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エピローグ

 今話で一応の完結となります。二章も以降も書くかもしれません。では、お読みいただきありがとうございました。

 AIとの激戦を終えた翌日。始業式まであと一日と迫ったその日に和樹は真治に電脳研に呼び出された。至急とのことだったので快速電車に乗ってここまで向かってきたのだが、一体何の用があるのだろうかと和樹はいぶかしがる。そんなことを考えているうちに白亜の建造物の近くまで寄っていたので自動ドアをくぐり受付で自分の名前と真治に呼び出されたと簡潔に伝えた。

 そうしたら受付のお姉さんが少し驚いた顔をして、案内するように指示を受けていますと言ってきた。二週間も通い詰めだったのですでに真治の研究室までの道順は把握している。それをそれとなく伝えると部屋が変わったのだという返答が来た。それならば仕方ないと和樹は案内を頼む。

 受付のお姉さんを先頭にしてエレベーターの中に入ると、お姉さんはおもむろに最上階のボタンを押した。そのことに少し嫌な予感がしてくる和樹だった。最上階につきエレベーターから降りるとお姉さんはすぐに右手に折れる。そこは真っ直ぐで百メートルはありそうな長い廊下だった。カツカツとリノリュウムの廊下を歩きながら和樹は嫌な予感が当たったと誰知らず肩を落とす。そして廊下の突き当りの重厚な扉の前に案内された。

 お姉さんがノックをしている最中にざっと扉の周りを見てみると所長室と書かれたプレートが上辺に取りつけられているのが見えた。嫌な予感は絶好調である。そうこうしているうちに応対は終わったのだろう扉は開け放たれ和樹は中に入るように促される。仕方なく中に入ってみればこちらに背を向けて座っている初老であろう人物が目に映る。それにわずかに違和感を覚える。そしてその違和感が口からぽろっと出てしまった。

 「森阿博士……?」

 「よくわかったね、芹葉君。だが今の私は所長でもあるのだよ」

 ――あのくそ理事長に押し付けられたんだがね。そう言って苦々しげに表情を歪める姿は間違いなく真治本人だ。

 「まぁ、そんな事はどうでもいい。今回君を呼んだのは転科が決まったからだ」

 「転科ってまさか、電脳科にですか!?」

 ――そうだ、特待生枠でねじ込んでおいた。ついでにこの試験も受けてもらう、あぁ推薦状と願書はすでに提出済みだからな。試験日は九月二十五日だ。そう言って真治はパンフレットを和樹に渡してくる。

 「――国際電脳技官資格。最難関資格の一つじゃないですか!! なんでこんなものを受けなきゃななないんですか!?」

 「でなければ黒田直行電脳技官の指導を受けさせる訳にはいかないからだよ」

 そこで和樹は真治にいくらか説明を受けた。直行が普通科の担任をやめ電脳研に在籍しながら電脳科の副担任をやること。和樹自身を準職員として扱うためには電脳技官資格が必要であり現行の法制度で受験資格があるのが、国際電脳技官資格試験しかないこと。和樹を準職員として扱うのは和樹の保護のためなどだ。

 それらの言葉に和樹は納得せざるを得なかった。肩を落としながらとぼとぼと所長室を退出していく。その扉が閉じると奥のほうにしつらえられていた扉が、軽い音を出して開いた。そこから出てきた人物は、先ほどまで話題に上がっていた直行だ。

 「あれでよかったのかね、黒田君」

 「いいんですよ、あれで」

 ――首輪付けろって五月蠅かったですからね。今回の和樹の転科や国際資格の受験は警察庁からの要請だった。和樹の人格面はあまり問題視されてなったが、能力のほうは大変危険視されていた。主に警察庁上層部、もしかしたらもっと上からかもしれない。だから監視が楽な電脳科に転科させ、国際資格を取らせることで有事の際に裁くのも利用するのも簡単にしておこうという腹なのだろう。

 「ま、こっちは簡単に丸め込まれるわけにはいきませんからね」

 子供を守るのはどこまで行っても大人である直行たちの役目だ。だからこそ今回、理事長と協力して旧所長派の徹底的な排除を行ったのだ。その時の旗頭にされたのが真治である。元々は副所長の座についていたが旧所長の方針に真っ向から反抗し、ことごとくを痛烈に批判したため、客員研究員などという窓際に左遷されたのだ。クーデターを起こすのにちょうどよいと理事長に説得され最初は渋ったものの、電脳症患者の待遇をよくするためという固い理念に真治は折れた。これによって直行の電脳研を盾にしちゃえ構想が実現したのだ。

