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10話 入学

「さて、荷物持ったし……行くか!」


 誰もいない室内に少年の声が響く。

 白い制服に身を包んだ黒髪の少年━━黒瀧那月は新入生であり、今日はその入学式である。


 弾二四高校は全寮制であるため、那月の手には着替えや日用品がパンパンに詰められたキャリーバッグが握られている。


 そして、反対の手には一枚の紙が握られていた。

 那月はそれを眺めてだらしなく頬を緩める。


「デヘヘ、デヘ、デヘヘへへ」


 その紙には


 ーー合格


 と、その一言だけが書かれていた。


 弾二四高校受験日から一週間、那月はまるでこの世の終わりかのように落ち込み、水も喉を通らない程だった。

 しかし、那月は地獄から天国へ引き上げられたかのように元気を取り戻した。

 それがこの合格通知書のおかげというのだ。


「何あの子?」「お母さん、あの人怖い」「見ちゃダメよ」「もしもし警察ですか……」


 ニヤニヤが止まらない那月。

 それを見た周囲の反応は実に冷たいものだった。


「え、あれって」「マジで!すげぇ、本物かよ」「コスプレじゃないの?」「でもあの紋章は……」


 しかし、那月の制服に目を向けた瞬間に好奇の眼差しは、羨望の眼差しへと変貌した。

 那月の制服には、塔に二本の剣がクロスして刺さる紋様が着いている。

 これは日本がプレイヤーに与えた紋様で、ダンジョン制覇という意味合いがある。

 プレイヤーたちは自分がプレイヤーである事を証明するプレイヤー免許証というものを持っているのだが、そこには必ずこの紋様が刻まれている。

 そして、日本に現在五つあるプレイヤー育成機関の生徒にもこれを付けることが義務付けられている。

 なお、一般人がこの紋様を使用する事は法律で禁止されている。

 よって、この紋様を付けた者はプレイヤーまたは、将来それになりうる逸材であるということだ。


 那月は周囲の視線を集めながら、しかしそれには気づかずに、大通りを真っ直ぐ進み駅にたどり着く。


「……あれ?君もしかして……」

「ん?あぁ、おっちゃん……!」


 那月は声のした方に目を向けると、受験日に那月に激励の言葉をくれた駅員のおじさんがいた。


「はぇぇ、その制服……無事受かったんだな」

「まぁ、余裕でしたね!」

「余裕か!そうかそうか」


 おじさんはくつくつと笑う


「でも、あん時は助かったっす。俺、ちょっと緊張してたから」

「そうかい?こんな老いぼれの言葉が助けになったんならありがたい限りだね」


 おじさんはそうだ、と手を打つと、ポケットの中をゴソゴソと漁り始める。


「おぉ、あったあった……ほれ、弾二四市行きのチケット」

「え?」

「お祝いや、こんなしょーもない物やけどな」

「え、いいんすか?」

「ええよ、ええよ。こんなんでいいなら持ってってくれ」

「すんません、あざす!」

「おう、頑張ってな。おっちゃん応援してるからな」

「うっす!頑張ります!!」




 電車に揺られ、七時五十分に弾二四高校に着く。

 相変わらず大きな校門。

 それを見て那月の胸は踊っていた。


「くぅぅぅぅぅぅぅぅ……どうだ!!みたか!!俺は受かった、受かったぞ!今日から俺は弾校の生徒だ!!」


 那月が校門の前ででかでかと宣言すると、後ろから声がかけられる


「あ、あのぅ」

「ん?」


 振り返ると、頬を桃色に染めた橙色の髪の短身の子供がいた。


「あの時は助けてくれてありがとう!やっぱり君も受かってたんだね……」


