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112話 変態

 種目開始から早四十分。全員が演習場に入る待ち時間を合わせればもう一時間以上。

 白浪翔はその場に腰を落ち着かせていた。

 誰とも出くわさないまま、時間だけが過ぎていき、気づけば一ポイントも得られないまま残り時間は三十分。

 那月が来るだろうと高を括って、演習場の奥の方にある山岳エリアで待ち構えていたのだが、結局彼は来なかった。

 それ以外の人も誰も来ず、翔はそろそろ獲物を狩るために動こうかと真剣に悩み始めていた。


「……仕方ない。俺の方から出向いてやろう」


 翔は那月を探すために初めてその腰を上げた。

 その時だったーー


「あら?どこへ行かれるのですか?」


 背後から声がした。女の声だ。どこか気品を感じさせるその声に、翔はゆっくりと振り返った。


「ごきげんよう」


 翔の後ろに立っていたのは、金髪縦ロールのお嬢様だった。

 しかし、そんなお嬢様の服装は素朴なジャージだ。しかも、豊満な胸元をがばりと開いて、その存在を強調している。

 お嬢様にしては些か清楚度の欠ける服装。

 それを見て、翔はなんとも思わなかった。

 ーー否、なんとも思わなかった訳では無い。


 翔はその女を見て『煩わしい』とそう感じた。

 その結果、感情は声に籠り、翔が放った第一声はあまりにトゲトゲしかった。


「何の用だ?」

「そんなに怖い顔をしないでくださいまし。ーー用件は……言うまでもないのでは無くて?」


 顎に指を当てて首を傾げる女。彼女の言葉を聞き、翔は確かにと納得した。

 そして納得すると同時、全身に闘気という名の魔力を巡らせていく。


「本気になって頂けるのですか?」

「お前のポイント次第だ」

「ポイント……なるほど。それはそうですね。雑魚に構うほど二位様は暇じゃありませんわよね?」

「ーー御託はいい。ポイントはいくつだ?」

「九十四ーーこれで本気になれましょう」


 彼女は時計の画面に映る数字を見せつけながら、不敵な笑みをその顔に浮かべた。

 それを見て翔は那月の元へ向けようとしていた足を後ろの女の方へ返す。


 那月との勝負は恐らく第三種目で叶うだろう。であれば翔のすべきことはそのステージに上がること。

 そのために翔はーー


「お前を倒す」

「名前くらい覚えていってくださいまし。私の名前は白絹美衣音。以後よろしくですわ」

「ーー《雷電》!!」


 女ーーミーネの自己紹介が終わると同時、翔の掌から黄色の閃光が放たれた。

 それは一直線にミーネの方へ飛んでいき、そして地面を穿った。


「いきなりですわね。でも、積極的な殿方は嫌いでなくてよ」

「ーー無駄口を叩いている暇があるなら、俺にやられろ」

「強引ですこと」


 翔の手から放たれる雷が二本になり五本に増える。五つの軌跡を描く稲妻は全てがミーネ目掛けて飛来し、その全てをミーネが余裕綽々と回避する。


「ちょこまかちょこまかと……」

「追う女より、追われる女の方が魅力的でしてよ」

「どちらも俺の好みではない」

「あら、残念」


 無駄口を叩きながらも両者の攻防は止まらない。

 翔が攻め、ミーネが避ける。

 この構図が変わらぬまま二人の雑談は一分を超えた。


「手加減して頂けるのは有難いですが、時間が無いのではなくて?本気で来ないと、ワタクシと話してる間に時間切れですわよ」

「忠告は素直に受け取るが、わざわざ人に本気を出させようとするのはどういう思惑がある?」

「思惑?いえ、ただの親切ですわよ」

「そうか。だったらその親切に俺は仇で応えよう」


 翔の攻撃がほんの一瞬打ち止めになる。

 しかし次の瞬間、先程とは比べ物にならない速度の雷がミーネの髪を掠めた。


「ーー『俊雷』」

「クフ。フフフ。いいですわ。いいですわよ!翔さん!!」

「変態が」


 翔の攻撃が強力な物になった瞬間にミーネの表情が一変。恍惚としたものへと変化した。

 それを見て翔は罵倒を放つと、さらに攻撃の手を強めた。

 と、その瞬間だったーー


「でも、まだ本気じゃないですわよねーー」


 先程まで攻撃を避けてばかりいたミーネが突然進行方向を翔へ変え、突進をしてきたのだ。

 突然の行動に即座に反応できない翔。

 彼はその瞬間ミーネのスキルを推測する。突然近づいて来たことと何の武器も持ってないことから考えてミーネのスキルは近接で攻撃するタイプ。つまり、日奏と朝日と同じタイプだ。

 要は攻撃極振りの脳筋ということだ。

 脳筋への対処法は数多あるが、近づかれた時の対処法は一つしかない。

 つまりーー防御。

 翔は左手を犠牲にする覚悟でミーネと己との間に左腕を滑り込ませる。


「ーーハァ!!」


 ミーネの攻撃が繰り出された。

 それは翔の左腕を殴りつけ、翔の身体をーー浮き上がらせなかった。

 それどころか、翔はその場から一ミリたりとも動かず、左腕に受けた痛みは微々たる物だった。


 翔は一瞬瞳を瞠目させたが、しかし殴られたことに変わりはないため、次の瞬間には怒りが全身の主導権を握っていた。


 それは相手を殺さないという最低限の理性のみを携えた暴君。

 故に翔の右手に込められる魔力は体育祭というお祭りの限度を軽々と超えていた。


「ーーーー『月流堕雷』」


 天にかざされた翔の右手。それが振り下ろされるのと同時ーー極大の稲妻がミーネの全身を包み込んだ。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。




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