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133話 夜闇に迷し双子


 父が言った。

 次の後継者はお前だ、と。

 弟が怒った。

 何故ですか、と。

 姉は戸惑った。

 同じく、何故ですか、と。

 父は言った。

 この世界は才能こそが全てである、と。

 弟は尋ねた。

 才能とは何ですか、と。

 父は答えない。

 代わりに母が答えた。

 恐らくスキルのことでしょう、と。

 弟が叫んだ。

 たかがスキルで僕が姉様に負けるはずがない、と。

 父は睨んだ。

 ならばやってみればいい、と。

 弟は笑った。

 それから姉の方を見た。

 手加減は無用です、と。そう言って、弟は突然姉に襲いかかった。

 姉は抵抗した。

 弟の顔が怖かった。

 何とかして弟の怒りを鎮めねばと考えた。

 力が溢れてきた。

 力が抑えられなくなった。

 力が弟を組み伏せた。

 姉は叫んだ。

 違う、今のは……。

 弟は涙を流していた。

 どうして、どうして──

 弟は姉を睨みつけた。

 どうしてお前なんかがそこにいる!!

 魂の叫びが道場の中に木霊した。



 目を覚ますと、全身に痛みが走り抜けた。

 立ち上がろうにも足に力が入らない。

 一体何があったのだろうか。

 朝日は逡巡する。すると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ちっ……手加減しすぎたか」

「玲生……? どうして……?」

「あぁ? どうしてだ? そりゃ、てめぇが憎いからだろうがよぉ!!」


 玲生の憎悪に満ちた顔を見て、朝日はなぜ自分がこの場所にいるのかを思い出した。

 そうだ、自分は玲生と戦って、やられ、気を失っていたのだ。

 だが、長い時間ではなかったらしい。試合はまだ決着していない。

 闘技場に続く階段から今にも駆け出しそうな審判を睨みつけ、朝日は立ち上がる。

 彼女の頬に一筋の涙が流れ落ちた。


「お前……何泣いてんだ?」

「──思い出したんだ。あんたとの幸せな日々を。それが崩壊した日を。そこから続いた色のない日々を」


 朝日は自分が弱い人間だと自覚している。

 それは力がないという意味ではなく、心の強さが足りていないという意味だ。

 弱い人間に何かを変えることはできない。誰かの人生に干渉する権利を持たない。

 それでも変えたいものがある。干渉したい人生がある。

 だったら──


「──だったら、強くなるしかないでしょ!」


 朝日は拳をかってないほど強く握りしめる。

 そしてそれを玲生の方へ向けた。拳から滴る鮮血が闘技台を赤く染める。


「強くなって、それであんたを連れ帰る。姉弟喧嘩は今日で終わりよ!!」

「……あぁ、終わらせてやる。──お前の死を持ってな!!」


 朝日と玲生が同時に地面を蹴りつけた。

 反動で前方へ進んだ二人は、瞬く間に接触する。

 朝日の全身全霊のストレートを、同じく全力の玲生の拳が迎え撃つ。

 一瞬の拮抗。

 しかし、朝日が押し負ける。


「隙あ──」


 がら空きになった朝日に追い打ちをかけようとした玲生。

 しかし、その前に彼の顎を朝日が蹴りあげた。

 蹴りあげた足の勢いで一回転した朝日が綺麗に着地する。

 対して、不意打ちを食らった玲生は尻もちをついて静止した。


「……ずっと思ってた。あ父さんの後を継ぐのは、私じゃなくて玲生の方がいいって。でも、私臆病だから……お父さんに怒られるのが怖くて言い出せなかった」

「…………」

「でも、玲生が一緒なら私は勇気を出せる気がする。だからね、玲生。──私と一緒にお父さんにお願いしよ?」

「…………」


 朝日の言葉を玲生は地面に尻もちをついた状態のまま聞いていた。

 俯いた顔からは彼女の言葉が伝わったかを判別する方法はない。

 それでも朝日は信じていた。

 弟は裏切られたショックで殻に閉じこもっているだけだと。殻を破ってあげれば、あの頃と変わらぬ笑みを見せてくれるはずだと。

 ──そう、信じていた。


「……うるせぇ」


 しんと静まり返った闘技場におどろおどろしい低音が、どろりと浸透する。

 声を呟いた少年は、ゆらりと陽炎が揺れるがごとく立ち上がる。


「うるせぇうるせぇうるせぇ!!」

「玲生……」


 玲生は癇癪を起こした子供のように喉を潰す勢いで叫ぶ。案の定喉を痛めたのか、彼は数度咳を吐いた。

 そして、玲生は朝日を睨む。

 あの日に宿したあらゆる負の感情を浮き彫りにしたその瞳に朝日をじっと閉じ込める。

 それを見て、朝日は己の言葉が届かなかった事実を理解した。


「──玲生! 私を信じて!!」

「うるせぇって……言ってんだろが!!」


 玲生の足に何やら揺らめくものが見えたと思ったら、次の瞬間朝日は腹部を殴りつけられていた。

 重たい衝撃が背中から抜けていき、それでも抜ききれない分が血となって口から吐き出される。


「あぐ…………」


 朝日の意識が真っ白になって飛ぶ。

 彼女は何とか堪えようとしたが、それは気絶までの延命にしかならなかった。

 薄れゆく意識の中、朝日は必死に玲生に対して手を伸ばした。

 だが、玲生がそれを掴むことはとうとうなかった。


「……今更何を言っても遅ぇんだよ」


 吐き捨てるように言った玲生が闘技場の出口に向かう。

 その背中を見つめながら、朝日の意識はぷつりと途切れた。


 その後、審判役を務める教師が朝日の戦闘継続は不可能と判断し、試合は終了された。

 観覧席から見えるモニターには、来栖を背負った少年の名前が勝者として映し出されていた。


本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。




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また、【いいね!!】を頂けると次話制作の励みになります!!




またまた、感想なども思った事を書いて頂けたら私の人生の励みになります!!!



何卒よろしくお願いします。


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