125話 木菟を狩る剣士
闘技台に向かう途中。
木菟は入学して直ぐに行われた模擬試合の際に、音淵先生に言われた言葉を思い出していた。
──お前はいつまで飛べないヒナでいるつもりだ?
──もし、このままお前がヒナのままでいるつもりなら、この場所はお前に向いていない。それはお前も分かっているはずだ。
──それでもお前がここに居たいと望むなら、プレイヤーになりたいと願うなら。地面に縋るのを辞めろ。
──その先に行けるかはお前の努力次第だ。
音淵先生は分かっていた。
木菟という男の本性を。その上で彼をこの学校から無理やり追い出すことはしなかった。
それは木菟を信頼しているからだ。ヒナが成鳥になれると信じているからだ。
きっとそれは初対面だった枷鎖先輩も同じだろう。
──弱気な羽ではいつか風を掴み損なうぞ。
その言葉は木菟の心の奥にぐさりと刺さった。
風を掴み損なうという表現。それは他の人であればただの比喩表現に過ぎないが、木菟に限っては絶望を意味する表現だ。
彼の存在意義は空を飛べるという一点。それを一度でも失えば、きっと彼の性格上再び羽を振るうことは出来ないだろう。
それを見越しての言葉だとしたら、彼は生徒会長になるべくしてなった人間だと、木菟は今になって思った。
そうして二人の言葉を思い出していると、いつの間にか闘技台は目の前にあった。
光と影の境が、木菟の体を通すまいと立ちはだかる。
木菟は喉に詰まるナニかを飲み込むと、勇気を振り絞って廊下を抜けた。
たちまち響き渡る歓声。
その圧に圧倒され、木菟は闘技台に登る前に足を止めてしまう。
そうして、観客席を眺めていると、闘技台の上から声がかかった。
「登れよ、木菟。待ってたぜ」
「紅蓮くん。ごめん、待たせた」
紅蓮に名前を呼ばれた木菟は慌てて闘技台の上に登る。
すると、紅蓮は居心地悪そうに頭を搔いた。
「あー、その紅蓮くんっての止めね」
「え?」
「これから全力で戦う仲だ。紅蓮でいいぜ」
「……うん。分かったよ、紅蓮」
「へっ、そう来なくっちゃ」
紅蓮が不敵な笑みを浮かべる。
その顔があまりに楽しそうで、木菟は少し後ろめたい気持ちになった。
しかし、直ぐにその雑念を振り払い、木菟は真正面を見据えた。
燃えるように赤い瞳が木菟を映している。
彼は木菟との戦闘を心から楽しみにしている。その期待に答えなきゃいけない。
木菟は紅蓮の瞳をじっと見つめてそう誓う。
アナウンスはもうそろそろ終盤。これから木菟の紹介が行われた、その後すぐに試合が開始される。
木菟は焦る気持ちを落ち着かせる。
空気が重く感じる。
今日は飛べるだろうか。
風は掴めるだろうか。
「うん、大丈夫。僕はまだ飛べる」
独り言のように呟いた言葉。それは紅蓮には聞こえてないはずだ。
木菟がそう呟いた直後、アナウンスの声が一瞬止み、そして──
『第三試合──開始!!』
試合が始まった。
▼
「行くぜ!」
紅蓮は叫ぶと、腰の大剣を引き抜いた。
赤い軌跡が宙を走り、切っ先が木菟を捉える。
そして紅蓮が地面を蹴り、瞬く間に二人の距離が縮まっていく。
「わわわ、ちょっと待って!」
「タンマは無い!」
慌てふためく木菟を無視して紅蓮が刀を下段に構えた。
そして、そこから逆袈裟に刀が振るわれる。
「ちょ、《鳥人》!!」
しかし、その前に木菟がスキルを使って鳥人化し、空中に逃げた。
紅蓮の刀が空を斬る。
刀を肩に担いだ紅蓮は空を翔ぶ木菟をきっと睨んだ。
「おい、逃げんな!!」
「ちょっと待ってって言ったじゃないか!」
「んなもん、試合じゃ通用しねぇって! ほら、降りてこい!!」
空を飛べない紅蓮はただただ地面で地団駄を踏むだけだ。
それを見て、木菟は大きく息を吐いた。
「そんなに言うなら、僕から行かせてもらうよ!!」
木菟は空を向くと、更に天高く飛翔した。
ぐんぐんぐんぐんと昇っていく木菟は、紅蓮の目からはもう親指の爪くらいの大きさになってしまう。
そこで止まった木菟は下を眺めて、また息を吐いた。
「紅蓮! 覚悟してね!」
「来い! 木菟!」
「──『バードストライク』!!」
木菟は空中で一度強く羽を羽ばたかせると、そのまま下に直下する。
羽を閉じ、全身を一本の棒のように伸ばした彼は重力に従って、落ちていく。
「『魔剣解放──炎上烈火』!!」
地上では紅蓮が魔剣に赤い炎を纏わせて、下段にそれを構えている。
その紅蓮めがけて木菟は真っ直ぐ突進する。
鋭い嘴が紅蓮に照準を定めた。
「はぁぁぁあああ!!!!」
「っっっっ──!!」
紅蓮の咆哮と木菟の静かな叫声が重なり、両者の距離がぐっと縮まった。
紅蓮が刀に乗せた手に力を込める。
木菟はそれを見て、力強く目を閉じた。
徐々に縮まる両者の距離。そしてついに、互いの懐に入った。
「────ッ!!」
「──『英蓮鳳凰』!!」
木菟が羽を広げ、紅蓮の刀が振るわれる。
そして、周囲に静寂が走った。
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