 「電脳研もだいぶ風通しがよくなりました。これなら次の段階に移行できます」

 「君が言ってた電脳症の子供たちの保護かね」

 「はい、あの二人はテストケースとして押し通しましたが、これからは正式に予算を通せます」

 「――君も難儀な性格だね」

 ――性分ですので、ほっとけないんですよ。偽善だとはわかっているんですがね。そう言って直行と真治はそろって肩をすくめた。


 和樹にとって衝撃の宣言から一晩たちその姿は学園の校門前にあった。すでに始業式は始まっている、なぜ和樹が出席していないかというと転科者は始業式に出席しなくてもよいとの直行からのお達しがあったからだ。

 和樹は軽くため息をつきながら電脳科の校舎がある第二棟のほうへと歩いていく。もう九月だというのにセミの鳴き声が耳朶を打つ。それにわずかに眉を顰める和樹、まだ残暑が厳しいこともあり不快感を覚えているのだ。

 早く涼しい場所へ向かおうと足を速める和樹。その願いのまま何とか第二棟へとたどり着くとすぐさま第二職員室へと向かっていく。第二職員室は電脳科教諭陣専用で少し奥まった場所にある。職員室に向かう丁字路に差し掛かったところで和樹は誰かとぶつかってしまった。急いで謝ろうと廊下についた手を放しぶつかった相手のほうを見る。目が合った。吸い込まれるような深い深い黒瞳、しかしながら以前のような飲み込まれるような恐怖は感じず、そのうちに僅かばかりの意思の光が垣間見えた。

 「……サリア」

 思わず名を呼んでしまった。その声を聴いたサリアはパッと明るい顔になる。そして右手を差し出し和樹にこう声をかけた。

 「個人識別番号の交換をしませんか!!」

 その童女のような反応に和樹は微かに苦笑する。そして立ち上がった後同じように右手を差し出し声を出す。

 「いいよ、サリア。俺の個人識別番号は……」

 そうして個人識別番号を交換しクローズチャットが行えることを互いに確認し、一緒に並んで職員室のほうへ向かっていった。


 「お~い、全員席に就け~」

 喧騒が満ちる教室のドアを開けて直行が気の抜けた挨拶をする。

 「今日は私の紹介と転科生と転校生の紹介するぞ。とは言っても私のことはよく知っているだろうから副担任になったとだけ言っておく。メインの二人の紹介だ、入ってこい」

 そうドアに向かって呼びかけると恐る恐る二人の男女が教室に入ってくる。言わずと知れた和樹とサリアだ。ドアを開けてから教卓の横まで歩く二人に教室中の視線が注がれている。それに和樹は緊張しっぱなしで隣でマイペースにたたずんでいるサリアのことを心底うらやましいと思っていた。

 「まず男のほうが転科生な、名前は芹葉和樹だ。つぎ言わずもなが女子のほうが転校生で長沼沙里亜。以上だ、あとは適当に休み時間にでも質問攻めにしろ」

 「黒田先生、ホームルール内で行われるべき重要なものが抜けてます!!」

 「なんだ赤貝言ってみろ」

 「歓迎会です!!」

 ――出欠取り終わったらな~。直行の返答はことさら軽かった。そして出欠確認も終わり、その流れのまま歓迎会になだれ込んだ。ここでも要がビールがないですよ黒田先生とあほなことを言って直行に一刀両断されていた。

 一方、沙理亜のほうでは秒殺の旬なる男子生徒が電脳戦に挑もうとしていた。対戦ルールは互いの論理防壁がなくなるまでの何でもあり。和樹としてはやめとけと忠告したかったが要に絡まれていたので無理だった。こいつほんとに酒飲んでないだろうななどと埒もないことを考える。

 それはともかく対戦の結果といえば言わずもなが沙理亜の勝利だった。始まったと思ったら一拍後には秒殺の旬と呼ばれていた男子生徒が降参した。その周りでは秒殺が瞬殺? だな、じゃあ、瞬殺の旬か、だね~などと無責任な声が聞こえてきたが。対戦相手がわはは、俺はこのクラスで最弱……。とノリノリで演じているので問題はないのだろう。

 忘れてた電脳科は【変人達の楽園】と呼ばれているんだった。でもまぁ――

 『イリス、なんだか楽しくなりそうだね』

 『はい!! マスター!!』

 そんなこんなで、転科一日目、二学期最初の一日は騒がしくも穏やかに過ぎていったのだった。



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