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咎色の徒花  作者: 久條奏
1/3

- Prologue -





 その広場には大勢の民たちが訪れていた。広場の中心、石畳で出来上がった舞台を囲むようにして、民衆はその場に狂乱の熱を渦巻かせる。

 彼らの瞳は輝いていた。彼らを止める者は誰もいない。誰もが爛々と光をたたえた目で、舞台上の鳥籠とりかごへと、焦点の合わない眼差まなざしを浴びせていた。

 舞台上には暗幕で覆われて中身を隠された鳥籠と、場違いな程に冷淡な断頭台ギロチン、黒い法服を纏った男たちが、震える空気の中でただ無機質な趣で佇んでいる。

 やがて、

 カンッ――――――!!

 法服を纏った男の一人が、手に持った木槌で鐘を鳴らした。

 観衆は一瞬静まり返った後、堰を切ったように再び狂乱の嵐を巻き起こした。血が湧き上がるような、地響きと紛う程の怒号が更に激しくなる。


咎人とがびとよ 罪を償え!』

けがれた血を断ち切れ! 罪を贖う最後のしるべだ!』


 厳粛な面持ちを張り付けた法服の男二人はそう叫ぶと、鳥籠から暗幕を取り去った。

 割れんばかりの叫声に囲まれた立方体の鳥籠、もとい鉄格子の中で、立ち尽くすのはひとりの少女であった。

 純白の髪に、純白の眉、睫毛まつげ、肌。全てが純白。あまりにも純白。

 まだ年端の行かぬ純白の少女は、その華奢な肢体を恐怖に震わせる。おもむろに左右に首を振り、唇を震わせ、涙を零す。喉が震え、叫ぶことすらも出来ない。

 両手首、足首に鉄錠をかけられて、逃げることもできない彼女は、法服の男達に引っ張られて格子から出され、歩かされる。

 その先に無機質にそびえ立っている断頭台へと、彼女は為す術も無く連行されてしまう。

 一歩、また一歩、彼女はまさに死に向かい歩みを進める。


―――ああ、どうして


 微かに動いた少女の唇が言葉を刻む。


―――ああ、助けて!助けて、兄さん!


 しかし、その声は誰にも届かず、徒花あだばなとなる。


 黒衣の男達の抗いようの無い力で、彼女はまたたく間に断頭台へと捻じ伏せられる。木の板に首を固定され、もう逃れるすべなど無い!




『罪深き悪に汚れた怪物に、正義の柱を以てして断罪せんとす……さあッ!』



―――嫌だ!いやっ、やめて!違う、違うの


 迫り来る死を目前にして泣き叫ぶ少女をよそに、黒衣の執行人は、断頭台の鈍色の刃を落とす。


 生を断たれるその数瞬前、純白の少女は呟いた。


―――わたしは、違うの・・・わたしじゃ・・・ないの


 ただその声もまた、徒花へと化したのだった。


 





 


 

 

 

 

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