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第2話「桜」

「よし、遂に金が貯まったぞ」

何度か盗みを繰り返す事でようやく舞彩の目を治せる程の金額が貯まったのだ


そして俺は舞彩と舞桜をいつも診てくれている雪先生を家に呼んだ


「お邪魔しますね、詩織さん、舞彩さん、舞桜さん」

そう言うと可憐な雪先生は早速舞桜の状態を診てくれた

いかなる時も笑顔で舞桜を応診している先生の顔が一瞬曇ったのを俺は不思議に思った


「雪先生、舞彩の目の治療薬代がようやく貯まったんだ」

「それは本当に良かったですね!…これで舞彩さんの目が治せます」

雪先生は俺の手を取って心の底から喜んでくれた


「その事についてちょっと説明したいので詩織さん、外で説明してもいいですか?」


外で?どうして中で説明出来ないのだろうか

一抹の不安を抱えながらも俺は雪先生と外に出て説明を受けた


「舞彩さんの目はお金が揃ったので治せます。しかし設備が私の診療所には無いので私は舞彩さんと共に上京して目の治療に行きたいと思うのですが宜しいですか?」

「ああ、やっと舞彩に外の景色を見させてやれるんだ。こちらからもお願いしたい。」

「…じゃあ、私が舞彩さんをお預かりしますね」


先生は思い詰めた表情でそう答えた


しばらく沈黙が続いた


「どうしたんだ先生?顔が真っ青だぞ」


しばらく黙っていた先生はやっと口を開いた

だが、それはとても聞きたく無い知らせだった


「舞桜さんはもって一週間です…」


「え…」

俺の顔の血の気は引いた


「一週間…」

膝から崩れ落ちた


「ですが今の薬を飲み続ければ一月は持つと思うのです…」

「…それでも一月」

「詩織さん、本当にすみません…私の力が及ばないばかりに…」

先生は頭を下げ、声が震え、涙を目に浮かべていた


俺は空を見上げた


そして思った


俺の思う幸せは長くは続かなかった


「どうしたの?お姉ちゃん?先生?」

心配に思った舞彩が玄関から顔を出した


俺は舞彩の顔を見ると自分と舞彩を騙して笑顔を瞬時に作った


「どうもしないよ、舞彩。良かったな、舞彩の目が治るみたいだぞ」


「本当に!?お姉ちゃん!!目が治るの!?」

舞彩の表情は明るく晴れやかだった


翌日俺は汽車に乗り上京する二人を俺は動けない舞桜を抱えて駅へ見送りに来た


「お姉ちゃん、舞桜、行って来ます!」

「ああ、ちゃんと目を治して貰えよ」

舞彩の顔は満面の笑みだった

「舞彩、行ってらっしゃい…」

「うん、舞桜も私が戻って来るまでには元気になっててね」


「じゃあ、雪先生。舞彩をお願いします」

「はい、舞彩さんの目だけは、必ず治してみせます」

雪先生の目は本気だった


そして、二人は汽車に乗り込み出発した


「舞桜、どこか行きたいところあるか?」

「どうしたの…お姉ちゃん…何時もは私が病気だから何処にも連れて行かせてくれないのに…今日も舞彩のお見送りにも連れて来てくれたし…」


「先生がな、好きな事をしていいと言ってくれたんだ」

「私…善くなったの?…」

「ああ…だから、好きな事をして好きな場所へ行こうな」

俺は嘘をつく事を昨日のあの時に決めた

だから、今日も舞桜に嘘をついた


「私…お姉ちゃんと…桜が見たい」

「桜か、でも冬だからな咲いて無いぞ」

「でも…一度でいいから私の名前にある桜を見て見たいの…」


桜が咲くまでは舞桜の命はもたない


「分かった、ちょっと見に行ってみるか」

「ありがとう…お姉ちゃん…」


見送りを済ませたその足で俺と舞桜は桜の木を見に行った


