11話 実力
「なぁ、センセ」
「なんだ?」
「俺なんで補習してんの?」
ノートにペンを走らせながら那月が質問をする。
「それはお前がバカだからだ」
「いや、でもここの学校実力が成績になるじゃん」
「そうだな」
「それで、なんで俺補習してんの?」
音淵先生はため息を付くと採点をしていた手を止めて、那月を見る。
「お前は特待生がどうやって選ばれるか知ってるか?」
「急に何?」
「特待生は実力の高い者から選ばれる。因みに今年の特待生は四人。内二人はうちのクラスでお前がバカみたいに張り合っている白浪も特待生だ」
「へぇ、そうなんだ」
「しかし、実力はどうやって測っていると思う?」
「そりゃ、ゴーレムを倒した数?」
「だとしたらお前はうちに受かっていない」
「じゃあ、何さ」
「確かに特待生以外はゴーレム討伐数とスキルの将来性、プレイヤーとしての基礎を抑えられているかなどで選ばれる。しかし、特待生だけは完全に実力だけで選ばれている。そして、その実力を測るのは校長先生だ」
先生が何を言いたいのか、いまいち要領を得ない那月は頭を傾げながら、相槌を打つ。
「校長先生?」
「そう、校長先生自ら合格が下される。それが特待生という訳だ」
「んで、センセは俺に何を伝えたいわけ?」
「特待生は五人になるはずだった」
「は?じゃあその一人は入学を辞退したの?」
「いいや、この学校にいるぞ」
痒い所に手が届かないような、むず痒さを覚えた那月はとうとう我慢が限界に達し始めていた。
「もう!よくわかねぇよ!つまりどゆこと?」
「特待生の五人目は那月、お前だ」
「……………………………………………は?」
「お前は本来特待生になる実力があった、という事だ。しかし、お前は普通に入学している。どういうことか分かるか?」
「わからん」
「それはお前に実力が無かったからだ」
「実力があったのに実力が無い?もう、だめ。限界、わからん」
「お前の筆記テストの点数を教えてやろう。七点だ」
「へ、へぇ。まぁちょっと、ちょっとだけ油断しちゃったかな、みたいな……」
「普通ならば九十点以上を余裕で取れるテストだ」
「ぐ……」
「お前が特待生では無い理由。それは勉学の力がない事だ」
「うぐ……」
「この学校では実力が全て。お前が言ったことだ。ならば力の実力では無く、頭の実力も必要になってくるな。つまりこの補習は必要だ。分かるか?」
「………………わ、かりました……」
「よし、続けるぞ」
それから三時間みっちり勉強させられた那月であった。
那月は重たい足取りで寮まで辿り着くとそこの扉を引く。
寮の扉を開けると、そこには大きなリビングが広がっていた。
「はぁ、疲れた」
「おう、お疲れさん」
那月の独り言に反応したのは赤髪の長身少年だ。
少年は雑誌を持ってリビングのソファに腰を下ろすと那月に労いの言葉をかけてきた。
「えーと、」
「紅蓮だよ。紅城 紅蓮。よろしくな那月」
「おう、よろしくな紅蓮。ところで紅蓮一人か?他のみんなは?」
「あぁ、みんな荷解きとか色々あって疲れてるらしくてな、部屋で休んでると思うぞ」
「そうか……紅蓮は何してたんだ?」
「ん?俺は見ての通り雑誌を読んでたんだよ、その辺に置いてあったからな」
「へぇ」
そこで一度話が途切れると紅蓮が別の話題を振ってくる。
「ところで那月さんは勇気がありますな」
「は?何だ急に気持ち悪いな」
「そういうなって、俺はただクラス最下位がクラス一位に喧嘩を売った裏話を聞きたいだけだって」
「お前、それで俺の帰りを待ってたと……?」
「正解」
紅蓮はニヤリと笑うと雑誌をテーブルに置き、那月に向き直る。
今にも質問してきそうな紅蓮を那月は片手で制す。
なぜなら聞き捨てならないものを聞いたから。
「その前に、最下位と一位ってなに?」
「え、お前知らないの?」
不意をつかれてポカンとしている紅蓮に那月は頷いて返す。
「そっかー、知らなかったのか……。いいか?クラスの席順、あれおかしいと思わないか?」
「……確かに。普通五十音順だよな」
「そうそう。だが、あれには意味があるんだよ」
「どんな?」
「それは、実力順だ!」
胸をはって言う紅蓮。
那月はふとクラスの席順を思い返す。
そして、さっきの紅蓮の一位という言葉が誰を示して、最下位が誰を示すのか、その答えにたどり着く。
「つまり……俺が最下位……?」
ギギギと動く、那月の首。
那月の視界と紅蓮の視界がぶつかると、紅蓮は静かに頷く。
「な、な、納得いかねぇ!!!」
「うぉ!?」
「なんであいつが一位で、俺が最下位なんだよ!!」
「そりゃ、実力だろが……あ、因みに俺は五位な」
「クソがぁぁぁぁ!」
那月は紅蓮の肩を掴むと前後に大きく揺する。
揺すられる度に首がカクカクと折れる紅蓮。
少し時間がたち、那月が落ち着きを取り戻し、紅蓮は解放された。
「落ち着いたか?」
「おう、悪かったな」
「気にすんなって、、、最下位」
ボソリと呟いた一言に那月が拳を握ると、紅蓮は冗談冗談、と手を大きく振る。
「もう今日は疲れた!風呂入って寝る!」
「おう、そうか。風呂はそこの廊下の先な」
リビングから伸びる廊下は電気が消され暗くなっているが、奥にはたくさんの部屋がある。
那月はタオルを手に取るとズカズカと廊下を進んでいく。
「おーい、荷物どうする?」
「置いといてくれ、後で部屋持ってくから」
「了解。ごゆっくり〜」
「言われなくても……!」
那月は電気も付けずに廊下を進んでいく。
「あれ?今って確か…やべ!おい、那月ーーー」
紅蓮の声も届かず、那月は廊下を進んでいく。
少しすると一部屋だけあかりの着いた部屋がある。
扉は格子戸でいかにも風呂という感じを醸し出している。
扉には肩にかかるくらいの大きさの暖簾が掛けられているため、那月はそれを手で払い扉に手をかけ、横に引く。
「え?」
「……え」
そこには先客の姿があった。
桃色の髪で桃色の瞳。同じく桃色の下着を上下に付けた女性の先客が。
「…………き」
「き?」
「きゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
少女は叫ぶと同時、手元にあったドライヤーを那月に投げつける。
ドライヤーは見事那月に命中し、那月はその場で仰向けに倒れる。
扉はピシャリと閉じられ、遅れて紅蓮が駆けつける。
「あぁー、那月?大丈夫?」
「……大丈夫そうに……見えるか……?」
「なんか、すまん。今の時間は女子の入浴時間で、それとここは女子風呂だ」
「さきに……いって、く、れ………………………」
那月はそれだけ言うと意識を別の場所に飛ばして、眠りについた。
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