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プロローグ
恐ろしい咆哮がこの山の中を風のように駆け巡る。
それに反応するのは1人、否。1匹だ。
それは見た目は人と変わらない。
それを言葉で表すなら「獣」。
心に傷跡を持ちそこから感染して変わり果てた獣だ。
その獣は咆哮に反応し、その発生源である人外を見つけ出す。
次の瞬間、その人外は跡形も無く消え去っていた。
そこにたたずむ獣は、赤い目をギラりと輝かせながらただ、そこに佇むのであった。
それは雪が積もる満月の夜。その獣はただ願う。
「人になりたい」と。「人を知りたい」と。
虚空の向こうに居るかもしれない神を睨みながら。
ただ獣は乞う。
それがこの『五兎』の地に残る。一柱の神が書いた書物のあらすじだった。