103話 三竦み
階段の先に光が見えた。
那月はそこ目掛けて走って、抜けた。
「帰ってきたぜ!一階!!」
ここはまだボス部屋だが、那月にとっては記憶に新しい光景だ。
「なっつかしいな、ここで死にかけたっけ」
「そうだね。翔くんも那月くんも倒れて、私なんか死んじゃうんじゃないかっておもったよ……」
二人が傷心に浸っていると、後ろからやってきためめが口を挟む。
「そう言えば、二人は法律破ってダンジョンに入ったことがあったんでしたっけ」
「その言い方やめてよ、めめちゃん。私たち犯罪者みたいじゃん」
「あ、ごめんなさい。でも、事実ですよね?」
「ま、そうだな。お咎めなかったのは音淵センセのおかげだよ」
掃除はさせられたけど、と恨めかしく虚空を睨む。するとーー
『黒滝、反省が足りないんじゃないか?』
那月の横にホログラムが出現し、顔を見せたのは羽攘先生ーーではなく、音淵先生だった。
「ね、音淵センセ!?え、羽攘センセじゃなく!?」
『あいつはトイレ休憩だ。それで?掃除がどうとか聞こえたが?』
「え、あ、あれは、その……た、楽しかったなぁ〜って、思いまひて!!」
『そうかそうか。じゃ、これから三年間、お前風呂掃除係な』
「へ…………」
音淵先生の言葉に那月が絶句する。それを見て、満足気に鼻を鳴らすと、音淵先生は「冗談だ」と、まるで笑えないことを口にした。
『さて、とりあえず。三人とも良くぞここまでやってきた。……だが、お前たちが一番遅かったぞ』
「え、てことは、春馬の野郎はもう……!?」
『とっくに来ている。白浪もな』
「翔も……!?」
那月が悔しそうに、唇を噛んだ。
『だが、二人ともこの先の試練に苦戦してるみたいだな。突破者は未だ0名。お前たちにも一位を取るチャンスは残されている。せいぜい頑張れよ』
それだけ、言うと音淵先生は消えた。
残された三人はというとーー
「くッ……!」
「待って、那月くん!!」
那月が一番に走り出し、ボス部屋の扉を蹴破って外に出た。
それを追いかけるように百花、めめと外に出て、その光景を目にした。
「ぐあぁ!!」「くそっ!ここも!?」「こっちもだにゃ!!」「…………………………!」
それは至る所で爆発の起こる草原であった。
地面を踏んだ生徒が弾け飛び、着地した先でまた爆発に飛ぶ。
一向に前に進めずに立ち往生していた。
「これは……」
「『ボムボックリ』……踏みつけることで、爆発するマツボックリみたいなモンスターや」
「おま、春馬!?」
「よっす、那月。遅かったやないの」
扉の横によしかかるようにして立っていたのは春馬だ。泥ひとつ服についていないところを見るに、試練に挑戦せずに、那月を待っていたのだろう。
「舐めてんのか?」
「舐めてへんよ。ただ、これは罰ゲームも何も無いバトル。せめて、公平に勝負せんと楽しないなと思っただけのことや」
「ちっ、気に食わねぇ」
「それは俺に一勝してから言うてや。今んとこ、自分の一敗やで」
「分かってるよ!」
先程の勝負で負けてしまったため、那月の勝利は消えた。
なら、せめてこの勝負に勝って引き分けにする。
那月はそう意気込んだ。
そのせいで、気づけなかった。自分を待っている人がもう一人いることにーー
「那月」
「え!?……翔!?」
「ちっ!……今頃気づいたのか。やっぱり今のてめぇには俺なんて視界外の小物に見えるか?」
「はぁ?何言ってんだ?」
急に現れたと思ったら、突然自虐を始めた翔に那月が動揺する。
「そこの新しいライバルに、簡単に鞍替えしたのかって聞いてんだよ!」
「……確かに、春馬はライバルだ。会って間もねぇけどな。……けど、俺一番のライバルは、俺が一番ぶっ飛ばしてぇって思ってんのはーー」
那月はそこで言葉を区切ると、翔の胸に拳を当てた。
「初めっから終わりまで、てめぇだ。翔」
「ふん、俺をぶっ飛ばせると思ってるのか?」
「思ってるよ。今はまだ勝てなくてもいずれ必ずな!」
「…………お前はもう…………」
翔が何かを呟いたが、那月の耳には届かなかった。
「あ?なんか言ったか?」
「なんも言ってねぇ。そんなことより、さっきの勝負、俺も混ぜろ」
「はぁ!?」
「この一層を最初に突破したやつが勝者だったな」
「ちょ、ちょまてってーー」
翔が勝手に話を進めるため、那月がそれを止めようとする。
しかし、もう一人の参加者がそれを認めた。
「せやで、その通り。一番最初に突破すれば勝ち。なんとも簡単なルールや」
「ちょ、春馬まで。……いいのかよ?」
「良いも何も願ったり叶ったりや。俺は那月ともやり合いたいし、それにーー翔くんとも手ぇ合わせてみたい思っててん」
「ふん、手加減はしない」
「もとより期待してへんよ」
二人が睨み合い、視線の間で火花を散らす。
勝手に燃え上がる二人を見て、那月は頭を掻きむしった。
「あぁ、もう!勝手にしろ!どうせ俺が勝つ!」
「俺や」
「いや、俺だ」
三人がスタートラインに並ぶように、横一列に並ぶ。
「百花、開始の合図は任せた」
「え!?私!?」
突然話に巻き込まれた百花が驚く。
しかし、三人の準備の整った背中を見て、息を吸った。
「それじゃあーー」
風が吹く。三人の前髪が揺れ、姿勢が下がる。
「よぉい!……スタートぉ!!!!」
ダンっ!!と音がなったと思えば、そこには三つの足跡と、砂埃のみが立ち込めていた。
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