116話 ヒトの動き
翔がミーネと戦い始めた頃。
颯は更地のエリアを疾走していた。
スキルを使い加速している彼は、障害物の多いところより開けた所で獲物を捜す。
そんなことを種目開始から繰り返していた彼は既に多くのポイントを持っていた。
だが、次の第三種目へはまだ足りないだろう。
彼は次の獲物を探して再び走り出す。
「おや?じぶんは、ええと……あ、せやせや。颯くん。颯くんでおおてるやろ?」
すると、彼の目の前に一つの影が躍り出た。
颯は即座に二の足を踏むと、その人物を眺めた。
飄々とした雰囲気の男だ。那月と特徴がそっくりの目と髪。
関西訛りの強い口調の少年は、颯にしても記憶に新しい人物だった。
「キミは……芭条春馬」
「お、名前覚えててくれたんや。おおきに〜」
どこか能天気なテンションの春馬。
そんな彼を前にして、颯は警戒を緩めなかった。
「……怖いか?」
「……うん、怖いね、もちろんだ。この平坦な地で、不意をつかれたら、そりゃあ警戒するよ」
「えぇ心構えや。流石A組の副委員長くんや」
「俺の事を知っているのかい?」
颯は自分の立場を知られていることに驚き、更に警戒する。
それに苦笑すると、春馬は颯に関しての情報を述べた。
「一年A組、薫風颯くん。スキルは『加速』で、トップスピードは車より速い。一度加速すれば止めようが無いが、加速までには相応の助走が必要……と、こんなもんやな」
それを聞いて、颯は瞠目した。
スキルの効果くらいは知られていても不思議ではないと考えていたが、まさか最大速度まで知られているとは思わなかったのだ。
更に弱点とも言える助走までも知られているとなると、とうとう颯は警戒をマックスにして、相手を睨む。
颯の側は春馬への情報を一切持ち合わせていないのだから。
「ひゅ〜……。怖いなぁ。そない目付きしとったらーー余計狩りたなるやろ」
「…………」
春馬が拳をだらりと構え、唇を舐める。
それが獰猛な虎のように思え、颯は地面を蹴って距離を置いた。
そして、即座に相手の周りを回るように走り出した。
「『加速』!!」
颯の足が僅かに速くなる。そしてそこから地面を蹴る度に速くなっていき、気がつけば彼はトップスピードに乗っていた。
「……?」
その事に颯は驚いた。
てっきり春馬が邪魔をしてくると考えていたが、それが無くあっさりと加速出来たからだ。
彼はそれを不思議に思ったが、直ぐにゴミ箱に捨てると、春馬へと意識を集中させた。
「ーーーー」
春馬は指の一本も動かさずにその場に停滞している。
目を閉じ、何かを待つように。
スキルを発動させた様子もない。そしてまた、発動させる様子も。
それが若干のしこりとして颯の足を後ろから引っ張るが、気にしても仕方の無い事だろう。
颯は雑念という雑念を振り切ると、攻撃のタイミングを決めた。
「行くぞ!!」
そう宣言すると、颯は春馬を周りを走る円を徐々に小さくしていき、ある一点で足の向きを九十度転回。
春馬へと向かうと、その背後から彼の頭目掛けて俊足の蹴りを放った。
「ーー『乗速一蹴』!」
彼の蹴りは春馬の頭を捉え、蹴り飛ばし、足を振り抜いたところで、
颯は横に吹き飛んだ。
「…………ぁえ?」
理解が出来なかった。
春馬を蹴ったと思ったら、気がついた時には自分が吹き飛ばされていた。
「ーーいッ……?」
更に遅れて、頬が大きく腫れ上がっていることに気が付き、そこから痛みが走る。
ますます意味が分からなかった。
だが、ここで呆ける颯ではなかった。
彼はこの状況から何が起きたのかを推測し、ある結論を仮定する。
「カウンター……?」
そう考えれば、この状況にも納得がいく。
つまり、春馬のスキルはそういった効果のスキル。
例えば、相手の攻撃をそのままの威力で返す、などだろう。
颯はそう仮定すると、再び春馬を見た。
「……どした?」
相も変わらずの構えで、ニヤリと笑う春馬。
それに少年笑い返すと、颯はゆっくりと相手へと近づいた。
「お?もう駆けっこはおしまいなん?」
「あぁ。やられた分は返さないといけないからね」
「ええよ、ええよ。俺、ヒトにものやるん好きやし」
構えたまま飄々と笑う春馬。
その前に立った、颯は同じく笑うと、
「せい!」
右ストレートを繰り出した。
もちろんスキルで加速させた状態で。
「ほい」
それに対し、春馬は首を横に傾げるだけで回避する。
そこに颯の左脚が飛来する。
「よっと」
春馬が状態を起こして回避。
颯は今しがた振り抜いた左足を戻すと、振り絞って、相手のみぞおち目掛けて放った。
春馬はそれを半身になって避けると、その足を持って、自慢の筋力で一本背負いのように投げる。
「……ッ!」
颯は頭から地面に投げられるが、地面に手をついて体を支えると、体を捻り、右足で春馬を狙う。
だが当然の如く回避される。
颯は右足の勢いを利用して春馬の拘束から逃れると、手を伸ばして着地する。
「はぁはぁ……やるね」
「じぶんも、聞いてたよりずいぶん動けるやん」
春馬の賞賛を受け、颯は渋い顔をする。
今の一連の攻防で春馬は一度もカウンターを仕掛けてこなかった。
これには先程の仮定が間違っていたと考えざるを得ないが、まだ速いと考える。
颯は再び近づくと、今度は小手先の技術では無く、手数で攻めることにした。
「お、お、お?」
無限のラッシュが様々な位置、角度から春馬を攻める。
しかし、彼はそれら全てを最低限の動きで躱す。
「ここ!」
そこで、颯はしゃがむと、蹴りを放ち、相手の足を払った。
「うわ……!」
その時初めて春馬の体勢が崩れる。
横に倒れる春馬。そこ目掛けて颯は渾身の一撃を繰り出した。
颯の拳が春馬の倒れる所を予測して放たれ、そしてーー
「ーーざーんねん」
春馬の顔がピタリと止まり、その僅かに下を颯の拳が通り過ぎた。
だがーー
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
「お?」
颯は春馬が躱すことを読んでおり、上半身を回転させると、反対の手の甲で春馬の放っつらを殴りつけた。
しかしーー
「いい攻撃だったけどなぁ……俺にはあと一歩足らんかったな」
気がつけば春馬は颯の頭上に跳んでおり、そこから放たれる縦回転の回し蹴りが颯の脳内に突き刺さった。
「ーーがッ……!?」
その一撃で気を失った颯。何が何だか分からずに倒された彼は地面に倒れ伏した。
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