123話 無傷のヒト
『い、一発KO!? 第一試合の勝者はーー黒滝那月だああ!!』
アナウンス兼実況の教員の声が闘技場いっぱいに響き渡る。
それに続いて場内に盛大な拍手喝采が沸き起こった。
「……きゅー…………」
泡を吹き、白目をむいている徹に背を向けると、那月は闘技場を後にする。
そして入場の時にも通った廊下に戻ると、拳を突き出した日奏が待ち構えていた。
「那月! ナイスファイト、だよ!!」
「おう!」
日奏の拳に己の拳をぶつける那月。二人は顔を見合わせて笑うと、一緒に控室に戻った。
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控室に戻ると、まず拍手が那月を出迎えた。
「さっきの一撃すごかったよ」
「見ててスカッとしたぜ!」
「うん、とても凄かった」
朝日、紅蓮、木菟の順で声を掛けられる。
周りを囲まれた那月は一瞬戸惑ったが、すぐに当然と言わんばかりに胸を張った。
「俺はいずれ最強のプレイヤーになる男だ。あんなやつにてこずってるようじゃ、話にならねえよ。ーーなあ、翔!」
那月は控室の隅に向けて声をかけた。
しかし、返答は返ってこず、控室を見渡しても目的の姿は見つけられなかった。
「あれ? 翔は?」
「さあ? 気づいたらいなくなってたぞ」
那月が尋ねると、紅蓮がそう答える。
初めに控室に入ったときの翔の様子が気になったのだが、いないのなら気にしても仕方のないことだ。
そのことについては翔に会った時でいいだろう。
那月は翔の事をいったん頭の隅に追いやると、日奏の方をみる。
「日奏、次の試合って誰と誰だ?」
「次は氷華ちゃんだね」
名前を呼ばれた氷華が僅かに反応する。
それに笑みを返すと、日奏は続けて、対戦相手の名前を述べた。
「対戦相手はーー芭場春馬くん」
その名前を聞いて、那月はそっと息をのんだ。
春馬に関しての情報はこの中で那月が一番よく知っている。
しかし、そんな那月でも彼のスキルや実力派未知数なところが多い印象だ。
それでも確かなことは春馬の実力が氷華と同等、あるいはそれ以上かもしれないということだ。
「大丈夫。私は勝つ」
「……氷華」
那月が心配する面持ちで氷華を見ると、彼女はそう言う。
その言葉に含まれたやる気と自信は、彼女が万が一にも負けることを考えていないということを表していた。
いらぬ心配だったと、那月は心の中で訂正を加えた。
その時、控室内に選手を呼ぶアナウンスが流れた。
『第二試合の準備が整いました。選手の方は闘技場入口にお越しください。繰り返しますーー』
そのアナウンスを聞いて、氷華が立ち上がる。
入口に向かおうとする彼女に那月が声をかけた。
「氷華! がんばれよ!」
「……ん。がんばる」
氷華は短くそう言葉を返すと、扉を開けて控室を出ていった。
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氷華が控え室を出ていって間もなく、選手説明のアナウンスがスピーカーから流れた。
那月はそれを聞いて、モニターを見る。
控え室の中にあるモニターには闘技台の上の様子が生放送されていた。
二人の生徒が闘技台の上で向かい合っている。
「なるほど、こんな風に見えてたんだな」
「まぁな。でも、絶対観客席から見た方が良く見えると思うぜ」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろ」
那月の疑問に紅蓮が頷く。
「そっか。それじゃあ、氷華の試合が終わったら」
「俺の試合もそこからじっくり見とけよな」
「紅蓮の相手って誰だっけ?」
「僕だよ」
那月が紅蓮に尋ねると、二人の背後から声がした。
那月が振り向くと、そこには木菟の姿があった。
「へぇ、木菟と紅蓮の勝負か。こりゃあ見逃すわけにはいかないな」
「木菟、同じクラスの仲間だからって、容赦しねぇぞ」
「分かってる。分かってるよ……」
「……?」
紅蓮が木菟に宣戦布告のような事を言うと、木菟は何やら言葉を濁した。
それに紅蓮が首をかしげるが、話はそこでうちやめとなった。
その瞬間、アナウンスが流れ、モニターの中で試合が開始されたからだ。
「始まった!」
日奏の声に促され、控え室にいる全員がモニターを食い入るように見る。
那月もこの試合で勝ち上がった人物が次の相手となるのだから、見逃すわけにいくまいと、モニターに目を凝らした。
『《凍結氷姫》!!』
先に動いたのは氷華だ。
彼女は地面に手を着くと、スキルを発動し、そこから氷山を形成した。
形成された氷山はあっという間に闘技台全域を呑み込んだ。
「え? 終わり?」
誰かがそんなことを呟いた。
しかし、直ぐにモニターの中で変化が起こる。
『おりゃおりゃおりゃおりゃ!!』
そんな掛け声と共に氷山の一角が破裂し、中から尖った黒髪が特徴的な春馬が姿を見せる。
『開幕これとはやってくれるやないの。ほんなら、こっちもお返しや!!』
春馬はそう言うと、氷華目掛けて愚直に突進する。
氷華はそれに対し、春馬を睨むだけで動こうとはしなかった。
両者の距離が人ひとり分になって、ようやく氷華の手が動いた。
『終わり。ーー『氷王の鉄拳』』
氷華がそう呟いた瞬間、先程形成した氷山が巨大な拳に姿を変え、春馬目掛けてその拳を振り下ろした。
春馬が直ぐに回避行動を取ろうとするが、そんな暇はなく。
巨大な氷の鉄拳は頭上から春馬を叩きつけた。
地面すらも抉る一撃は、場内を砂煙で包み込んだ。
「やった!!」
那月が席を立って拳を上げる。
砂煙で結果は見えないが、明らかに勝負がついた感触があった。
恐らく春馬は戦闘不能。
この次に戦うのは氷華だ。
那月はそう直感し、次の対戦相手の姿が現れるのを待った。
「ーーえ?」
しかし、砂煙が晴れた先に立っていたのは無傷の春馬だった。
「……どういうこと……?」
「氷華!!」
朝日が困惑の声を上げると、紅蓮が声を上げた。
全員の注目がモニターに注がれる。
カメラが闘技台に立つ春馬から氷華へ向けられる。
そして、その映像を見て、控え室の空気が氷った。
その映像には確実に負けたと思われた春馬が無傷で拳を上げる姿と、勝ちを確信した氷華が、血を吐いて倒れる姿が映し出されていた。
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