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いざなうもの①

 私がまだ小学生だった頃、田舎の子供たちの夏休みの過ごし方といえば、日中は家の中で過ごし、日が傾きだした頃に外へ遊びに行くというパターンが多かったように思う。

 当時、私やAが住んでいたのは堤防と川に囲まれた小さな集落で、町と言うより「村」という言葉が似合う、(ひな)びた土地だった。

 神社や空き地は子供たちの秘密基地となり、暑さの厳しい日は川遊びで涼を取る。お腹が空けば、駄菓子屋さんに駆け込む。

 そんな地元の子供たちを、畑仕事や庭の手入れに精を出すお年寄りがさりげなく見守るっているような、昭和の名残を色濃く残す長閑な田舎町だった。

 盆が終わり、夏休みも終盤に差し掛かったある日のこと。その日、Aはいつものように従姉弟や友達と神社で遊んでいたらしい。

 田舎らしい大らかさと言うべきか、社務所は基本的に無人で、祭りや神事以外に宮司や氏子衆が常駐しないその神社は、子供たちにとって格好の遊び場だった。

 石造りの大きな鳥居をくぐった真正面には、大国主命を祀る拝殿がそびえている。左手には合祀された秋葉大権現の石造りの社が、更に右手に見える赤い鳥居の奥には稲荷大明神が鎮座する。

 その昔、村が大規模な水害に見舞われた復興の際に、区画整理の一端として、集落に点在していたい小さな神社が一箇所にまとめられたのだという。

古びた狛犬や社たち、苔生した手水舎。

 周囲を囲む鎮守の杜には、季節を通してひんやりと冷たい空気が漂っている。

 子供たちは大人の目を盗んで杜の中に秘密基地を設け、神社を囲む石垣をこぞって登った。

 神社の中でAの興味をひときわ強く引いたのが、秋葉大権現の社の裏手、杜の中にひっそりとたたずむ小さな祠の裏に置かれた六体の石像だった。

 大きさはまちまちで、膝上の高さまであるものもあれば、三十センチにも満たない小振りなものまである。いずれもかなり古く、風化し、原型を留めなくなっていたが、よく見れば「地蔵」に似ているとAは感じたらしい。

 角のとれた縦長の五角形の中に、お地蔵様が彫られているように見えたのだと言う。

 しかしお地蔵様だとすると、六体の石像にお供え物や線香があげられているところを見たことが無かったという。

 何より、それらは無造作に地べたに置かれていた。

 道端ならともかく、神社の境内にあるものにも関わらずだ。雨避けも供台も無く、祠の後ろに隠されるように置かれていた。

 幼いながらにも、Aは六体の石像の存在に違和感が消えなかったそうだ。


「もういーかーい?」

「まぁーだだよー」

 当時、Aの学校ではかくれんぼと鬼ごっこを掛け合わせた「かくれ鬼」という遊びが流行していた。

 鬼が目を閉じて数を数えている間に隠れる所まではかくれんぼと同じだが、鬼は隠れていた子を見つけたら捕まえて「タッチ」をしなくてはならない。隠れる方は鬼に見つかっても、走って逃げ切れたらゲームオーバーを免れる、といったルールだ。

 そのため、鬼は一人ではなく二人以上いた。

 夕立もなくからりと晴れてたその日、午後四時を過ぎて外が少しずつ涼しくなってきた頃、Aたちは神社の境内で「かくれ鬼」を始めた。

 ジャンケンに負けたAと従弟のBくんの二人が最初の鬼となった。

 範囲は境内まで。神社の外に出た瞬間、失格となる。

 鳥居と向き合う形で目を閉じ、百数える二匹の鬼を尻目に、他の四人は社や倉庫、社務所の裏、鎮守の杜に、知恵を絞って一斉に身を潜ませる。

 かくれ鬼の醍醐味は、鬼に見つかってからにある。

 普通のかくれんぼのように、見つかって終わりではない。

 見つかりにくいだけではなく、見つかってもすぐに逃げられるような所、鬼の動きを窺える、身動きの取りやすい場所に隠れる必要があった。

「もういーかーい?」

 皆の答えが「もういいよ」とそろえば、鬼は四人を探し始める。

 二人で示し合いAは鎮守の杜へ、Bくんは社務所へ向かった。

 隠れた4人はAにとって慣れ親しんだ子たちだったため、必然的に行動パターンもあらかた予測できる。

 虫が嫌いな従姉のCちゃんは、草木の生い茂る杜の中にはまず隠れない。

 大抵、社務所や倉庫を選ぶ。他の三人は杜か倉庫、社の陰のうちのどこかだった。

 鬼が待機する鳥居に近い倉庫や社務所より、社の陰から鬼の様子を窺ったり、少し離れた鎮守の杜に隠れたりする子は多い。

 そう目星をつけ、さっそく杜の奥へ向かおうとした、その時。

 Aの視界のすみに、青い人影がさっとよぎった。

 振り向けば、境内をぐるりと囲む石の柵の合間から、青い服を着た小さな後ろ姿が走ってゆくのが見えた。

 Aはその後ろ姿を従姉のCちゃんだと思ったらしい。その日、Cちゃんが青いワンピースを着ていたからだ。

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