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131話 邪道


「よう朝日。お前の全てを奪いに来たぜ」


 眼前の少年が不敵な笑みを浮かべてそう言った。

 少年の名は来栖玲生。朝日の弟であった。


 朝日の顔に影が落ちる。


「……玲生、どうして……」

「……どうして? 理由はお前が一番分かってるはずだ」

「──ッ……!」


 玲生の鋭い目に睨まれて、朝日は心臓に針を刺したような痛みを感じた。

 朝日が目を逸らすと、玲生は大きなため息を付いた。


「……親父は何故こんな腑抜けを選んだんだか」

「……」

「朝日、構えろ。試合が始まるぞ」


 玲生はそう言うと、左手を腰の横に溜め、右手を顔の前に構えた。

 朝日はそれを見て、再び胸に痛みを感じた。


 玲生に言われた通りに、朝日は構えを取る。来栖流の構えを取る。

 しかしそれは先程玲生が見せた構えと全く同じものだった。


 両者が構えた状態で睨み合う。

 直後、試合開始の合図が成された。


「はぁぁぁ!!」


 初めに動いたのは玲生だった。

 彼は瞬く間に朝日の懐に入ると、左手の掌底を繰り出した。


 だがこれは朝日にも見えていた。彼女は同じく左手の掌底を繰り出すと、玲生の攻撃を的確に弾いた。


 しかし──


「グハッ──!?」


 直後に左の脇腹に強い衝撃が走り、彼女は呻き声を上げながらその場に膝を付いた。

 何が起きたのか分からず、脳内がパニックになる。


 何とか呼吸を整えて、朝日は玲生を睨んだ。


「……どうして攻撃をやめたの。絶好のチャンスだったのに……」

「絶好のチャンス? そんなの作ろうと思えば何度でも作れるさ。……言っただろう? 俺はお前の全てを奪う。そのためにまずはこの試合で時間をかけてお前に敗北を刻み込んでやる」

「…………っ!」


 玲生の冷酷な目から逃れるように、朝日は地面を蹴って彼と距離を取った。

 もう一度構えを取る。


「……っち! お前のその形だけを取り繕った構えには吐き気すら催すぜ」

「本当に形だけかどうか、確かめて見なさいよ」

「──!!」


 朝日が挑発すると、玲生は額に青筋を浮かべて距離を詰めてきた。

 朝日は彼が懐に入るタイミングを待つ。


 まだ、

 まだ、

 まだ……


「──今っ!!」


 玲生が懐に入った瞬間、朝日の拳が真っ直ぐ彼の顔を目掛けて放たれる。

 玲生は勢いよく走ってきた。避ける余裕はない!


「……気持ち悪ぃ」


 朝日の拳が玲生の顔面にクリーンヒットする直前、玲生が小さく呟いた。


 刹那、朝日の拳には確かな感覚が伝わって──ズレた。


「ぇ…………?」


 朝日の口から小さな声がこぼれる。

 目の前には玲生の顔があった。


「キャッ……!」


 バランスを崩した朝日は前のめりに倒れそうになる。

 しかし、そんな彼女の体をあろうことか敵であるはずの玲生が受け止めた。


「あ……ありが──っガ!!」


 朝日が感謝の言葉を述べようとすると、お腹に重い一撃が加えられた。

 朝日が膝から崩れ落ちる。


 息が上手くできず、腹には絶えず痛みが響いた。

 涙目になりながらも、朝日は玲生を睨んだ。

 彼はつまらなさそうに朝日を見つめていた。


 玲生の足が動き、朝日の顔面を蹴り飛ばした。


「あが……!!」


 闘技場の上を転がった朝日は舞台の端ギリギリで仰向けになって停止した。


 ▼


 試合を眺めていた日奏はその一方的な流れについ目を瞑りたくなった。

 しかし彼はそれをしなかった。それどころか彼の目は試合に釘付けになっていた。

 それは何故か。

 それは玲生が見せた動きが原因だった。


「あれは、あの受け流しはどう見ても……水風流の捌き方だ……」


 朝日が玲生の顔面に拳を放ったあの場面。

 あの瞬間に、朝日が殴ったのは玲生の顔ではなく腕。

 そして、玲生は腕を殴られた直後に腕の角度を僅かに変え、朝日の拳の流れを誘導したのだ。

 重心をずらされた朝日はそのまま倒れていったという訳だ。


 そう、そして玲生が見せたこの『流れを誘導』というのは日奏が修める水風流の基礎に当たる部分なのだ。


「分からない。どうして玲生が水風流を……?」


 玲生の修める武術は確実に来栖流だ。それは最初の構えから見て間違いない。

 それにその後に見せた動きも来栖流の模範的な初手の攻め方だ。


 だが受けの時は水風流の片鱗を見せる。


「もしかして……」


 日奏はふとその可能性に想い至った。

 しかしそれは日奏が知る彼が絶対にしないだろう選択だ。

 そしてなにより、その選択は──


「邪道だ」


 日奏はそう呟くと、闘技台の上に立つ玲生に目を向けた。

 すると丁度、玲生も日奏の方を向いていた。

 目が合うと、彼は不敵な笑みを浮かべた。


 ぞわりと悪寒が日奏の背筋を走り、それと共に憶測は確信に変わった。


「……来栖流に水風流を取り込んだのか……!?」


 日奏の呟きは誰にも聞こえなかっただろう。

 しかし、日奏が気づいたことに玲生は気づいたようだった。

 彼は笑みを更に濃くすると、朝日の方へ目を向けた。


 日奏は拳を強く握ると、横になったまま動かない朝日をじっと見つめた。


「頼む朝日。ソイツを何としても倒してくれ。邪道では三大武術に勝てないってことを証明してくれ!!」


 日奏の願いは届いたのだろうか。

 彼がそう願った直後に朝日は立ち上がった。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


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