100話 乗り越える障害
一周年です!!(だからと言って何があるわけでもない)
光が消え、眩んだ視界が元に戻ると、そこは周囲を岩手囲んだドーム状の空間だった。
「ど、どこだ……ここ……」
その場所を知らないB組の面々が口々にそう呟いている。
だが、A組の彼らはその場所を知っていた。
周囲に満ち満ちた殺意、息苦しいほど渦巻く魔力、閉塞的な壁に天井。冷たい床もそうだ。
ここはーー
「ダンジョン……」
『ザッツ、ライト!!』
那月が呟くと同時、転移させられた生徒たちの輪の中心に羽攘先生のホログラムが登場し、現れるやいなやそう叫んだ。
『いぇすいぇすイエス!お前達のいる場所はうちの高校の地下にあるダンジョンの第三層!お前達にはそこから地上まで出てもらう。ーーが!もちろん障害物競走だ!当然お前達の前には障害が立ちはだかる!』
羽攘先生は手のひらを顔の前で広げると、そこに三枚の真っ黒いウィンドウを出現させる。
ウィンドウは彼の手のひらから離れると、彼の周囲を周り出す。
『お前たちならそれを難なく乗り越えられると思うが、一つ俺から注意だ』
そう言うと羽攘先生は一枚のウィンドウを手のひらに乗せ、ひとつタップした。
瞬間、黒かったウィンドウが光だし、そこにひとつのシルエットを浮かばせた。
それはモンスターだ。手に大剣を持ち、耳が尖っている。
加えて二足歩行ということ以外はシルエットからは読み取れない。
しかし、那月はそれを見て、どこか見覚えのようなものを感じた。だがすぐに気のせいだとかぶりを振る。
そんな様子を気にもとめず、羽攘先生は注意を伝える。
『コイツは三層と二層を繋ぐ階段の前にいる、お前達の最初の障害だ!一応危険な奴だが、今のお前達なら死にはしないだろう。……ってのが俺からの最初で最後の忠告だ。以上!はい、スタート!!』
羽攘先生は唐突に話を切り上げると、始まりのピストルを打った。
刹那の静寂。
そしてーー
「「「「「うぉぉぉ!!!!」」」」」
総勢四十名で奏でる地鳴らしがダンジョン三層に響き渡った。
▼
那月は一番先頭を走りながら、隣と睨みを効かせていた。
「おい、邪魔すんな。最初の障害を倒すのは俺だ」
「いいや、俺や。あんたは色々目立ちすぎやで那月。せやから今回は俺の番や」
なんて会話を繰り広げながら、二人は一直線に伸びる道を走っている。
本来ならばモンスターが溢れかえる、『モンスターストリート』なんて呼ばれている所だが、今は虫の一匹もいやしない。
どういう理屈か知らないが、体育祭のためだけにモンスターをどこかに移動させたようだ。
おかげで走りやすくはあるのだが、目立ちたがり屋な二人からすれば少々物足りない。
よって、その物足りなさを埋めるのはーー
「せや那月。せっかくやから勝負しようや」
「勝負?」
「そ、どっちがあの最初の障害をぶっ飛ばすかのーー」
「乗った!!!」
「へ…………?ーーあ!ちょ待てや!!」
春馬の説明が終わらないうちに那月は全速力で走り出す。
今までのでも相当な速度で走っていたが、自力化け物級の那月にかかれば更なる加速も容易い。
そうーー那月であれば。
「じぶん、せっこいなぁ」
「ーーッ!!」
不意に隣から声をかけられ、那月は横を向く。そして、目を見開かせた。
余裕綽々といった様子の春馬が那月と併走していたのだ。
春馬のスキルがどんなものかは知らないが、おそらく現在の彼はスキルを使っていない。
つまり、那月に追いついてなお、飄々な態度を保てるのはーー彼の自力。
「驚いとるな。正直俺も驚いとるで、スキル無しでこのスピード走るヤツがおるとは思わんかったしな。せやけど、俺はもう一段ーー加速するで」
瞬間、春馬の体が下に沈み、気がつけばはるか前を走っている。
「ほな、お先〜」
走りながら手をヒラヒラと振る春馬。
対して那月はーーその体を沈ませた。
「スキル無けりゃ、俺が学年一位なんだよ!!」
叫ぶと同時、那月は加速した。
あっという間に春馬に追いつくと、その隣で不敵に笑う。
これには流石の春馬も焦りの色を滲ませる。
「や、やるやん」
二人は互いに睨み合うと、更に加速した。
▼
どれほど走ったことだろう。
二人はとうとう一本道の終わりを見つけ、ラストスパートをかけ始める。
そして、それを道の先から見ていた何者かが、待ちわびたと言わんばかりに咆哮を放った。
「ぎ、ギギャァァァ!!!」
耳朶にそれを聞きながら、那月達は道を抜け、とうとうその姿を視認する。
体に幾何学模様の刺青をした大型のゴブリン。片手に大剣を握る姿は、かつて那月が戦ったゴブリンセイバーだ。
ゴブリンセイバーは那月と春馬を見ると、その顔を醜悪に歪める。
数ヶ月前に己を死の淵まで追いやったその凶悪な表情を見て、那月はーー
「「ーー俺の獲物ぉぉぉ!!!」」
二人の咆哮がゴブリンセイバーの顔を醜悪から恐怖へと転換した。
そして、恐れ戦くゴブリンセイバーの前で跳躍した二人は、空中で一回転すると、ゴブリンセイバーの両肩にかかと落としを食らわせた。
「『デアプレス』!!」
「『フルスタンプ』!!」
那月と春馬はゴブリンセイバーの肩を踏み台にし、後ろに続く階段に突入した。
後に残されたゴブリンセイバーは、後続の生徒たちに見守られながら、息を引き取った。
『祝一周年』!!そして、『祝100話』!!
ということで、本日10月20日は本作の連載を開始してから一周年ということで、大変嬉しく思います。
また、そんな日に100話を迎えられ、感無量。
ここまで続けられたのも読者様方のおかげです。
これからも本作をよろしくお願いします。まだまだ続きますので、不定期更新ながら、暖かい目で見守ってください。
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