第六話 別れの日壱
ここは何処だろうか。
意識が目覚めた場所は家では無く何処か知らない場所だった。
そしてやけに視点が低いような気もする。
「ゆきやくん!」
俺を、いや僕を呼ぶ声が聞こえる。
振り向いた先に居たのは。
その時、そんな深い意識の底から何かが俺を引きずりあげる。
俺はそのままベットから飛び起きた。
どうやら夢を見ていたようだ。
その夢はとても懐かしく、そして優しく俺を包み込むような気がした。
だがそんな心地の良い夢から引きずりあげたのはいつもの携帯のアラームだった。
最近は何かとタイミングが悪いな。
昨日もそうだが、あの思い出せない誰かを思い出そうとすれば何かの力が働いたかのように邪魔が入ってる気がする。
まぁ、考え過ぎたよな。
俺はそう思い考えないことにした。
そしていつも通りの行動をまた繰り返した。
朝食を食べ終えた俺は荷物を玄関に運び込んで恐らく長い事帰ってこない。
つまり最後になるかもしれないこの家での休息をソファに座り味わっていた。
よく考えると本当に色々あったのだな、っとそんな風に想い出に浸っていた。
そこへ父が隣へ座りこんだ。
何も言わず、ただ座っていた。
俺はそんな父を奇妙にも思いながらも、最後の休息を味わっていく。
それからある程度したころだろうか。
インターフォンの呼び鈴が鳴らされる。
母がそれの応対をするために玄関へ向かって行った。
俺はインターフォンのカメラの画像を見に行った。
そこに映っているのは母と話す彰人さんの姿だった。
父と良く似ており、50近いのに髪色は真っ黒であった。
父と身長差も無く、知らない人が見れば双子かと思うだろう。
ただ父は茶髪だが。俺の身長は164cmだから父と彰人さんの身長が少し羨ましく感じてしまうのだ。
そんな無駄な事を考えながらも俺も外に出て挨拶をして荷物を積み、そしてこの家を発たなければいけない。
その為に玄関に向かうためリビングの扉を開けた時だった。
「元気にやれよ。」
父が小さくだが、そう呟いた。
「言われなくてもわかってるよ。」
俺も不器用ながらも父に感謝の意を込めて、その言葉を返した。
こんな俺を心配してくれていたことに少し嬉しさを持ちながら。
俺は玄関へと向かった。
玄関の扉を開けるとそこには車が止まっており、開いたトランクの近くで母は喋っている。
そしてトランクから顔を出した男の人が見える。
兎織彰人、父の兄だ。
とても穏やかで優しい伯父さんだと俺は記憶している。
荷物を持って近づいていくと彰人さんは俺に気づいて優しく微笑んでくれた。
「久しぶりだね、雪夜君。僕の事、覚えてるかな?」
「お久しぶりです。覚えてますよ彰人伯父さん。相変わらずお元気そうです何よりです。」
「・・・君も随分と大きくなったんだね。」
どうしたんだろうか。一瞬彰人さんの顔が曇った気がしたのだが。
まぁ、言及しないということは特になんでもなかったんだろう。
そう思い俺は荷物を積む。
ずっしりとした重さが手に伝わり、いよいよ本当に離れることを実感した。
丁度積み終わった時だろう。
隣の家のドアが開かれ一人の女の人が出てくる。
その人は俺らの姿を見ると小走りにこっちに走ってきたのだ。
綺麗な金髪を持ったその女の人はお隣に住む一つ年上の沙良姉さんだった。
「どうしたの?旅行にでも行くの?」
「えーと、そうじゃなくて。雪夜を五兎に引っ越しさせるの。」
「え?聞いてないんだけど。雪夜君、これ本当?」
俺はその問いに静かに頷く。
すると彼女は近寄ってきて俺の、俺の頬を叩いたのであった。
なにが起こったのかよく分からなかった。
予想ではここで簡単な挨拶だけで終わる筈なのに。
どうして彼女は泣いているのだろうか。
どうして優しく抱きしめてくれるのだろうか。
俺の予想を超えたその行動に体が固まってしまう。
「ねぇ、雪夜。どうしてxxxxxるなら相談してくれなかったの?どうして頼ってくれなかったのよ!」
彼女の気持ちがこもった声に当てられる。
途中嗚咽でよく聞こえなかったが俺には彼女が心配してくれたことが分かった。
父みたいな心配では無く。慈愛の心配。
親心では無く一人の人間としての心配に俺は心が物凄く温まった。
こんな短期間に大きな二つの温もりも知れて、俺は本当に幸せ者だ。
視線を母と彰人さんに気づかれないように向けてみると。
どこか悲しそうな顔をしていた。