第五話 変化への兆し
あれから俺はずっと部屋に籠っていた。
だが、明日にはもうこの地を離れないといけなくなったのだ。
父の兄の彰人さんが荷物を取りに来てそのまま五兎に向かうのだから。
俺は結局友人に行けなくなったこと、そして五兎に転校することを告げた。
『そうか。桃鏡には行けないか。それは分かった。それと、雪夜。お前が居ないと寂しい。だがそういう事情なら仕方ない。元気にやってこいよ!んで偶にでいいからメッセージ送るんだぞ!』
っという嬉しい返事が返ってきたのだった。
その言葉に少し励まされた俺は仕方なしに荷物を準備し始めた。
片付けていく最中に色んな物が出てきて少し入り浸ることもあったせいかかなり時間がかかってしまった。
まだ完全とは言えないがある程度準備は出来た。
少し休憩にしていいだろう。
ベットに腰を掛けて今一度部屋を見渡してみる。
準備をしているせいか散らかっているがかなりの物が整頓された。
今一度思いなおすといらない物や、今となればとても大切な物まで。
色んな物が散らばっていた。
ふと、大切な思い出の品が入っている箱から白い面が出ていることに気づいた。
それが気になり拾い上げてみる。
それはよくお祭りなどで売られている狐の面であった。
だが、一体これを何処で買ったのだろうか。
よく覚えていない。気になって必死に記憶を探ってみる。
恐らくは小学校、もしくはそれより前なのだと思う。
ここまで覚えていないのだから。
そうなると家の親戚の家に行った時か?
なら五兎の可能性が髙いだろう。
思いだせ、思いだせ。
すると霧が晴れるかのようにその記憶は俺の意識を絡めとっていった。
『お父さん!僕あれが欲しい!』
『あぁ、いいぞ。買ってやろう。』
懐かしい風景が広がる。
ここは五兎の兎張神社の祭の記憶だ。
父がまだ俺を認めてくれいる。いや、愛してくれていた頃の話。
五兎では一年に一回、一柱の神と五匹の兎に対して感謝をする日がある。
それはまだ神様がこの世界にいた頃に遡る。
この街は物の怪が集まる穢れた土地であった。
そこに一人の青年が迷いこみ、そして温泉を見つけた。
彼はその温泉を広めるためにそこに住み始めた。
その後彼の元に温泉に入るために多くの方が訪れ、そしてまた何人か定住していった。
しかし、ここは物の怪の集まる地。
夜になれば人々は恐れるしかなかった。
それを知ったとある一柱の神様が使いの五匹の兎を放った。
五匹はそれぞれの使命を持ち、そしてこの地に退魔の力を定着させた。
その結果この地は温泉街として機能することが出来た。
その感謝を示してこの兎張神社が建てられてこの祭が行われるようになったのだった。
そんな事も知らない子供の俺は父親にお面を買ってもらい笑顔でそれを被っている。
するともう一つ思い出すことがあった。
あの時、俺が帰っている時だけ遊んでいた友達が居たことに。
その友達は3人。
一人は顔すら思い出せないがもう一人は思い出せる、そうその子は。
「雪夜~。そろそろご飯できるから降りてきなさい。」
俺の思考は母の一言によって遮られた。
集中していた意識が無くなったせいか、その子の事はそれ以上思い出すことが出来なかった。
少し残念な気がした。
晩御飯を食べ、風呂に入りそしてそのまま俺は寝室へ向かう。
そして荷物の最終確認を行う。
衣類良し、生活用品良し、アルバムなども良し。
ある程度は入れたであろう。これだけあれば問題はないだろう。
少し大きいものは後日配送されるらしいからそれらは置いておいて大丈夫だろう。
そうして俺は再び部屋を見渡す。
そこにはほとんどの物がなくなっており、俺がここに居なくなることを物語っていた。
少し寂しさが増すが、もう踏ん切りはついたのだ。
これ以上うじうじしていても仕方がないだろう。
そう思いベットに横たわる。そうだな、明日も。
「良い日になればいいんだけどな。」