 子供は口早にそう言うと、顔の前で手を三角にして、よかったと小さく呟く。

 しかし、那月の反応はーー


「え、と……誰?」

「………もしかして覚えてない?」

「すまん」


 子供は残念そうにため息を吐くと、ぎゅっと目を瞑り、ゆっくり開けると那月の目を真っ直ぐ見る。


「僕の名前は朱桜すざくら 日奏かなで。受験の日、変なゴーレムに襲われそうな所を君が助けてくれんたんだよ」

「うーん、んー、ぐぬぬぬ……あ!そう言えば誰か助けたような気がしないでもない」


 確かに子供ーー日奏は那月に助けられている。

 しかし、那月が覚えていないのも無理はないだろう。

 ゴーレムに吹き飛ばされ、頭を強打、視界は血で赤く染まり、意識はゴーレムを倒すことだけに注いでいた。

 日奏を助けたのは戦いに邪魔だった、ただそれだけの理由である。


「まぁ、よく覚えてないけど、助けられて良かったわ」

「うん!君も受かってよかったね、えーと……」

「那月だ、黒滝 那月。これから三年間よろしくな日奏」

「うん、よろしくね!那月!」


 那月と日奏は軽く挨拶をして、握手をした。


「ところで那月は何組?」

「俺か?俺は確か……A組だった気がする」

「ほんとに!?僕と同じだね!嬉しいなぁ」


 日奏は顔いっぱいで嬉しさを表すようにニコニコと笑っている。

 その横顔を見て、那月は日奏と会った時から抱いていた疑問を投げかける。


「……なあ、日奏?」

「なに?」

「お前って……女?男?どっち?」


 そう、それは日奏の性別である。

 容姿はどちらとも取れない美形で、声は女性のように高い。

 しかし、制服は那月と同じ男物のブレザーで、一人称は「僕」である。

 ボクっ娘という可能性や男装趣味の女性という可能性がある以上、男と決めつける事が出来ないのだ。


「え、僕の性別?やだなぁ、聞かなくても分かるでしょ?見ての通り男だよ」


 日奏は制服を見せびらかすように手を大きく広げている。


 どうやら男が正解だったようだ。

 しかし、いちいち行動が可愛らしいのはなんなのだろうか。

 那月はそんな事を考えながら自分の教室を目指して校門をくぐった。




 ガラガラガラと音を立てて教室の扉を開くと、既に数人の生徒がそこにはいた。

 そして、扉のすぐ横の机には、机に突っ伏して寝ている金髪の少年ーー翔の姿があった。


「あーーー!!!」


 翔はビクッと肩を揺らすと、声で誰か分かったのか、それとも寝ている所を邪魔されて苛立っているのか、顔を上げるなり鬱陶しそうな目で那月を睨みつける。


「チッ!……お前も受かったのか……」

「おい、待てよ」

「なんだ?」

「なんだじゃねぇよ!何、何事も無かったかのようにもっかい寝ようとしてんだよ!約束!約束を守れ、こらぁ!!」


 那月を睨みつけた後、机に再度突っ伏そうとしていた翔に、那月が待ったをかける。

 それに対して翔は一瞬嫌そうな顔をしたが、直ぐに顔をただし、那月に向き直る。


「なんの事だ?」

「はぁ?とぼける気か!?約束しただろ、俺がこの学校に受かったら泣いて土下座して謝るってよ!!」

「記憶にないな……というかお前誰だ?」

「覚えてないとは言わせねぇよ!てか、お前さっき「……お前も受かったのか」ってカッコつけて言ってただろが!!」

「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと……はぁ、仮に俺がお前と何らかの約束をしていたとして、それは口約束だろ?だったら無効だ無効」

