107話 第二種目開始
那月が荒廃した街に入ってからおよそ十三分後。
巨大演習場に種目開始のブザーが鳴り響いた。
それと同時に那月は駆け出した。
点数の低い彼はまず高得点の相手を狙う必要がある。故に目指す先は、先行組がまず息を潜めているだろう演習場の奥ーー。
そしてそこにいるだろう翔を目指してーー。
「ーーそこで止まれ」
突如凛とした声が那月を止めた。
那月が臨戦態勢で構えると、声の主は半ばから折れた電柱の陰から姿を見せる。
それは男と見紛うほどに上背のある女子生徒。鋭い紫の瞳に、真っ黒のポニーテール。
服装はジャージだが、上着は腰に巻かれ、胸にサラシを巻いている。
腰には一振の長剣が吊るされていて、それが煌びやかに輝いている。
その出で立ちはまさに最優の騎士。時が違えば戦場で敵大将の首を幾百とはねていたことだろうと、想像出来る威風がある。
那月はその少女を見留めて、警戒をさらに強めた。
ーーこいつは強い……!
那月の『野生』とも呼べる本能がそう警鐘を鳴らしている。
実力は那月と五分……いや、向こうが一枚上手だろう。
思わぬ敵の襲来に那月の口角が僅かに上がる。
「あんた、名前は?」
「ひめり。紀紫堂 姫莉だ。貴様は?」
「黒滝那月。最強のプレイヤーになる男だ!」
「大言壮語は弱者の証。その無謀、この私が分からせてやろう」
騎士ーー姫莉が長剣の柄を握り、剣身を鞘から抜き放つ。
那月も拳の骨を鳴らす。
彼は戦闘の前に姫莉にひとつ尋ねた。
「あんたはどんくらいポイントを持ってるんだ?」
「十九ポイントだ」
そう答えた姫莉の瞳が僅かに殺気を帯びたのは那月の気のせいではないだろう。
那月が首を傾げると、姫莉が更に殺意を高める。
「何故私が怒っているのか分からない、といった顔だな」
「事実その通りだからな!」
「……ふん、ならば教えてやろう」
姫莉は剣を地面に突き立てると、鼻を鳴らして那月を睨む。
「私のスキルは戦闘向きだ」
「だから?」
「貴様は本当にバカなのだな……。つまりだ、貴様が余計なことをしたせいで、私はこんなに低い順位にいるわけだ。そう貴様のせいでなーー」
姫莉の殺意が最大限に立っし、彼女が那月を指さした。
「私は貴様を許さない。私のエリート街道に汚点を付けた貴様だけはーー」
そこでようやく彼女の向ける殺意の意味を理解した那月は、ようやく自分が犯した失敗を自覚した。
つまり、低順位のやつの殆どに恨まれている、ということに。
那月は首筋に無数の剣を突き立てられいるような錯覚を覚えて唾を呑んだ。
「怖気付いたか? 今更悔いたところで無駄だが、まぁ多少の手心は加えてやろう。騎士として弱者を嬲る趣味はない」
「そりゃありがたいね。……手心のついでに見逃してくれてもいいんだぜ」
「見苦しいとはまさにこのこと。正々堂々戦わぬというのなら、加える手心もないというもの」
「オーケイ! 正々堂々じつに結構。気の済むまで相手してやるよ」
那月が叫ぶと、姫莉は地面に突き刺した剣を抜いて、顔の横で地面と水平に構えた。
「では、仁上にーー」
「ちょっと、待ったァァァ!!!!」
姫莉の足が地面から離れようとしたその瞬間。
野太く大きな声が二人の間に降っておりた。
着地とともに土煙が舞い、数瞬の後にそれが晴れる。
男子から見ても上背ある男。赤い短髪を逆立て、腰には灼熱を体現したような大剣を吊るす。
「那月、ピンチ見たいだな!」
人すきの笑みを浮かべた男が那月の方に振り返った。
その顔を見て、那月は思わず頬を綻ばせる。
「紅蓮!?」
「よっす」
片手を上げた紅蓮がそこにはいた。
那月がその隣まで走る。
「お前、どうしてここにいるんだ?」
「強いて言うなら戦うためだ。けど、一人で戦うのは怖ぇ」
「は?」
弱気なカミングアウトに那月は紅蓮の見せる態度との温度差に困惑した。
「お前、戦いを怖がってちゃなぁーー」
「別に俺一人で戦っても勝てる相手はいる。でもな、そうじゃない相手もいるって話だ。例えばーーそこのあんたとかな」
紅蓮の登場以来蚊帳の外だった姫莉に、紅蓮が水を向ける。
それで黙想していた姫莉が目を開いて紅蓮を睨む。
「つまり、共闘という事だな」
「そう捉えてくれて構わねぇよ?」
「紅城家の長男ともあろう貴様が、随分落ちたものだな」
「いま、家は関係ねぇよな」
どうやら二人は旧知の仲のようで、顔を付き合わせるなり喧嘩腰だ。
睨み合う二人を見て、那月が紅蓮の肩を叩く。
「おい、こいつは俺が相手すんだよ。邪魔すんな!」
「お前一人で勝てる相手じゃねぇって言ってんだよ!」
「じゃあ、紅蓮がいれば勝てんのか?」
「おうよ!」
紅蓮の即答に那月は思案する。確かに紅蓮の言う通り、那月一人では姫莉に勝てない。
しかし、彼にもプライドがあるのもまた事実。
那月は暫く考えて、紅蓮の瞳を見つめた。
「分け前は俺が六だ」
「それでいいぜ。俺はその真面目バカを叩ければ今回は十分だからよ」
二人が覚悟のこもった瞳で姫莉を見ると、彼女は軽蔑の瞳を向けてくる。
「女子相手に二対一。貴様らには矜恃というものがないらしい。……いいだろう。この私が貴様らに騎士の心得を叩き込んでやる」
姫莉が剣を構える。それと同時に紅蓮が大剣を抜き放ち、那月も姿勢を低くする。
そして次の瞬間ーー今種目初めての戦闘が開始された。
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