113話 ド変態
ーーやってしまった。
そう後悔したのは全力でスキルをぶっぱなした後だった。
眼前で立ち上る真っ黒の煙。それを見ながら翔は暫し呆然としていた。
それはつい先程、翔自身が犯したミスだ。そして、取り返しのつかないミス。
あのクヴェルですら一度は身を滅ぼした翔の必殺技とも呼べる『月流堕雷』。
その一撃をゼロ距離で喰らったミーネ。当然彼女は跡形もなく消し飛んだに違いない。
翔はその事実を受け止め、それから額を掻いた。
ーー拙いな……。これじゃあ種目の規定違反だ。
翔はことここに至ってもそんな考えを持っていた。
人を殺してしまったーー。そんな事は彼にとっては些事なのだ。
彼にとって大事な事は如何に己を高められるか。そして、その実力が実力者に対し、どこまで通用するのか。それだけだ。
故に那月や春馬といった強力な実力者との戦いを目標にしていたのだがーーそれは一人の少女の『死』を持ってして達成することは出来なくなってしまった訳だ。
そう。少女を殺した。
それはこれ以上の体育祭への参加資格を失うのはもちろん。下手をすれば退学も有り得る事態だ。
翔は今更ながらに事の重大さを理解し、頬を汗が伝うのを自覚した。
「ーーーー」
その時。翔の耳に小さな声が聞こえてきた。それは呻き声のようにも聞こえ、しかしよく耳を澄ませば、それが声を抑えて笑っている声だと分かった。
翔は俯いていた顔をゆっくりと前へ向けた。
未だもうもうと視界を遮る黒煙。しかし、その中心に翔は人影を見た。
あるはずのない人影を。
「アハ、アハハ……アハハハハハハ!!!最っっっっっ高ですわぁぁ!!!」
恍惚としていて、快悦としていて、情痴に溺れた声音だった。
上品で下品な高笑いが響くと同時、翔の視界を遮っていた黒煙が辺りに霧散して消えていく。
そして視界がクリアになった翔はその少女を見た。
「あぁ、あぁ、あぁあぁ。ーー最……高……!!」
顔を赤くして、色情を誘う汗を醸す少女ーーミーネ。
その彼女が腕に抱く身体。そこにはおよそ衣服と呼べるものが存在していなかった。
ーー否。全裸という訳では無い。
しかし、そうと呼んで差し支えない程に頼りない薄布が彼女の三ヶ所の主要部位を覆い隠していた。
つまり、マイクロビキニを着たミーネが頬をピーチ色に染めていた。
「……うふ。ねぇ、翔さん。どうです?この姿」
自らの楽園に浸っていたミーネが不意に翔に尋ねる。
腕を精一杯に開いて、翔に己のわがままボディを見せつけんとしながら。
それを視界に収めた翔はというと。
「どうでもいい」
そう返した。
あまりにぶっきらぼうな返答。それに対し、ミーネが頬を膨らませる。
「どうでもいいとは聞き捨てなりませんわ。では翔さん、あなたに質問ですわ。この世で最も美しい服装とはなんだと思いまして?」
唐突な質問。
それに対し、翔はまたもぶっきらぼうに返事を返す。
「美、なんてものに興味はない」
「では教えて差し上げますわ。この世で最も美しく、崇高な服装。それはーーーー」
ミーネはそこで言葉を区切ると、自らの巨峰に指を突き刺して、その双峰を揺らして見せた。
「それはーー全裸ですわ!!」
自信たっぷりに。満を持して彼女の口から放たれた答え。それは百聞しても一見しても理解出来ない常識の埒外の回答だった。
しかし、それを真理と疑わない痴女の口は止まらない。
「お父様が言っていました。人間は産まれた時は皆全裸なのだから、それは神様が『全裸でいなさい』と言っているのだ。と。……つまり、全裸は神が唯一認めた服装。つまり!!全裸こそ最強の服装!!!!」
ミーネが再び胸を張る。
だが、いくら声高だかに演説をしようと、理解出来ないものには変わらない。
翔はつい、口を零した。
「……ド変態」
それは彼女に言った言葉か、それとも彼女にそれが常識だと教育した父親にか。
いや、恐らくその両方だろう。
だが、翔の独り言はミーネには聞こえていなかったようで、尚も全裸の良さを語っていたミーネは、しかし唐突に落ち込み始めた。
「……だと言うのに、だと言うのに……聞いてくださいまし、翔さん!!」
「なんだ?」
「どうしてか、クラスメイトの皆様はワタクシが全裸になる事をお認めになられないのです。その上スキルでこんなものを縫い付けられて……!!」
ミーネは自らのマイクロビキニの紐を全力で引っ張った。しかし、それはまるで肌に張り付くようにして外れない。
それは彼女の口からも語られた通り、スキルによる力のようだ。
「でもまぁーーあなたを嬲るのにはこのくらいで丁度いいのですけれど」
「あん?」
不意に放たれたミーネの言葉。
それは到底翔の聞き逃せるものでは無かった。
翔が問い返す。
それにミーネは不敵な笑みで返した。
「改めて自己紹介を。ワタクシの名前は白絹美衣音。スキルは《脱衣》。服を脱げば脱ぐほど、服の布面積が小さければ小さい程ーー力が増すスキルでございます」
瞬間。ミーネの魔力がバカにならない程に膨れ上がる。
それは先程の彼女と比べても、軽く百倍の大きさになっていた。
「それではーー本気で行かせてもらいます」
刹那。轟音が地面を叩き、気がついた瞬間には、翔は殴り飛ばされていた。
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