「口約束も約束だろうが!」

「知らないのか?約束は破るためにあるんだぞ?」

「知るかよ!この屁理屈キザ野郎!」

「キザっ……うるせぇ、このバカ声無能バカ!」

「なんだどこの!」

「やんのか?」

「やってやろうじゃねえか!」

「そうか、だったら表出ろや」

「いいぜ!」


 二人は周りの事など気にもせずに延々と口喧嘩を続ける。

 しかし、それはいつまでも続くわけも無く、とうとう二人の怒りは限界に達し、口喧嘩がただの喧嘩になろうとした時、外野から待ったがかかる。


「おいお前ら」


「「なんだよ!!」」


 二人が声のした方を向くと、紺色のスーツに身を包み、首元にヘッドフォンを掛けた男が笑顔で二人を見ていた。

 周りを見ると、他の生徒は自分の席につき那月たちのやり取りを見ている。


「席つけ」

「「…………」」

「聞こえなかったか?」

「「うす」」


 男の威圧的な言葉に那月と翔はそれぞれに席に腰を下ろす。

 全員が席に着いたことを確認して、男は話を始める。


「はぁ……ここは名門だ。受かって嬉しいのはよ〜くわかる。……だがな、お前らは今日からその名門の生徒だ。いつまでも中坊気分で浮つかれちゃ困るわけ……わかる?」


 生徒全員が首を縦に振る。

 男が那月と翔に視線を向けると、二人は首が取れるくらい力強く首を縦に振った。


「分かればいい。……さて、いきなり説教から入ってすまなかった。俺はこのクラスの担任を務める音淵ねぶち 智也ともなりだ。好きな物は音楽で嫌いなもは……バカだ」


 音淵先生はニッコリと笑う。

 那月と翔は、頬をひくつかせながら何とか笑う。


「三年間よろしく」

「「「「「「「「よ、よろしくお願いします」」」」」」」」


 この時一年A組に暗黙のルールが立てられた。


『バカだけはやらないようにしよう』

 と。


「んじゃ、時間も押してるし自己紹介よろしく。とりあえず名前と好きな物嫌いなものスキルとあとは適当に言いたいこと言ってくれ」


 音淵先生はそう言うと、椅子に座る。

 どうやらもう喋るつもりはないらしく、ヘッドフォンをみみに付ける。

 それを見た翔が変わって席を立つ。


「白波 翔。好きな物は酸っぱい食べ物、嫌いな物は……ディクト」


 その言葉を翔が口にした瞬間、教室が少しザワつく。

 ディクトとはプレイヤー、一般人に関わらずスキルを犯罪行為に使ったもの達の総称で、言ってしまえば犯罪者の事である。

 ディクトはスキルが現れた当初から存在していて、最初は警察が取り締まっていたが、今ではディクトの取り締まりはプレイヤーの仕事となっている。


「スキルは《雷電》。雷を出したり操ったりできる」


 そう言うと翔は人差し指を立てて、指先に雷を発生させる。

 ジジ、という音を立てて翔の指が黄色く光る。


「けっ、スキルなんか見せちゃって、これだからキザボーイは」

「んだと……?」

「ゴホン」


 那月が針を垂らし、翔がそれに食いついて、再び喧嘩が始まるかと思われた時音淵先生の咳払いが聞こえ、二人は静かになる。


「まぁ、こちらから仲良くしたいとは思わない。俺はこの学校を自分の踏み台としか思っていない。だが、クラスメイトとして、足を引っ張るつもりはもちろんない。三年間よろしく」


 クラス中から拍手がなる。

 中には微妙な顔をしている生徒がチラホラといる。

 那月も何か物言いたげな表情をしていたが、音淵先生の顔を見て踏みとどまっていた。


「次は私ーーーーーー」




 それからクラスメイト自己紹介が続き、最後に那月の番が回ってきた。


「よしっ!最後は俺だな!俺は黒滝那月。好きな物は肉で嫌いなものは野菜」

「全部食いもんじゃねぇか」

「……スキルは《重力》。触れた物体にかかっている重力を変えられる!」

「ほんのちょっとな」

「……………俺はこの世界、いやスキルなんて物ができてからこれまでに生まれた全ての特級を超えて最強のプレイヤーになる。それが俺の目標だ!どっかの透かし野郎に似てるが俺もこの学校は踏み台だと思っている。三年間よろしくな!」

「まぐれで受かった無能が最強ね」


 那月の自己紹介は無事に終わった。

 終わったのだがーー


「お前さっきからうるせぇぞ!言いたいことがあるならはっきり言いやがれ!!」

「ふん、全部ホントの事じゃねぇか?それともあれか?図星だからキレてんの?」

「だったら証明してやんよ、俺が最強のプレイヤーになれるってことを!」

「ぜひ証明してもらいたいもんだ」

「おし、表出ろ」

「言われなくても」


 二人がヒートアップして、席をたとうとしたら辺りに不快な音が響き渡る。

 頭が痛くなるその音にクラス内の全員が耳を塞ぎ込む。

 一人を除いて。


「言い忘れていたが、俺のスキルは《振響》(しんきょう)。波を自在に操り、音を変化させたりできる。今みたいにな」


 音淵先生が指を鳴らすと、不快な音は止まる。

 そして、先生はヘッドフォンを外して那月と翔を交互に見る。


「白波、黒滝、二回目だ。次はないぞ、分かっているな?」

「「は、はい。すんませんした」」

「分かればいい。ところで自己紹介は終わったか?」


 生徒全員が頷く。


「そうか、んじゃ今日は帰っていいぞ。分かってるだろうがウチは全寮制だ。荷物を持って隣の『1ーA』と書かれている建物に行ってくれ、そこがお前らの新しい家だ。それじゃさいなら」


 音淵先生は教室の扉開けて出ると、閉める前にそうそう、と何かを思い出したように教室を除く。


「黒滝、お前居残りな。補習だ」

「え、なんで?」


 音淵先生は扉を閉めて教室を出ていった。

 みんなが帰り支度をする中那月は一人机に囚われていた。

本作をお読みいただきありがとうございます。


「面白い!」


「続きが気になる!!」


「頑張れ!!!」



と思って頂けたら


下記の☆☆☆☆☆から評価をよろしくお願いします。


面白かったら★★★★★、まぁまぁじゃね?と思われた方は★☆☆☆☆。


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何卒よろしくお願いします。

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