人は、予め相談しておいたフォーメーションを組む。
プレシとゲナウが前に出て、ライトが一番後ろである。
「それでは作戦通りに。くれぐれも失敗しないように」
「それはこっちのセリフだよ! アンタがミスしたらオレたちに被害が及ぶんだからな!!」
プレシに釘を打たれたライトが、那月に対して背を向けた。
彼女は黒い繭を担ぎ上げると、空間に手刀を放つ。
すると、空間がぱっくりと割れ、中に真っ白な空間が広がった。
「そう簡単に逃がすかよッ!!」
那月が拾い上げた小石にスキルを付与して投擲する。
小石は狙い通りライト目掛けて飛来するが、ヒットする直前に軌道上に現れたプレシによって叩き落とされた。
ふたつに分断された小石が地面に転がる。
プレシの手を見ると、両手にナイフを握っていた。
攻撃を弾かれた那月が唇を噛む。
「──うぉわ!? なんだ!?」
那月がライト目掛けて一直線に走っていると、彼の足元に黒い泥沼のようなものが出現する。
「私を忘れては困ります。──ほうら、サービスですよ!!」
泥沼はゲナウのスキルによるもののようだ。
彼が腕を振り回すと、泥沼は更に黒い腕のようなものを出現させ、那月の体を沈めようとしてくる。
「クッソぉ!!」
那月が泥沼に苦しむ間にもライトの体は断絶された空間の隙間に消えていく。
何とかして泥沼を抜け出して、プレシを交わしてライトに追いつかねば、翔を助け出すことは出来ない。
しかし、それを行うには那月には力が足りなさすぎた。
「──そうやって一人で悩むのはお前の悪い癖だぜ!」
ふと、那月の背後から声がした。
振り返ると、そこには赤い頭髪をした少年──紅蓮の姿があった。
「紅蓮……!?」
「力が足りねぇなら仲間を頼れ。そんでもって、全員でアイツらの顔面を殴ってやろうぜ!」
「──あぁ!」
紅蓮のアドバイスに那月が力強く賛成する。
すると、彼らの背後から続けて二人の人物が飛び出し、プレシとゲナウに攻撃を仕掛けた。
「体育祭の邪魔しくさりおってからに、お前ら全員ぶっ潰したるかんなァ!!」
「翔を……返して…………!!」
プレシに対して春馬が攻撃を仕掛け、ゲナウに対しては、珍しく怒りの感情を顕にした氷華がスキル攻撃を仕掛けていた。
春馬はさておき、氷華としては翔を攫われたことが相当頭に来ているようだった。
「そら、道は出来た。後は自分で行ってこい!!」
「いでッ!!」
紅蓮が泥沼に捕まっていた那月の背中を蹴りあげ、彼を沼から救い出す。
背中を思いっきり蹴られた那月は、紅蓮を後でボコすことを心に誓いながら、目標へ向けて駆け出した。
ライトは完全に空隙に姿を消した。
それでも空間の穴はすぐには消えない。
ジッパーを閉めるようにゆっくりと、しかし確実に閉じていく隙間。
那月は全力で走った。
「と──ど──けェ────!!」
那月が指の先までぴんと張った手を伸ばす。
足で地面を蹴り飛ばし、全身を槍のように伸ばす。
那月の指先が開いた空間の縁に触れた──しかし、そこで空間はピタリと閉じ、那月の腕は何も無い虚空を引っ掻いた。
「クッッソぉ────ッ!!」
那月の絶望の叫びが木霊する。
仲間に背中を押され、思いを託されたにも関わらず、最初の一歩でつまづいた。
那月はそんな自分への怒りを拳を地面にたたきつけ、痛めつける事で解消しようとした。
そんな彼の拳を誰かの手が優しく包み込む。
「……止めないでくれ、日奏。俺は俺を許せねぇんだ」
「自分を責める必要はないよ」
「俺は翔を救えなかった。みすみす逃がしちまったんだ!!」
「大丈夫だよ。──可能性の波はまだ凪いでいないよ」
日奏の言葉に那月が顔を上げる。
可愛らしい顔立ちの彼だが、今は凛々しい瞳を那月に向けていた。
日奏はまだ翔を追うことを諦めていなかった。
それなのに那月はたった一度つまづいただけで諦めようとしてしまった。
そんな自分に心底呆れて那月は乾いた笑みを浮かべる。
それから真っ直ぐ日奏を見つめた。
「聞かせてくれ、可能性の波ってやつを」
「うん。実は僕、翔くんの事が心配で彼に魔力を込めたバッチを付けておいたんだ。そのバッチは発信機のような役割で、僕の魔力に反応して波紋を返してくれるようになっている」
「つまり、追跡が出来るってことか!?」
僅かな希望が見え、顔を明るくする那月。
そんな彼とは反対に日奏は暗い顔をする。
「でもおかしな事に波紋はこの世界とは別の世界──裏世界とでもいうのかな、そんな所で広がっているんだ。だから、追いかけた所で翔に会えるのかは分からないんだ」
「──そんな顔すんなよ日奏。お前のおかげで翔を追いかけられるんだ。例えそれでアイツを捕まえられなくても、諦めずに追い続ければいつかは捕まえられるだろ。──お前が俺を立ち上がらせてくれたんだぜ、プレイヤー。だから暗い顔すんな」
「うん!」
那月が日奏の頭を撫でると、彼ははにかんだ笑みを浮かべる。
そうしてイチャつく二人の前に三人の生徒がやってきた。
「今の話、聞かせてもらいました」
「僕達も捜索隊に加えてくれないかな?」
「抜けがけはずるいんじゃねぇか?」
二人の前に現れたのはめめと木菟、それから颯の三人だ。
彼らの登場に那月は大いに驚く。
「お前らどうして……」
「どうしてもこうしても……俺たちだって翔の事が心配なんだよ。同じクラスの仲間だからな」
「それに人手は大いに越したことないんじゃないでしょうか。相手の力量は未知数ですし、敵が増えるとも限りません」
「僕らを連れてくメリットは大きいと思うよ」
三人の説得を受けた那月は、それでも思案していた。
そんな那月の背中を押す人物が現れる。
「黒滝、朱桜を含めたその四人を連れて行け」
「ね、音淵先生まで!? でも相手がどれだけ強いか分からないんですよ? 下手したら死ぬかもしれない……」
「プレイヤーを志す者が仲間を助けるために死を怖がるわけが無いだろ。それはお前も同じのはずだ。それに、味方が多い方が危険は減る」
「〜〜〜〜ッだァ──分かった分かったよ! みんなで行けばいいんだろ!!」
那月が熟考の末にそう結論を出すと、他の四人は顔を見合わせて笑った。
音淵先生が全員の顔をぐるりと見る。
「稲荷めめ、薫風颯、烏野木菟、朱桜日奏、そして──黒滝那月。お前らにはこれより白浪翔奪還の任務を与える。任務中ディクトとの接敵は避けられない。よってお前たちには一時的だがプレイヤーとしての身分を与える。その代わり──絶対に白浪を助けてこい」
「──あったり前だ!!」
音淵先生の言葉に威勢のいい言葉を返した那月は、共に翔奪還の任務を受けた仲間たちと共に闘技場を出ていった。
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