127話 再翔
紅蓮の刀が振り下ろされる。
死ぬ訳でもないのに、走馬灯が走る前のスローモーションが訪れる。
思考が加速し、記憶が甦る。
──そういえば、僕はどうしてプレイヤーになりたかったんだっけ──
物心ついた時からプレイヤーになりたかった。
あれはテレビでやっていた特撮で、本物のプレイヤーではなかったけれど、子供の頃はそれをプレイヤーだと思っていた。
名前を呼ばれただけで困っている誰かを助けに行く。
そんなプレイヤーがかっこよかった。
──僕もそうなりたいって思ったんだっけ……
──いや、違う。もっと何か、別の何かがあって……
──いや、もうよそう。どうせ、これで終わりだ。
木菟はそこで思考を停止させた。
紅蓮の刀がすぐそばまで迫っていたのだ。
時間はもうない。
木菟は最後に覚悟を決めると、心中で別れを告げた。
──さよなら、僕のプレイヤーライフ──
木菟はせめて最後くらいは見届けようと、紅蓮の剣の軌跡を目で追った。
徐々に迫る銀の光。それは木菟の額に吸い込まれるように近づき、そして──
「──ミミズクぅぅ!!!! 負けるなぁぁぁ────!!!!」
──その時、甲高く幼い声が闘技場に響き渡った。
それと同時に紅蓮の大剣がぴたりと止まる。
木菟はぎこちない動きで声の方を向き、そこに見知った顔を見つけた。
「キミは……」
そこにいたのは目尻に大粒の涙を浮かべた少女。ミミズクのパーカーを着込み、しかしフードは外れ、亜麻色の髪の毛が彼女が鼻をすする度に揺れていた。
そこにいたのは隣のクラスの生徒である夕凪ルナであった。
彼女は木菟と目が合うと、もう一度大きな声で叫んだ。
「ミミズクぅぅ!! まけるなぁぁぁあああ!!!!」
彼女の大声がしんと静まり返った闘技場に響き渡る。
響き渡り、木菟の胸に何度も何度も反響した。
木菟はルナを見つめたまま、しかし瞳を僅かに逸らす。
木菟はルナの声援には応えられない。
彼の心は折れてしまったのだ。
もう二度と空へは戻れない。
彼の翼は折れてしまったのだ。
──だからもう、放っておいてくれよ……
木菟は心の中でそう呟いた。
しかし、それがルナに聞こえるわけもない。
だが、彼女はそれを感じ取ったようだ。
声を抑えて、木菟に聞こえる声で言う。
「ミミズクが困ってるなら、わたしは助けるよ」
「……どうして……?」
「ミミズクがわたしを助けてくれたから」
ルナの言葉に木菟はポカンと口を開いた。
木菟にはその心当たりがないからだ。
彼女と出会ったのは今朝が初めてのことだ。
そして、今日の種目の中で木菟は彼女を助けた覚えがない。
つまり、彼女の勘違いだ。
違うミミズクと勘違いをしているのだろう。
「僕はキミを助けてない」
「助けてくれた。ミミズク、覚えてない?」
「……そんなこと……いつ……だいたい僕とキミとは今日が初めてで…………」
「ううん。ミミズクはわたしを助けてくれた。わたしがまだ小学生になる前に」
「しょう、がくせい…………」
その単語を聞いて、木菟の記憶がズキリと痛んだ。
──そういえば、小学生になる前に、ちょうどほんの少し前に何か、誰かと会ったような……
ズキリ
──そうだ。誰かが困っていたんだ。泣いていたんだ。同い年の子供だ。小さい子供だ。女の子だ。名前は、名前は……
ズキリ
──そうだよ。僕はその子と何かを約束したんだ。なんだったっけ……
ズキリズキリ
──とても大切な何か……。それがあって僕はプレイヤーになりたいと思ったんだ。そうだ、それで僕はプレイヤーを目指して
ズキリズキリ、ズキリズキリ……
頭痛が段々と酷くなる。耳鳴りがして、目眩がして、その度に記憶が蘇って。
今がひっくりがえって、過去が零れて、浮かび上がって、また今になる。
ぐるぐるぐるぐる目眩がする。
それでも思い出せない。何かが足りない。
何かが……
「……木菟。わたしを助けて……」
その瞬間。木菟の中で全てが繋がった。
同時に鮮明になる記憶。
思い出される約束。
──僕はキミのプレイヤーになる。困った時は僕の名前を呼ぶといい。僕の名前は────
「木菟」
はっと、顔を上げる。
声のした方に顔を向けると、そこにはルナがいた。
だが、もう見知らぬ彼女では無い。その顔には面影があった。
かつて木菟が助けた少女の面影が。
彼女は木菟の目をじっと見つめると優しい笑みを浮かべた。
「もう一度羽ばたいて。わたしのプレイヤー。あなたの名前は──
──ミミズク」
その瞬間、今まで木菟の胸中を埋めつくしていた不安や恐怖といったマイナスの感情が一瞬のうちに消え去った。
そして、どこか深いところから湧き上がるナニカ。
ドクドクドクドクと溢れて溢れて────
《ーー条件を満たしました》
《ーー個体名『カラスノ ミミズク』の申請を確認》
《受理》
不意に彼の脳内にそんな声が聞こえてきた。
続いて新たなスキルの名前も。
それを聞いて木菟は立ち上がる。
目の前の紅蓮が不敵な笑みを浮かべた。
そんな彼を真正面から見据えて木菟も笑う。
「……臆病は消えたか?」
「ううん。……でも、もう逃げない。僕はプレイヤーだから」
「そうかよ」
そう言うと、紅蓮は後ろに跳躍し、木菟との距離をとる。
それを見て、木菟は構えを取る。
そして、紅蓮に宣戦布告した。
「さあ、勝負だ!!」
木菟は叫ぶと、続けてもう一度声を張り上げた。
「《真呈霊鳥》!!」
彼は覚醒したスキルを発動させた。
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