- Prologue -
その広場には大勢の民たちが訪れていた。広場の中心、石畳で出来上がった舞台を囲むようにして、民衆はその場に狂乱の熱を渦巻かせる。
彼らの瞳は輝いていた。彼らを止める者は誰もいない。誰もが爛々と光をたたえた目で、舞台上の鳥籠へと、焦点の合わない眼差しを浴びせていた。
舞台上には暗幕で覆われて中身を隠された鳥籠と、場違いな程に冷淡な断頭台、黒い法服を纏った男たちが、震える空気の中でただ無機質な趣で佇んでいる。
やがて、
カンッ――――――!!
法服を纏った男の一人が、手に持った木槌で鐘を鳴らした。
観衆は一瞬静まり返った後、堰を切ったように再び狂乱の嵐を巻き起こした。血が湧き上がるような、地響きと紛う程の怒号が更に激しくなる。
『咎人よ 罪を償え!』
『穢れた血を断ち切れ! 罪を贖う最後の導だ!』
厳粛な面持ちを張り付けた法服の男二人はそう叫ぶと、鳥籠から暗幕を取り去った。
割れんばかりの叫声に囲まれた立方体の鳥籠、もとい鉄格子の中で、立ち尽くすのはひとりの少女であった。
純白の髪に、純白の眉、睫毛、肌。全てが純白。あまりにも純白。
まだ年端の行かぬ純白の少女は、その華奢な肢体を恐怖に震わせる。おもむろに左右に首を振り、唇を震わせ、涙を零す。喉が震え、叫ぶことすらも出来ない。
両手首、足首に鉄錠をかけられて、逃げることもできない彼女は、法服の男達に引っ張られて格子から出され、歩かされる。
その先に無機質にそびえ立っている断頭台へと、彼女は為す術も無く連行されてしまう。
一歩、また一歩、彼女はまさに死に向かい歩みを進める。
―――ああ、どうして
微かに動いた少女の唇が言葉を刻む。
―――ああ、助けて!助けて、兄さん!
しかし、その声は誰にも届かず、徒花となる。
黒衣の男達の抗いようの無い力で、彼女はまたたく間に断頭台へと捻じ伏せられる。木の板に首を固定され、もう逃れるすべなど無い!
『罪深き悪に汚れた怪物に、正義の柱を以てして断罪せんとす……さあッ!』
―――嫌だ!いやっ、やめて!違う、違うの
迫り来る死を目前にして泣き叫ぶ少女をよそに、黒衣の執行人は、断頭台の鈍色の刃を落とす。
生を断たれるその数瞬前、純白の少女は呟いた。
―――わたしは、違うの・・・わたしじゃ・・・ないの
ただその声もまた、徒花へと化したのだった。