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高嶺の花  完全版  作者: 早川隆
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第十五章  海峡 (2)

しかし、その平和は、ほんの束の間だけのことでありました。


東西に長く宏大な版図(はんと)を持つことになった大毛利氏ですが、拡大する武家勢力というものは、その宿命として、次々と増える新参の配下らに、新付(しんぷ)給地(きゅうち)を与えてゆかねばなりません。短期間にきわめて大きく成長した毛利家においても、この給地が足りなくなる事態が生じ、財政を慢性的に圧迫しておりました。


足りない分は、奪い取るしかございません。こうして、毛利領の両側の(さかい)で同時に、大規模な(はげ)しい戦いが起こることになります。東では、元就公積年(せきねん)の宿敵、尼子(あまご)氏と。そして西では、これまで平和的な関係にあった大友氏とのあいだに、ただならぬ戦雲が立ち込めて参ったのでございます。




ある夜、子どもたちを寝かしつけたあと、市川経好殿と局は、夫婦差し向かいで軽く酒などを飲み、(くつろ)いでおりました。その日も朝から忙しく立ち働き、くたくたになっておりましたが、こうして二人きりで過ごす時間は、なににもまして貴重なものでございます。


子どもたちの成長について。市川家の奉公人どもの噂。山口の町で聞こえた噂話や笑い話など。()わされるのは、とりとめもない話題ばかり。やがて話題は尾崎局のことに至り、ついで毛利家中の人となりについての、経好殿の月旦(げったん)のようになりました。


(わし)隠棲(いんせい)をやめ、世に出た当初は、新たな吉川(きっかわ)当主となった元春(もとはる)様の与力として政務に(あずか)ったが、なんというか、あの元春様は、大した侍じゃ。」

剛勇無双(ごうゆうむそう)の士と、皆が。」

「そのとおりじゃ。じゃが、豪傑に有りがちな粗暴さや傲慢(ごうまん)さは、あの方に関しては、一切ない。日ごろは口数少なく、まるで物言わぬ木像が屋敷を歩いておるようにすら思える。しかしその実、人に対し優しく思いやりがあるところは、兄上の隆元様や、尾崎局とおんなじじゃ。」


「さようでございますか。して、あの(ふくろう)のような御方は?」

日頼(にちらい)様のことじゃの。」

経好殿は苦笑し、毛利元就公について、こう答えました。

「あの御方は、そう・・・なんと申すか、ただの愚痴言いの老人じゃ。」

「まさか!世間では、油断も隙もならぬ、虎狼(ころう)のようなお人と。」

「それが意外での。日頃は、本当に、ただくどくど愚痴を並べ立てるだけの、ただの口うるさいご隠居じゃよ。とにかく、話が長くての。儂も、日頼様のお側近くに伺候(しこう)する際は、多めに時を見ておく。」

「妾の、知らぬことばかりです。」

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