第十二章 和解 (4)
世に様々な手打ちのかたちがあるとしても、勝ったほうが、敗れたほうへまずこうまで温かい手を差し伸べる例はございますまい。それだけ、この時の毛利家は、みずから変わろうと懸命だったのでございます。
しかし、かな様は、眼を瞑ったまま、無言でした。
案に反し、喜色を面に表さないかな様に対し、内藤家のものどもは、やや焦りを感じ始めました。もともと、かな様は過去二度にわたり、まさにこの座敷で、亡き内藤家二代にわたる当主に対し啖呵を切り、そしていきなり突っ伏してそのまま号泣などした過去がございます。今回も、なにか驚くような挙に出るのではないか、あるいは毛利家当主の正室に対し、あり得べからざる無礼を働いてしまうのではないか、彼らは胸騒ぎを覚え始めました。
あやや様は続けて、言いました。
「毛利はの。」
澄んだ目で、眼を瞑るかな様を真正面から見つめ、
「過去、たしかに無理もよう、した。無論必死で、ただ生き残らんがためだけにしたことじゃ。小早川家、吉川家、これらが家内の諍いで弱るは、安芸より外からの外敵の侵入を赦し、いずれ我が家に飛び火してくるは必定。そのための予防であったが、世間から見れば、単に我が子を送り込み、欲得ずくで乗っ取ったとみられても仕方がないことであろう。それはようわかっておる。」
ここでひとつ、深いため息をついて、
「小早川では、毛利に抗して高山の城に籠もる家内の面々を根切りにした。吉川家でも、無理をしたの。ご先代、興経どのをあとから成敗するまでのことがあったか、この点、毛利の家のなかにも、さまざまな思いがある。」
かな様は、表情を変えず、まだ目を瞑って聞いております。
「毛利が生き残るために、そのときは仕方のないことじゃった。しかし、やり過ぎた面は、ある。宮庄に対する仕打ちも、そうじゃ。そのことについては、率直に、妾からまず詫びを申したい。」
あやや様の率直なお言葉に、かな様は、目を開きました。そして、にこっと笑い、軽く頭を下げ、その謝罪をこころよく受け入れる態度を示されたのです。
特に、あらたまった言葉はなし。しかしそれでも、あやや様、さらに、その場に居合わせたすべての人々に、かな様の暖かなお心がすぐと伝わりました。
積年の恨み重なる毛利と宮庄の手打ちは、女子同士のこの簡単なやり取りで、疾く、成ってしまったのでございます。
ここで、横から、竺雲恵心殿が口を入れました。
「この婚儀、拙僧から毛利家へ言上したことでござる。過去の行違を水に流し、両家相和して、新たなる山口を創る。そうしたご縁を取り結びたいのでござる。」