立派な桜の木だが、桜の花どころか葉すらついていないその桜木は雪が積もっていた


「春には綺麗な桜の花が咲くんだね…」

「そうだな」

「お姉ちゃんと舞彩と一緒に見たいな」

「ああ、また見よう。三人一緒にな。」


そう言って俺はまた嘘をついた

舞桜に時間が無い事を知りながら


その晩

俺はまた城に盗みに行った

何時もの通り城の見廻りを欺きながらやっと帰路についた


今晩の見廻りはどういう事か諦めが何時もより早かった気がしたが特に深く考える事はなく、早めに帰れたので家についた頃はまだ深夜だった


舞桜を起こさない様に静かに扉を開けた中へ入った


疲れた体も舞桜の寝顔を見れば癒されると思った俺は布団には舞桜の姿は無かった


「まさか…!!」


バッ!と布団を剥ぐと「妹は預かった、返して欲しければ盗んだ物を持って来い」と書かれた手紙が一枚だけ残されていた


「くそ!」

俺はは手紙を投げ捨て城へと全力で駆けていった


舞桜は体が弱っているっていうのに…

頼む…舞桜、無事で居てくれ…


そう祈る様に詩織は走った


城につくとその大きな庭の中心には舞桜が一人張り付けにされていた


そばに駆け寄ると舞桜の顔色は悪く、青ざめていた


「舞桜!今助ける!」


「冷た…」

触れると反射的に俺はそう言葉が溢れた


舞桜の体は拷問を受けたのかずぶ濡れに濡らされ氷の様に冷たくなっていた


「お姉ちゃん…の…手…暖かい…」

「大丈夫か!?舞桜!!」

「うん…舞桜は…お姉ちゃんがいるから…大丈夫だ…よ…ゴホッゴホッ」

「大丈夫だ舞桜!今助ける!」

その縄はキツく縛られ冬の寒さでかじかんだ指ではなかなかほどけなかった

ほどこうとすると俺の指は血が出てきていた

そして、その縄にはもう既に血がついていたのだった

それは舞桜の血だった

強く縛られ舞桜の柔らかい肌は裂け、そこから血が出ていたのだ


「くそ!絶対あいつら許さねぇ!」


「ねぇ…お姉ちゃん…」


「どうしたんだ?舞桜」


「桜が見えるよ…」


俺はそう言われて後ろを振り返ったが桜はやはり無く雪が吹雪の様に降りしきっていた


「桜なんて…」

無いぞ、そう言いかけた時に舞桜の顔を見ると目は開いていなかった

瞼は氷、もう開く事の出来ない状態だった


「お姉ちゃん…桜…綺麗だね…」


「ああ、綺麗だな」

俺はまた嘘をついた


「最期に…お姉ちゃんと…一緒に…桜が見れて…良かった…よ…」


「最期なんて言うな、また一緒に…桜を見よう。」


「ゴホッゴホッ…舞桜は…お姉ちゃんの…妹で本当に…幸せだった…よ…今まで…ありがとう…お姉ちゃん…大好き…」

そう言った舞桜の表情は綺麗な笑顔だった


「舞桜?舞桜!舞桜ー!!」


やっとの思いで縄がほどけた舞桜の体を力いっぱい俺は抱きしめた


病気で痩せ細り、抱きしめただけで折れそうなその体からは温もりは感じずとても冷たく息をしていなかった


俺は舞桜を横に寝かせ優しくキスをした


「俺も舞桜が大好きだよ」


そう言って俺は後ろを振り返ると奴等がいた


「この盗人め、お前が悪いんだよ!だからお前の妹がこんな事になったんだ!!」

そこには舞桜を連れ去ったと思う見廻りの女達がざっと百人ほどはいた


「ああ、分かってる。全部、俺が悪い。」


「ほぉー観念したと言うのか?」


「だがな!俺はお前らを絶対許さねぇ!!お前らの血で舞桜に桜を見せてやる!!」

そう言って俺は奴等に飛びかった


「怯むな!お前ら!殺れー!!」


ある雪の日の事だった


底には血桜が舞った

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