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いざなうもの②


 かくれ鬼の移動範囲は神社の境内まで。外に出た瞬間、無条件で失格となる。

 Aはとっさに従姉を呼び止めた。

「Cちゃん、ダメだって! ルール違反だよ!!」

 しかしCちゃんは振り向きもせず、神社の裏手から堤防に向かって伸びる坂道を駆け上がってゆく。

「ちょっと、Cちゃん!?」

 声を張り上げるが、青い後ろ姿は立ち止まることなく遠ざかっていってしまう。

 Aはやむなく石の柵を乗り越え、かくれ鬼を一時離脱してCちゃんの後を追った。

「Cちゃん! 待ってよ、Cちゃん!!」

 急勾配の坂をすいすいと登り、Aの制止も聞かず堤防道路の奥へと走ってゆく。

 何度呼びかけても無視され、ムキになって追いかけたものの、Cちゃんとの距離は一向に縮まらなかったらしい。堤防道路を道なりに五分ほど走ってゆくと、二人は集落の境にかかる古い石橋までたどり着いた。

 石橋を越えてゆくCちゃんを尚も追いかけようとしたその時、Aははたと気付く。

 ここから先は隣町、つまり校区外だ。

 保護者の同伴なく、子供だけで校区外に出ることは小学校から禁止されている。

かと言って、様子のおかしいCちゃんを放っておくわけにもいかない。

 少し躊躇したが、AはCちゃんを追いかけ石橋を渡った。

 橋を渡った先にはまるで路地裏のような、軽トラ一台がギリギリ通れるほどの幅しかない道路が、無人駅に向かって伸びている。

 いくつかの曲がり角が枝分かれし、くねくねと蛇のようにうねる迷路のような道を、Cちゃんは奥へ奥へと走ってゆく。

 その迷いのない足取りに、Aの脳裏にひとつの疑問が浮かんだ。

 一体、Cちゃんはどこに向かっているのか。

 そもそも彼女はこの土地の子ではない。

 普段はA一家と祖父母が暮らす町から車で数十分ほどの距離の隣の市に住んでいる。

 両親が共働きのAや従姉弟たちは、春夏冬の長い休みの間は親が帰って来るまで、祖父母の家で面倒を見てもらっていた。

 今自分たちがいる隣町は、CちゃんにもAにとってもあまり訪れる機会のない、馴染みの薄い土地だった。

 突然かくれ鬼を抜け出して、従姉は一体どこに向かっているのだろう。

「…………」

 不意に、Aは立ち止まった。


 ――――あの子は一体、誰なんだろう?


 ここに至って彼女は、自分が追いかけているのは本当に従姉なのか疑いを抱いたのだという。

 するとAの動きに合わせたかのように、青い服の子供は狭い道路の真ん中でぴたりと立ち止まりった。

「……Cちゃん?」

 呼びかけてみるが、やはり返事はない。

 しかしその時、その子は初めてAを振り返った。


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