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雪獣は何故に人を思ふ  作者: 天野最中
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第十二話 忘れがたき夢壱

「起きなさい、少年。」


 何処か聞き覚えがあるような声が俺の耳に届く。

その声は俺の体を通っていき、そのまま何処かに飛んでいった。

どうやら、知らぬうちに寝てしまって横になっていたようだ。

俺は静かにその瞼をゆっくりと開ける。

しかし、そこにあったのは先程まであった綺麗な庭では無く、地平線の彼方まで続いている海だった。

俺はその海の何処かで浮かんでいた。

いや、水の上に倒れていたのだ。

何か床みたいなモノが今俺の下にあって、沈んでいくこと無く倒れている。

その床に手を立てて起き上がる。

手を置いたりした行動が水に波紋を浮かばせ、それがどんどん起点を中心に広がっていく。

邪魔するものがないこの海で、勢いが死ぬまでその波紋はどんどん広がっていくだろう。

そのまま立ち上がり、付近を見渡す。

先程倒れていた光景と同じく、やはりどこまでも海が広がっていた。

しかし、その海には波は無い。いや、これは海なのだろうか。

さっきからそう呼んでいるが正しいかどうか分からない。

だが、誰かがそう教えてくれたことがあり、そして俺がここに来たことがあるのがぼんやりとだが覚えている。


「そんな風に考え込まんでも、直ぐに思い出すよ。」


まただ、あの声だ。その声を探すように周囲を見渡す。

しかし、あるのは変わらない海だけ。


「だから、焦らんでええって言ってるやろ?後ろや後ろ。」


俺はその声に従うようにゆっくりと後ろを振り向く。

すると、そこには先程までは無かった普通ではありえない三十メートルはあるであろう大きな枝垂桜が現れていた。

その存在を示すかのように、ほんのりと輝きながら。

見逃すはずもない大きさのモノではない。

だから分かる。この桜は今出てきたのだ。現実にはありえない。

いや、先ほどから水の上に立っていることもだ。

その上この水ときたら、触って冷たくはないし、服にも染みない。

そう考えるとここは夢なのだろう。


「夢、みたいな物やけど少し違うかな。ここは部屋。あたしが、創り出した部屋。」


声は桜の下。またこれも、知らぬ間に出来ていた。

長椅子と野天傘があり、その椅子に一人の女性が座っていた。

髪は夜空のように綺麗な黒色。

肌はとても白く、触るととても冷たそうな程。

どこまでも奥が深い紫色の目を持ち。黒色に黄色の線が入った和服を着こなしている。

だが、それより目を引いたのは。彼女が顔の横に付けている、お面だった。


「思い出したかい?少年。まさか、君の方から会いに来てくれるとは思わなかったけど。」


頭の中が激しく揺れる。その面は俺の部屋にもあったあの狐の面だったから。

何度も思い出しそうになった記憶が鮮明に脳裏に映りこむ。

あぁ、彼女はそう。思い出しかけたその瞬間、俺はナニカに掻き乱される。

それは痛み。

頭が痛むんじゃない、心臓が握られており、今まさに握りつぶされそうなくらい力を込められているのだ。


「大丈夫か?!まさかここまで進んでいるとは。」


彼女は顔を青ざめたまま俯く。


「君は・・・いったい・・・」


再び意識が遠のきそうになった。

だがしかし、痛みは急に無くなり意識は保たれる。


「そうか。思い出せなかったか。まぁ、よい。取りあえず辛いであろうから、ほれ。」


彼女はその指を少し動かす。こちらへと誘うように。

すると俺の体が浮き、そのまま彼女の元へ向かう。

彼女が座っている長椅子へと。

俺の体が長椅子につくとゆっくりと降ろされていき、気がつけば。俺は彼女に膝枕されていた。


「まぁ、何か言いたいことがあるのは分かるが先にあたしの話を聞いてもらおう。」


彼女は俺を撫でながらこちらを向いて少し微笑んで語り出す。

俺はどこか懐かしくそして安心する温かさにその人を疑うことを止めた。

という建前で本当は今彼女を下から見上げる感じになっているのだがそれは必然的に胸の形を理解するには十分だった。

和服は基本着痩せする物なんだがそれでも隠しきれない大きさがあったのだ。

俺はそれ少し見とれていた。彼女が何か淡々と語っているが頭に入らない。


「っていうのが前提条件なんだけど、、、話聞いてる?」


「き、聞いてますよ?」


「どうして疑問形なんじゃ。それに男の視線に気づけぬ阿保ではないわこのエロガキめ。」


彼女から少しキツめのチョップを貰う。

だがこのやり取りが本当に嬉しく思える。

昔に戻れている。頭は覚えてはいない。

けれども体が覚えているのだろうそれがとても幸せに思える。

まぁ怒られている内容は違うだろうが。


「胸に見とれてないで、話を聞いてくれないかい?」


「悪かったよ。俺も久々なんだよ。こんなにも大きいのを見るのは。」


再び軽いチョップをくらう。だけど俺の顔は痛みに顔を顰めるのでは無く笑っていた。


「やはり、君には笑顔が似合う。」


「ちょっと待て。その言い方だと俺は普段笑っていないことになる。」


しかし、彼女は謝って訂正するのではなく彰人さんが俺を迎えに来たかのように顔を曇らせる。


「そうか、先にあたしはこの地を護る者としての義務を果たす必要がある。その為にどんな辛い結果が出ようとも受け止めて欲しい。」


俺はその言葉に固唾を飲む。

その言葉には自らの意思を押し殺して、責任を果たそうとしている事がわかる。

先程までの高い声ではなく低く、重い感じで彼女は語り出す。


「先ず、君には真実を思い出してもらいたい。偽りの君もそれはそれでいいんだけど。此度は例外、強制的に思い出させる。だから、物凄く辛いだろうが我慢してくれ。本当に申し訳ない。」


彼女は気分を入れ替える為自分の手で頬を叩く。

そこまで強くしてないのが音から分かったのだが、彼女の頬を涙が伝う。

その涙の意味は俺は知らない。

だから俺の忘れてしまったものを知りたいと思った。

俺の頭に彼女の顔が近づいてくる。

そして、額どうしが触れ合うと同時に俺の頭は多くのイメージを捕らえた。

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