第二十三章 ただ、なすべきことを (4)
やにわに、左座が立ち上がって種子島を放ち、正確に物見の最後尾に居た男の首筋を撃ち抜きました。男の喉から白い肉塊が横に飛び、背後から血が生きもののように飛び出して、虚空に散りました。男は、そのままどさりと膝をつき、何も言わずに事切れました。
続いて、根来衆の一名が先頭を狙い、一弾を放ちました。それは確実に彼の顔面を叩き、顔相がぐしゃりと潰れ、赤と黒のうつろな穴だけとなりました。弾丸はおそらく兜の鉢に当たって止まり、背後に血は飛び散りませんでしたが、瞬時に命を喪ったこの顔のない身体は、しばらく左右にふらふらと揺れ、そのままどうと横倒しに倒れ伏しました。
そのあと、同時に三ヶ所から種子島が火を噴き、広場に残った、哀れな、狼狽えた男どもを正確に捉えました。同時に細かな血飛沫が飛び、二人が斃れました。一人だけ、面頬に当たった弾丸が弾け、錣に飛んで火花が散りましたが、なんとかその一撃をかわしました。彼は、やにわに駆け出して広場を逃れようとしましたが、彼のその幸運も、ほんの数歩のあいだその生涯を延長しただけに終わりました。
左座が、小脇に用意し、立てかけていた二丁めの種子島を手にとって、悠々と彼の背中を撃ち抜いたのです。
広場には、また静けさが戻りました。
一拍おいて、喚声が湧き、櫓のあちこちから人が立ち上がりました。皆々、拳を振り上げ、笑いあって、口々に快哉を叫んでおります。広場の脇に伏せていた者らも、樹間から躍り出てきて、手にした種子島を宙に向け勢いよく突き上げ、櫓門の上に立つ市川局のほうを見上げました。
元教様がその前に飛び出し、両手ではげしく皆を制し、厳しい声音で言い渡しました。
「皆、持ち場に戻れ!まだ戦は、ほんの始まりに過ぎず。このあとすぐ、敵勢数百、ひたひたと寄せて参るぞ!気を抜いてはならぬ!」
そしてすかさず、左座の破鐘のような声が響き、あとを引き取ります。
「若君の命なり!皆々鎮まれ、次に備えよ!これから、何波寄せてくるかわからぬ。おそらく、数百が、塊となってぶつかって参ろうぞ。次は、おぬしたちが敵をわんさと討ち取る番じゃ!」
このちいさな勝利に浮かれていた皆は、はっとしたように我に返り、きびきびとした動きで次に備え始めました。広場からは、いま斃した敵兵五名の骸が取り片づけられ、血の痕には急ぎ砂が撒かれ、あたりは掃き清められました。次にやって来る物見の判断を、しばし惑わすためでございます。
 




