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雪獣は何故に人を思ふ  作者: 天野最中
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第十九話 獣の夢

俺は...あぁ。そうか。確か夢の中だったな。どうやら倒れているようだ。だけど動く気にはなれない。っというよりだ。どうして何かを考えないといけないんだ。どうせこの世界も現実も命なんて多数派が優劣を付けるんだ。どう足掻こうがそれは無駄だ。


「無駄や無駄やないなんかは置いておいて。ほら、何時までもそんな冷たいところに寝そべらずに起き。」


月詠に手を引かれ立たされる。先程まで暗闇だった目には自分の体の形がくっきり残った雪景色が目に入ってきた。そのまま顔をあげて周囲を見回してみる。ここは何処かの森の中なのだろうか。冬になり葉を落とした木が何本も見える。そんな森の中の広場的なところに俺は寝そべっていた。しかし何故だろうか。何故俺は先程まであそこまで希望を持てていたのだろうか。そんな疑問さえ俺の中ではドンドン重要性薄れていく。もう、考えたくもない。


「獣が抜けただけでここまでなるんか。ちょっち計算外やなぁ。」


月詠がそういいながら手を叩く。体中に力が集まってくるのが感じられるが全くいっていいほどやる気も生きる気も湧いてこない。夢や未来を信じれるほどの純粋な気持ちはもう無いのだろう。


「なんか勘違いしとるみたいやけど。これはあくまで呼んだだけや。来るよ。」


月詠が空へと指を指す。少ししか湧かないやる気をどうにかして総動員して俺はその指を辿り先を見る。そこに映るは満月。それ以外の何も俺の目には映らなかった。しかし、その絶景を一筋の黒線が流れて満月の中央で黒点と成す。それは影だ。月の光で浮かび上がった影だった。何かの影があの高さまで飛び上がったのだ。


「あぁ、あたしの後ろに入ってき雪夜。」


月詠に促され彼女の後ろに立ち尽くす。次の瞬間。影は姿を大きくした。つまり影はこちらに近づいてきている。それもものすごい速さで。明らかにあの速度で当たれば体を貫く事は簡単だろう。しかしそれを許さない者が居た。彼女はその獣へと手をかざし、黄色の線で枠とられた紋様が空中に浮かび上がる。完全に浮かび上がった直後、影はその紋様へ激突した。喰らえば死、その攻撃を防いだのだ。影は飛び退き距離を置く。するとまるで冬が来たかのように、こちらに向いて雪が強く吹き始めた。その雪も奇妙な紋様に防がれてこちらには届かない。跳び退いた影は、方向が良く、月明かりに照らされて見えていなかった姿が露わになる。この夜に現れた襲撃者の正体は一尾の大きな狐だった。体は俺たちの身長の二、三倍はあるであろう。白銀の毛に包まれており、その黄金の目は正しく今頭上にある満月と同じように見えた。


「阿呆やないんか?お前さんの宿主を殺したらまた彼岸に戻るだけやよ?」


彼岸?一体それは何なんだろうか。いつもなら聞いてみたいのだが先程からの脱力感に促されて俺はその場にへたり込む。チラッと狐の方を見ると、俺に気づいたのか。先ほどから出ていた殺気の様な寒さを解く。そう、寒さを解いたのだ。周りに吹いていた雪が静に止んでいった。狐の目にも敵意が見えず、こちらを睨んでもいないようだ。ただその巨体を立ち上げ、座り込んでいる。その目線はしっかりと俺と月詠を見ていた。


「ほう。話が分かる奴で助かった。あたしは面倒ごとは嫌いやからね。それでそれがアンタの能力かい?」


狐に向かってそう問う。狐もそれに応えるべく尻尾を少し上げて、軽く地面に叩きつける。叩きつけられた衝撃で雪が軽く舞う。そして次の瞬間。一m程だろうか、俺たちの目の前に氷柱がそびえたった。俺はそれに驚いて後ろに退く。月詠は表情一つ変えずにその氷柱に触れる。そして頷いた後にこちらを振り向いた。


「雪夜、君の能力は『冬』。何もかもを氷つかせる死。氷や雪を操れるっていうところやね。」


彼女は少し顎に手を当てて考え始める。すると狐が体を起こしてこちらに近づいてくる。そうして顔を俺に近づけて来た。俺はその顔に無性に触りたくなり、手を伸ばす。少し、少しと。距離を詰めて行き、遂にその頬に触れる。すると体にあった脱力感が抜け去っていった。


「あれ?脱力感が全く感じられない。」


「そりゃそうやろ。いつも君の心を埋めてくれてるのがそいつやねんから。」


考えるポーズを解いてこちらにゆっくりと歩いてくる。そうして俺と同じように頬を触り、優しくその頭を引っ張る。そうして彼女は狐と額を合わせ合う。そうして彼女は少し口を動かして小さく呟いた。しかし、その声は俺に届くことは無かった。


「ほな、帰ろうか。もうここでやることはないから。」


彼女は俺の答えを待たずに手を叩く。先程現れていた紋様が足元に広がり、再びこの雪原に眩い光を放った。



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