第二十一話 十種姫の能力
光が収まった時には再び出雲邸へと戻っていた。先程までの景色はやはり夢だったのだろうか。
しかし、あの雪の冷たさを思い出す。妄想の域を超えた本物の感覚だったような気がする。
「案外お寝坊さんやねんな。」
知らぬうちに横になっていた俺を覗きこむようにしながら月詠がこちらを見ていた。
すると今まで何故気づかなかったのかも分からないが。頭の後ろに柔らかな枕の様な物が置かれていた。
しかし、それはほんのりと温かく。枕ではないことが分かった。俺が飛び起きると案の定。
俺の頭があった場所には彼女が正座をしており、俺を膝枕していたのであった。
その事が分かり俺は顔が熱くなっていくのが分かった。
「コホン!それで、月詠様。今ので何がお分かりになられたのですか?私どもからしたらただ、お二人ともが寝ていたようにしか見えなかったのだが。」
「あぁ、すまんのう。まっ、今雪夜の夢に入ってきて彼の心の中に居た獣に会ってきたんや。」
凪さんは良く分からないながらも一応頷いていた。正直俺もまだ良く分かっていない。
「雪夜の獣は『狐』。そして、その能力は『冬』。氷や雪を作り出して戦ったり、物を創ったり色々出来るんだけど。それはまだ序の口じゃろう。」
「それだけでも凄い力だと思うんだけど。どう違うの?」
「ふむ、じゃあまずは少しだけ他の物より優れた獣の力を見れば分かるじゃろ。ほれ、十種姫。『桜炎』を使ってみ。」
「・・・分かりました。」
月詠から指示された霧命は立ち上がり、ゆっくりと庭の方へ歩いていく。
そうして庭の中央に辿りついた時。彼女は桜色の炎に包まれていった。
俺は異常事態だと思い、立ち上がって助けに行こうとしたが月詠が手で俺を遮る。
「大丈夫や。あれは正常。何一つおかしい所も無ければ火傷もしてへんから。」
その言葉にやや不安を感じながら目線をずらして凪さんと有流さんを見てみる。
まるで見慣れているように姿勢を崩さず、霧命を見ていた。
そんな中俺が霧命へと目線を戻してみると、既にそこには炎の渦は無く。
霧命が佇んでいた。しかし、先ほどまでとは一緒という訳では無く。
紺色の髪の先は少し桜色になっていた。更に俺の目を釘付けにしたのは頭と腰に現れていたもの。
頭には耳が、腰には尻尾がその形から見て恐らく猫であることが分かる。
そうして見ていると彼女が恥ずかしそうに咳ばらいをした。
その行動で俺も正気に戻り、再び能力を見ようとした。両手を水平にして手の平を上にする。
そうしてほんの僅か数秒で高さが30cmはするであろう火球を作り出した。
しかし、その炎は赤色では無く、どこからどう見ても桜色であった。
彼女はそれを手を緩やかに動かして操っていく。形を整えて剣にしたり、渦にしたり。
はたまた薄く引き伸ばして火の海を作ったりと。まるでその炎は生きているような感じがした。
そうして気づかないうちに彼女は炎を出しながら舞っていた。
足取り軽やかに、火を上手い事操り決して当たらぬように。
その舞はとても鮮やかで、俺の脳裏に焼き付いた。炎が直接俺の頭に入ってくるかのように。
それから約四、五分すると彼女は舞を終えた。桜色の炎を消して、耳と尻尾はいつの間にか消えていた。
こちらを振り向いて礼をする。それをみていた月詠が手を叩いて称賛するのに俺も釣られて手を叩く。
この五分近く彼女に俺は見惚れていたのだ。
人生初めて生で舞を見たからでもあるが、彼女が作り出す、あの桜色の炎が。
彼女の心を映し出してるかのように見えた。
しかし、俺はその炎に何が込められているかは分からなかった。
「まぁ、こんなもんや。普通は殺傷能力や周辺への影響が少ない。だけど、君の『冬』は違う。恐らく力に目覚めたときは彼女と同じような扱いしか出来ない。あたしにも予想は出来ないが、とても大きな力になると思う。」
月詠が真剣な眼差しでそう告げてくる。それは今自分が危険な力を持っているということの警告。
そしてそれをどう使うか、どう生かすか。それを問われているような気がした。
「俺は、この力を使って出来ることがあるんですか?」
「あるよ。だからあたしはここに君を来させたんや。なぁ、凪?」
「はっ。その通りでございます月読様。是非、私達『ムラクモ』で預からしていただけないでしょうか。」
「あたしはええけど。問題は君や。君が選ぶんや。」
「分かりました。だけれどまず、その『ムラクモ』について教えていただけないでしょうか。」
凪さんは頷いて話始める。そうして、俺の運命を変える話し合いが再び幕を開けた。




