135話 重ね重ね地雷
試合の合図がされると同時、二人は駆け出した。
スキルなどは使わない単純な脚力。
両者譲らぬスピードで中央にて接敵。
互いの拳をぶつけ合い、反発──距離が生まれる。
「──《雷電》!」
「──《:重力》!」
後ろに飛ばされながら、翔がスキルを唱える。伸ばした右手の先に魔力が集まり、稲妻を形取る。
稲妻は照準を那月の心臓に定め、放たれる。
しかし、僅かに早く那月のスキルが発動。突如として加重された右手の重さに耐えられず、翔の腕が照準からずれる。
それと同時に稲妻が発射。那月のジャージの袖を割いて、遥か後方の壁に突き刺さる。
両者共に宙返りで着地。
間髪入れずに翔が雷を打ち出す。
「『百雷火』!」
「──ッ!!」
極大の雷が空中で弾けたかと思えば、百発の銃弾のように姿を変え、那月目掛けて発射される。
那月はそれらを持ち前の動体視力で避け切ると、翔の懐に入り込む。
「──おらァ!!」
「ぐぉ……ッ!」
那月の強烈な一撃が翔の腹部にクリーンヒット。
翔は思わず腹部を押さえて後退りをする。
そんな翔を見下ろしながら、那月は唾を吐いた。
「つまんねぇぞ翔! 本気でかかってこい!!」
「……お前こそ、何ぬるいパンチしてやがる。手心でもくれてやったつもりか?」
「そんなじゃねぇ。俺が本気で殴んなかったのは、それで終いにしたくなかったからだ。──俺は、本気のお前を叩き潰したい!」
那月が悪戯っぽく笑う。
すると、翔も口の端を僅かに緩めた。
どうしてか、那月といると翔は緩くなってしまう。
だからこそ、彼は唇を噛んだ。緩んだ頬を引き締めて、那月を睨む。
「その言葉、後から悔いても遅いからな」
「後悔は後悔した時に考える!!」
翔は一度大きく深呼吸すると、全身の魔力を激しく循環させる。
バチバチと体内から溢れた魔力が静電気となって翔の体の周りでスパークする。
そしてそれは段々と大きくなり、ついには爆発した。
「うぉわ!?」
那月が驚いて、後ろに下がる。
爆発の副産物として生まれた黒煙が、少年の視界から徐々に取り除かれていく。
全ての副産物が取り除かれ、その姿が顕となる。
自慢の金髪を静電気により浮かび上がらせ、全身をホリゾンブルーに発光させ、至る所からスパークを散らす。
まさに"雷を纏った"という表現がぴったりな姿の翔がそこにいた。
「──『迅雷の鎧』」
翔が小さくその技の名を呟いた──そう那月が認識した時には彼の視界から翔は姿を消していた。
「────ッ」
次に那月が翔を認識した時には、彼の拳が顔面の横に迫っていた。
那月が即座に反応し、迫る拳を受け止める。
そのまま腕を引っ張って、翔を上空へ投げ飛ばす。
「いッ……」
追撃を加えようとした那月が、苦悶の表情を浮かべる。
痛みの出処を確認すると、それは翔の拳を受け止めた手からだった。
手のひらには火傷のような痕が出来ていた。
「俺の体は雷を鎧に包まれている。雷に触れれば怪我をするのは当然だ」
「忠告感謝するぜ。つまり、直接殴らなければいいわけだな」
「何?」
翔が那月の言葉に疑問を抱くと、今度は那月が彼の視界から消えた。
次の瞬間、那月が背後に現れる。
──速い。
翔はそう思ったが、回避行動は取らなかった。
迅雷の鎧に攻撃は効かないのだから、避けることに意味は無い。
「──『外重拳・空撃』」
「なにッ!?」
翔の傲りは那月の一撃に打ち砕かれた。
那月の放った拳が、翔の背中を殴りつけたのだ。
吹き飛ばされた翔が地面で数度バウンドして静止する。
地を這う翔の頭上に黒い影が差し掛かる。
「お前が死に急ぎ野郎だとは知っていたが、これ程とは……」
「勘違いすんなよ翔。俺は死にてぇわけじゃねぇ。死ぬ気でやらねぇと勝てねぇからそうしてんだ。──それに、今回はどちらも見当はずれだぜ?」
「何?」
翔が顔を上げると、怪我どころか埃ひとつついてない拳を那月が胸の前で構えていた。
「何故って顔をしてるな。でも簡単な理屈だぜ。直接殴れないのなら、空気越しに殴ればいい」
那月は翔を殴る振りをして、空気を殴りつけたのだ。
那月の全力で持って殴られた空気は空気弾となって翔を攻撃したというわけだ。
聞いてしまえば、なんと呆気ないタネだろう。
翔は再び気が緩みそうになった。
それでも翔は唇を噛む。血の味が口内に広がった。
──不意に、彼の目の前に手が伸びる。
見ればそれは、那月の差し伸べた手であった。
「翔。俺はお前をライバルだと思ってる。そんなお前をこのまま"痛めつける"のは気が進まねぇ。だからよ──"降参してくれ"」
「────────」
痛めつける……?
降参してくれ……?
翔は目の前の男が何を言っているのか理解出来なかった。
痛めつけるとは、強者が弱者に向けて言う言葉だ。
降参してくれとは、勝者が敗者に向けて言う言葉だ。
では、ここでいう弱者とは誰だ? 敗者とは誰だ。
那月の目には同情の色が浮かんでいる。
あの時と全く同じ色。
こっちを見るな。
そんな目で見るな。
「────」
「翔……」
気がつけば、翔は那月の手を振り払っていた。
翔がゆったりとした動きで立ち上がる。
彼の口が小さく動いた。
「……けるな」
「?」
「ふざけるなァ!!」
翔の全身を再び雷が包み込む。
しかし、今度は鎧となるのではなく、翔を中心に全方位へ無差別に雷が放出される。
那月はそれを避けながら後退した。
「誰が弱者だ! 誰が敗者だ!? ──俺よりも弱いお前が俺に向かってそんな言葉を吐くんじゃねェ!! 俺が、俺こそが最強なんだァ!!」
まるで子供のように叫び散らした翔は、突然全身の力が抜けたようにだらりと腕を落とした。
それと同時に無差別に放出されていた雷が消える。
那月が怪訝そうに首を傾げた。
「か、翔……?」
「……殺す。殺す。殺す。殺す」
うわ言のように同じ言葉を繰り返す翔。
そこでようやく那月は翔の異変に気がついた。
彼の胸の辺りから黒い靄のようなものが溢れ出していたのだ。
那月が翔を助けようとして一歩踏み出すが、その時にはもう手遅れだった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス────────────、っ。」
溢れ出した靄が翔の全身を衣のように取り巻いて、それが全身に達したと思ったら、衣が翔の体に吸収される。
それと同時に、翔は体から魂が抜け落ちたように地面に倒れた。
「翔──!!」
那月が慌てて駆け寄ろうと走り出す。
しかし──
「──お邪魔しま〜っす!」
那月が翔の元へ向かおうとしたところ、彼の眼前に白地に赤いバツ目をペイントした仮面を被った人物が忽然と姿を現した。
あまりに唐突に出現した仮面の人物に、那月が驚く。彼は思わず走り出した足を止め、無防備にその場に立ち尽くした。
尤も、それが失敗だった。
「あれ────ッぐぁ……!!」
突如現れた仮面の人物が再び忽然と姿を消す。
直後、那月は腹部に強烈な一撃を受け、後方へ吹き飛ばされた。
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