109話 騎士と剣士、そして魔剣
姫莉が鬼のような形相で、剣を肩に担いだ。
少し焼けた血色の良い肌に触れるか触れないかの位置に構えられた剣は、彼女の魔力に当てられカタカタと震えている。
「貴様らが手加減で私をおちょくっていたというのなら、もう手を隠す必要も、力を制限する必要もないという話だな?」
姫莉の魔力がより一層膨張した。それはこの世界に生きるものなら知っている現象。
つまりーースキルの発動だ。
「《騎士》ーー!」
刹那。姫莉の周囲に漏れ出ていた魔力が彼女の体に集束されていく。
魔力はみるみるうちに変形し、白銀の鎧へとその姿を変えた。
頭部にはティアラのようなものが出現し、一本に束ねられていた髪が、拘束を解かれ、背中を守るカーテンに変わる。
サラシの上から竜胆のマークがついた胸当てが装着され、腕には篭手、腰には光のベールが巻かれ、足は金色のラインが走った純白のブーツに覆われた。
一瞬で様変わりした姫莉は、先程までとは明らかに力が違う。
強いーーいや、強すぎる。
しかし、それ故にーー
「ぐッ……!!」
姫莉が剣身が二回り大きくなった長剣を地面に突き立て、片膝を折る。
見れば、額から頬にかけては遠くからでも見えるほどの汗が流れており、呼吸も荒々しい。
傍目から見ても苦しそうにする姫莉。
恐らくそれが彼女の代償。強大な力を得る代わりに、その力が体内から彼女を苦しめる。
「ーーーーッ!!!!」
姫莉は奥歯が割れるほど歯を食いしばり、立ち上がると、両手で剣を持ち上げた。
その状態で那月達の方を睨む。
「……さぁ、貴様らの本気を見せてみろ…………!!」
姫莉は全身が激痛が全身を蝕んでなお、不敵な笑みで二人を挑発した。
「ったく……さっきのですらギリギリだってのにさらに強くなんじゃねぇよ……」
紅蓮は愚痴を零すと、しかし苦笑する。
「でも、それでこそ燃えるってもんだ!!」
紅蓮は緋炎の大剣の柄を両手で握ると、顔の前で構え直す。
「『魔剣解放ーー炎上烈火』!!」
紅蓮が叫ぶと、大剣の鍔から炎が溢れ出し、それはみるみるうちに剣身を呑み込んだ。
ごうごうと燃え盛る大剣で目の前の空気を斬ると、それを腰の横に構える。
姫莉が感嘆の息を漏らす。
「ほう、それが紅城家に伝わる魔剣、その真の姿というわけか……」
「どうかな? 少なくとも、こいつはまだ腹を空かせてる様子だけどな」
「魔剣は使い手の魔力を食らって力を増す……。なるほど、貴様ではそれを満足させられないという事だな」
「今のところ、な」
姫莉の皮肉を孕んだ言葉に紅蓮は言い返した。
彼女は言外にこう告げているのだ。
ーー身体系のスキルには元より魔剣との相性は良くない
と。
スキルを使うには魔力が必要というのは義務教育でも最初に学ぶことだ。
そして、その量は身体系よりも魔法系の方が多いということも。
つまり、我々剣士には魔剣は向いていない。そう彼女は言ったのだ。
そんなことは紅蓮も分かっている。だからこそ、彼は魔剣を使っているのだから。
「……そうだな。確かにずっと同じ技ってのも芸がねぇわな……」
「なに?」
「いいぜ。『魔剣グランネビュラ』……その第二形態のお披露目だ!!」
紅蓮が腰を落として再び剣を両手で構える。しかし、今度は顔の前で構えるのでは無く、その切っ先を地面に向けて構えた。
紅蓮の集中が紅蓮の炎を放つ大剣に注がれる。
全身の魔力が一点を目掛けて流れていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああーーーー」
大地を揺らす程の咆哮。それは確かに空気を揺らし、姫莉の肌に細かな凹凸を浮かばせる。
ーーィィィィィィィィィ
魔剣がこれまで与えられることのなかったお代わりに、歓喜の声を鳴く。
地面が揺れ、紅蓮の足元が僅かに盛り下がった。
「ーーぁぁあああ!!!!」
紅蓮が叫ぶと、紅蓮の大剣を包む炎が巨大化。紅蓮ごと周囲を飲み込み、竜巻のように、天に昇る。
次の瞬間、その炎の竜巻が内側より爆ぜる。
そして、その中に立つ紅蓮は両手で握る大剣をゆっくりと顔の前に持ってきた。
それは先程までの赤い炎を纏った大剣ーーでは無く、禍々しい紫色の炎を纏った大剣だった。
紅蓮がニヤリと不敵な笑みを浮かべて呟いた。
「ーーーー『死紫焔魔』」
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