120話 控え室
第二種目が終わり、佳奈と紗奈と共に演習場入口に向かった那月は、二人の秘密を一つ知ることとなった。
「つまり、その手錠のせいで受けるダメージが共有されていると?」
那月が尋ねると、紗奈が手錠を見せてくる。
「『双命ノ手枷』っていうサナ!これがある限り私たちは一心同体。死ぬ時も一緒サナ!」
「不便そうだな」
「そうでもないカナ?これがあればお互いを身近に感じられるし、手枷の効果で能力も強化されるからカナ?」
「強化?」
那月が首を傾げる。
「この手錠が無かったら私たちの変身はもっとも小さいカナ?」
「これのおかげであれだけ大きくなれるし、斬撃だって飛ばせるサナ!」
シュッシュッと空気を手で引っ掻く動作をする紗奈。
これだけ見れば可愛いものだが、獣状態の攻撃を知ってる那月は、素直に可愛いとは思えなかった。
「まぁでも、結果的に今回はこれが仇になったカナ?」
「ん?俺は別に気づけてなかったぞ?」
「そうじゃないサナ!」
「万全の私たちならあんな木くらい持ち上げられたカナ?それが出来なかったのは、それだけ互いに共有されたダメージが多かったということカナ?」
そう言われて、那月は自分の力を信じて、最後まで道具に頼らなかった自分を賞賛した。
入試の時もそうだったが、彼は些か危ない橋を渡りすぎているきらいがある。
そんな話をしているうちに、三人は演習場の入口に戻ってきた。
外に出ると、そこには椚の姿があり、彼女の指示で三人はそれぞれのクラスの控え室に向かうこととなった。
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第二種目と第三種目との間には昼休憩があるということを椚が教えてくれる。
更に、その時間のうちに訓練棟の近くの掲示板に貼られた対戦表を見なくてはいけないそうだ。
なぜなら、第三種目は第二種目を勝ち上がったもの同士でのタイマントーナメント戦であるからだ。
そのことを聞いた那月は若干の緊張を抱えながら、控え室の扉を横に開いた。
「あ、遅いよ、那月!」
そう言って那月に飛びついてきたのは、日奏だった。
彼は那月の傷だらけの姿を見て、一瞬驚き、直ぐに怒りの形相に変えた。
「また無茶したの?」
「へへ、意外と相手が強くてな」
「なら仕方ないね……とはならないよ!」
それから暫く説教が続いたが、百花が那月の治療をしたいと言うと、日奏は静かになった。
控え室にあるベンチに腰をかけると、その隣に百花が座り、反対側に紅蓮がドカりと座った。
那月は一瞬ギョッとすると、彼を睨みつけた。
「おい、紅蓮。お前がした事だけは忘れてねぇからな」
「忘れてくれてれば良かったのにな。お前も義理堅いやつだな」
「おうよ。それで?第三種目へは行けたんだろうな?」
「へっ、あたぼうよ。お前の方こそ落ちてないだろうな?」
「誰かがポイントを横取りしたせいで危うかったが……まぁ、なんとかな」
那月が拳を突き出すと、紅蓮が笑ってそれに拳を合わせた。
「待ってるぜ」
「こっちのセリフだ」
那月の軽口をサラリと受け流した紅蓮は控え室を出ていった。
入れ違いに、おにぎりを抱えた日奏が入ってくる。どうやら那月の昼飯を取りに行ってくれていたようだ。
那月はそれを頬張りながら、日奏に話を聞く。
「そうか、日奏は負けちまったのか」
「うん。負けたくない相手だったんだけど……ね」
日奏の視線がふと、朝日の方に向いた。しかし、直ぐに那月に視線を戻し微笑んだ。可愛い。
「百花も残念だったな」
「スキルがスキルだからね。第三種目へは出れたとしても勝てないよ。私はこうして皆の傷を癒すことしか出来ないから……」
「前にも言ったと思うが、それが一番凄ぇんだって。いつも助けられてばっかだ」
「それは私の方こそだよ」
それから少々の時間、互いに褒めて謙遜しての繰り返し。
結局二人とも凄いという結論を日奏が述べたところで丁度、那月の怪我の治療が終了した。
「さてと、それじゃあ試合の組み合わせでも見に行こうかな」
「あ、じゃあ、僕もついて行くよ」
「お、ほんとか。掲示板がどこにあるか分からなかったから助かったぜ」
「えへへ」
那月に頼られて嬉しそうな日奏。その頭を撫でてやって、那月は控え室の隅の方に視線を投げた。
そして、そこに目的の人物を見つけ、近づく。
「よう、翔。お前も第三種目出るだろ?一緒に組み合わせ見に行こうぜ」
ベンチに座って顔を俯かせる翔に那月がそうやって声をかけるが、しかし翔からの返事はない。
すこし頭にきた那月は彼の肩を強めに掴んで、もう一度声をかけた。
「おい、無視すんなよ」
「ーーッち」
すると、翔は小さく舌打ちをすると、那月の手を振りほどいた。
「ーー失せろ」
その言葉はどこまでも冷たいもので、初めて翔と会った頃を想起させられた。
那月はそんな翔の態度に腹を立て、掴みかかろうとしたが、それを日奏に止められた。
「那月。きっと翔も緊張してるんだよ。そっとしてあげようよ」
「……おう。…………今のお前と話してたら、こっちまで辛気臭くなりそうだぜ」
那月は最後に翔にそう言うと、日奏と一緒に控え室を出た。
その背中に突き刺すような殺意を感じながら。
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