第十七話 Another view 「月詠」
この五兎の地に降りるのは何時ぶりだろうか。
そう思うのも高天原とこの世界は時間の流れが違うからだ。
今が何時かと前に来た時の記憶と照らし合わせる。
この前に来た時は2021年で今が2030年、九年の月日が経っていた。
それに伴ってあたしも成長した。
今は何処から見ても美女にしか見えない筈。
下駄を鳴らしながら社の外へ出る。
久しぶりのこの世界での日の光。
あれがあの天照が照らしているのだと思うとやはり少しイラッと来る。
また帰ったら自慢話でも聞かされるんじゃないかと。
兎張神社の境内に出ると、植えられている御神木の枝垂れ桜が咲いていた。
何時見ても元気なようで何よりだ。
この兎張神社は町の中にある山の中腹にある。
つまり、境内から歩いて鳥居をくぐり、階段の一番上の段に立つとこの街の全景を眺める事が出来る。
あたしが愛したこの土地。
この土地に帰ってきて、あたしは再び『月詠』として導かねばならない。
帰ってきた彼が、一番の特異点であることがあたしには分かっている。
だからこそ、あたしはこの地に降りたのだ。
手を振るかのように腕を動かし、何もない所から和傘を取り出す。
その傘を大きく大陽へと向けて広げる。
そしてその傘を差しながらあたしは桜の木々達が彩る長い長い階段を下りて行く。
「待っといてな、雪夜。絶対人間に戻して見せるから。」
誰もいないこの場所で、今から始まるであろう物語にそう告げる。
先代から引き継いだ『月詠』の役目。
必ず果たしますとも。
そう、胸に誓った。