130話 来栖という呪い
観覧席へやってきた紅蓮、木菟、ルナの三人は那月達のグループに合流した。
那月の隣に紅蓮が座り、その隣に木菟、ルナと続いた。
那月が木菟の顔を覗き込む。
「木菟、残念だったな。あとちょっとでコイツを倒せたのに」
「何があとちょっとだよ。俺はまだまだ余裕を残してたんだぜ」
「へぇ? その割には木菟が倒れた時にスゲェほっとしてたみたいだけど?」
「んなっ……事ねぇよ!!」
那月に指摘された紅蓮は図星だったようで、大きな声を出してそれを否定した。
那月がニヤニヤと紅蓮を見て、紅蓮がそれを睨みつける。
そんな茶番を見せられた木菟は真剣な横顔を見せた。
「……紅蓮は本当に強かったよ。僕は手も足も出なかった」
「何言ってんだ? 臆病なお前が紅蓮を相手に全力を出しただろ。スゲェかっこよかったぜ」
「そうかな?」
「おう」
「そうか……。もしそう見えたのなら、それは彼女のお陰だね。ルナがいなかったら僕は紅蓮くんに一矢報いようとは思わなかった」
そう言って木菟は隣に座るルナに目を向けた。
那月も彼女に目を向け、首を傾げた。
「そういえばなんでソイツがここにいるんだ? お前、Bクラスだろ?」
「わたしは木菟と一緒にいるだけ。木菟がBクラスの観覧席に行くなら、わたしもそこに行く」
キッパリと断言したルナ。彼女は木菟の腕に自身の腕を絡ませると、ここから頑として動かないという姿勢を見せた。
それを見た那月は手をヒラヒラ振った。
「まぁ、どうでもいいや。それより次の試合が始まるぜ。対戦相手は……日奏先生!!」
「あはは……結局僕が解説役なんだね……」
那月に説明を頼まれた日奏が苦笑する。
不承不承というスタンスを見せた彼は、しかしコホンと咳払いをして、詳しい説明を始めた。
「次の試合は僕の中では一番注目の試合なんだ」
「日奏が注目? なんで?」
「次の試合は朝日が出る。でも僕が注目してるのは彼女じゃない。僕の注目はその相手──来栖玲生にあるんだ」
「来栖……。来栖って朝日と同じ苗字じゃねぇか!」
那月の叫びに、日奏が小さく頷いた。
「来栖玲生。彼は朝日の双子の弟だ」
「双子!?」
「弟!?」
那月と紅蓮が驚いた声を上げる。
二人の反応は特に顕著だったが、その周りにいたAクラスの面々も大なり小なり驚愕の表情を浮かべていた。
日奏が説明を続ける。
「知っての通り来栖家は三大武術のうちの一つ『来栖流』の本家に当たる。あの二人はその来栖流現師範の子供なんだ」
「…………」
「僕の修める水風流は師範と勝負をし、勝った人が次の師範となる。けれど来栖流は来栖家を代表する武術ということもあって、代々来栖家の長男にその座を継承してきたんだ」
「……つまり、次の師範はその玲生って奴なのか?」
「……」
那月が尋ねると日奏は言葉を詰まらせた。
それからまだ誰も居ない闘技場を見て、静かに首を横に振った。
「……それが違うんだ。現師範が次の師範に選んだのは玲生じゃなくて──朝日だったんだ」
「なんだって!?」
日奏の衝撃のカミングアウトに紅蓮が大きな声を上げる。
日奏はそちらを一瞥して申し訳なさそうに話を続けた。
「もっとも師範だって最初は玲生を次の師範に見据えて修行をつけていたんだ。けれど二人が五歳になった時、転機が訪れた」
「転機……?」
「五歳。それは俗にスキルが安定する時期と言われている。そしてその時になると必ず行われるものがあるだろう?」
「……スキルレベル確定検査」
「そう。いわゆるスキルの強さと名前を調べる検査だね。特殊な魔道具を使って調べるんだけど……ってこれはみんな知ってるよね」
魔道具の説明を省略し、日奏は朝日と玲生に起きた問題の答えを述べた。
「その検査で問題が起きたんだ。それは、朝日の方が強力なスキルを持っていたということだ」
「朝日のスキルは《武神》だったよな? 玲生って奴はなんなんだ?」
「レイくんのスキルは《ブジン》だよ」
紅蓮の質問に答えたのは木菟の隣に座るルナだった。
彼女の言葉に紅蓮が首を傾げた。
「《ブジン》? それじゃあ朝日と同じじゃねぇか?」
「いいや、違うんだ」
紅蓮の疑問に日奏が首を振る。
「朝日のは《武神》。武の神と書いて《武神》だ。けれど玲生のは武の人と書いて《武人》なんだ」
「《武神》と《武人》……。なるほどな、こりゃあ面倒だ」
「そう。師範の座は代々来栖家長男に継がれてきた。伝統を守るなら玲生が次の師範となる。しかし最近の来栖流は三大武術の中でも最弱と呼ばれ、門下生の数も年々減ってきていたんだ。現師範は悩んだだろうね。来栖流の過去に倣うか、未来を信じるか」
「……そして師範は未来を選択した……」
日奏は何も言わなかった。しかし、その沈黙が答えだった。
つまり師範は朝日のスキルを信じて、次の師範を朝日に決めたのだ。
だがこれは紅蓮も言った通り面倒な問題だ。
「……じゃあ、玲生くんは朝日に師範の座を奪われた……という事かい?」
木菟が恐る恐る尋ねる。
日奏は小さく頷いた。
「僕は試合の舞台で何度も来栖流と戦ってきた。五歳までは決勝戦の相手は必ず玲生だった。けれど、それ以降は玲生の代わりに朝日が決勝に上がってきたんだ。玲生は師範の座を奪われたばかりか、試合にさえ出させて貰えなくなったんだよ」
「来栖流の次期師範を朝日だと喧伝するためか……」
「そう。……だから、玲生がこの学校に入学したことを知った時は驚いたよ。来栖家が玲生が活躍する場を用意するとは思えなかったからね」
「……」
「僕はすぐに玲生に会いに行った。久しぶりの再開に胸が弾んでいたよ。……けれどかつての玲生はもういなかった。そこに居たのは復讐の炎に身を焼いた悪魔だったんだ」
日奏がそう言うと、タイミングを見計らったかのようにアナウンスが流れた。
スピーカーから羽攘先生の元気な声が放たれた。
『それじゃあ、第四試合選手! 来栖朝日! 来栖玲生! 闘技台の上に上がれ!!』
スピーカーの木霊が消えると、両端に設置された階段から二人の少年少女が闘技台の上に登った。
観覧席から溢れんばかりの拍手喝采が鳴り響く。
そんな中、日奏だけは浮かない顔でその二人を眺めていた。
「どうか、最悪の結果だけは……」
日奏がそう祈る中、戦いの火蓋は切って落とされた。
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「よう、朝日。お前の全てを奪いに来たぜ」
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