111話 ポイント
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
息を切らして立ち尽くす少年。その足元には一人の少女が倒れていた。
長剣を握った少女だ。つい先程まで白亜の騎士だった彼女は今や普通の大和なでしこ。
瞳を閉じて安らかな寝息を立てる彼女を見て、那月は安堵の息をこぼした。
「ひとまずは殺さずに済んだな……」
それは『ドラグ・ディノ・ブロウ』を使用する際に那月が最も危惧した点だ。
武装状態の姫莉ならば耐えられただろうが、それを解除した彼女には到底耐えられない一撃。
それ故に那月は攻撃を放つ際に一点の危惧を残しながらその技を放った。
手加減は不敬、しかし全力は死を相手に与える。ならば全力で相手を殺さない手段はないのかーー
その逡巡の思考が那月に空気を殴らせた。
結果それは幸をそうし、姫莉を気絶させるに留めた。
「それはそうと、あー、羽攘センセ、なんて言ってたっけな……?」
那月は倒れる姫莉を見つめながら、点数の受け取り方を思い出そうとする。
と、その時だったーー
「ーー動くな」
それは耳元で放たれた低い言葉。
那月はそれを聞いて瞬時に理解する。己の背中に剣が突きつけられていることに。
そうして、苦笑を漏らした。背中に冷や汗をかきながら。
「これはなんのつもりだ?ーーーー紅蓮」
那月は肩越しに振り返り、そこに赤の短髪を見た。
紅蓮が背後で不敵な笑みを浮かべるのが分かる。
「そう警戒するなよ。俺はお前と戦おってんじゃないんだよ」
「じゃあ、どういう了見だ?」
「いやなに、簡単な話だ。姫莉のポイントを全部俺に寄越せ」
紅蓮の言葉に那月は自分の考えが当たったことを笑う。
それから紅蓮を敵と認定する。
「おっと、動くな。これは提案じゃない、命令だ。もしお前がこの命令に背いて俺を攻撃してきたら……俺はお前をこの紫炎で斬ることになる」
殺意ーーよりは優しい声が那月の背中に突き刺さる。
「まぁ、安心しろ。殺しはしない。当然だ。だがそうだな……しばらく保健室のお世話になるのは間違いないな。少なくともこの体育祭の間は」
「つまり、再起不能ね」
「那月にしては理解が早いな。で、どうする?」
紅蓮の質問を受け、那月はしばし考える。
もし仮に、このまま紅蓮と対峙することになるとして、那月に勝ち目はあるだろうか。
はっきりいってそれは薄い。姫莉への一撃で魔力をごっそりと消耗した那月が、未だ紫炎を維持する紅蓮に勝つ目処は限りなく薄い。
今の紅蓮が空元気で紫炎を維持しているとなれば話は別だが、それもないだろう。
それは那月の勘がそう告げていた。
そしてその勘に従うのなら、那月の取るべき行動は一つだ。
「……分かった。ここはお前に譲ってやる」
那月は両手を上げて、敵意がないことを表す。
すると、背後で紅蓮が大きく息を吐くのが分かった。
「そりゃ、ありがたいね。こちらとしても連戦は避けたかったとこだ。特にお前とはな」
「同感だ」
那月はそう言うと、地面にどかりと座り込んだ。手を後ろに回し、完全に力を抜く。
それを見て紅蓮も警戒する必要がないと判断したようで、大剣を鞘に戻して姫莉の元へ近づいた。
彼女の腕に嵌められた時計のような機械に触れ、紅蓮はその背面に自らの機械を当てる。
すると、時計のベルトの部分が緑色に光った。対して、姫莉の方は赤く光る。
そうしてたっぷり三十秒。
紅蓮の機械からポロンという音が放たれた。
「ほぉ、ほんとにポイントが増えてら」
紅蓮は自らの機械の画面を確認し、そう感嘆の声を漏らした。
それから那月の方を見やる。
「さて、取り敢えず感謝するぜ」
「俺は恨むよ」
「ヘッ。……んじゃあ、俺は行くけどよ。お前は三十秒くらいこの場にいろよ。追いかけられちゃ堪らねぇからな」
「安心しろ。俺はお前を追わない。この借りは返して貰いたいが、それは次の種目の時だ」
那月はそう言って、立ち上がると、「だから」と言葉を続けた。
「紅蓮。絶対に次の種目に上がってこい。そして、俺と戦え」
「あぁ。次は正々堂々、剣士の戦いだ」
最後に紅蓮は姫莉の事を見ながらそういった。
そして紅蓮は走り去っていく。
「さてと、翔の野郎と春馬の奴を見つけに行くか」
那月も走り出した。二人のライバルを見つけるために。
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