137話 繭を纏いし幼虫
仮面を被ったディクトが三人。彼女らの背後には翔が力なく倒れている。
敵の力は未知数。白い仮面を被った女がモンスターを召喚し、金縛りのような技を使うことは判明している。
しかしそれだけだ。モノクル仮面と、バツ目仮面のスキルは一切分からない。
対するは、弾二四高校の一年生とその担任教師が一人。
プレイヤーであるのは担任教師だけだが、彼は戦闘向きのスキルを持たない。
つまり、実質的な戦力は一年生の生徒だけという事だ。
これから始まる戦闘の勝利条件は優先度順に翔の奪還と敵の無力化。
どちらも戦力的に見れば厳しい条件だ。
それでも那月は笑っていた。そして声高々にバトルの開始を宣言した。
「──行くぞ!!」
『おぉ!!』
那月の声に反応して、生徒達が雄叫びを上げる。
全員が一斉に仮面三銃士を目掛けて駆け出した。
先頭にはもちろん黒髪の少年。
「──喰らえ!! 『外重────ぶべッ!?」
那月が魔力を漲らせた拳を振りかぶった。
その時、彼は目に見えない壁のような物に勢いよくぶつかった。
拳の魔力が霧散する。
那月が無様な姿を晒したのを見て、後ろを駆けていた生徒が失速。
A組副委員長の颯が透明な壁を叩いた。
「まるで壊れる気配がないね。なんだろうこれ?」
「うちの《結封》とも違う感じだにゃ」
二尾愛莉も自身のスキルと比較して目の前の透明な壁の正体を探るが、いい結果は出なかった。
生徒諸君が透明な壁に四苦八苦していると、白仮面が反対側から壁に手をついた。
「これは私のスキルで作った結界。誰であろうと通ることは出来ないよ」
「瞬間移動に金縛り、それに結界まで。一体お前はどれだけのスキルを持っているんだ?」
「さあ」
音淵先生の質問に白仮面は適当に答える。
その二人の問答を聞き流した那月が、壁を勢いよく叩いた。
彼の視線の先には翔が気絶しており、そこにゲナウが近づいていた。
「おい、お前! 翔に何をするつもりだ!!」
「何もしないわ。私たちは彼の成長の妨げになるものを排除するだけ。あなた達はそこで大人しく見ていなさい」
「テメェ……っ!!」
那月の憤慨した視線を受けた白仮面はそれを完璧に無視した。
彼女は背後を振り返ると、ゲナウの名前を呼んだ。
「準備はまだ? 早くしないと元気な子供が暴れ出すよ」
「言われずとも既に準備は完了しましたよ」
「そ。──それじゃあ、"しょーたいむ"ってね」
白仮面が良い慣れない言葉を言って、翔の傍に転移する。
仮面を付けた三人が翔を囲むように立ち、ゲナウを中心に手を繋ぐ。
両サイドのプレシと白仮面の体が光り、それは繋いだ手をパイプとしてゲナウの体に流れ込んだ。
「あぁ、なんと強大な魔力だ。これがあれば何でも出来そうだ」
「儀式に集中しなよ。失敗したら、オレ達の首も飛ぶんだからさ」
「ライトは例外でしょう? 飛ぶのは私とプレシ、あなただけです」
「二人ともうるさい。本当に失敗するわよ」
ライトに釘を刺され、プレシとゲナウは儀式に集中する。
三十秒弱もの時間が経ち、プレシとライトがゲナウから手を離す。
ゲナウは空いたで翔に触れると、蓄えた魔力を一気に放出した。
「──『黒蛹球』」
刹那──技の名を唱えたゲナウの手から黒い糸状の魔力が大量に放出される。
それは翔の体に巻きついて、徐々にその体を包み込んでいく。
──数秒後、三人の仮面集団の中心に黒い繭のような塊が出来上がった。
那月達の視線が黒い繭に注がれる。
「か……翔に何をしやがった──!!」
「だァ──もう、うっさいなァ! オレ達は何もしないって言っただろう!!」
「そう"私たち"は何もしない。でも、翔くんが変わりたいと願ったらこの繭はその手伝いをしてしまうでしょうね」
嬉々とした声音で告げるライト。
仮面に隠れて見えないが、その顔は邪悪な形に歪んでいることは容易に想像できた。
「白い仮面のあんただけは話の通じる奴かと思ったけどよ……。──やっぱりお前ら全員、最低最悪のディクトだな!!」
「最初からそう言っているでしょうでしょう?」
「あぁ、そうだな。そうだったな……」
ライトの返事を受け、那月の中で何かが吹っ切れた。
彼の手に身体中の魔力が集められ、それら全てを力いっぱい握りつぶす。
──振りかぶった拳。
──重力による加速。
──ありったけの力。
透明な壁に拳が直撃し、空間に亀裂が走る。
直後、ガラスが割れたような音と共に、透明な壁は粉々に砕け散った。
「テメェら全員、その顔面を仮面の上から殴りつけて、ひしゃげた泣きっ面を拝んでやるぜ!!」
那月の怒号が闘技場に響き渡った。
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