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序
作中に書かれた氷上太郎なる者が、天文年間に海を渡り、山口に来たという確たる記録は現在のところ、見つかっていない。また、かな、という女性と関わりを持ったという記述についても、それを裏付ける資料は知られていない。
いくつかの名前は、当時の記録に見られぬものである。かな、が作中にあるように安芸宮庄家の出であるという証拠も見つかっていない。
よって、この作はまったくの架空の話であるのかもしれないが、もちろん、そうと言い切れるわけでもない。
氷上太郎が名を換え、後年、山口に向け海を渡ってきたこと。このことだけは、確たる事実として歴史に残っている。