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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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第三章「団結」 後編

第三章「団結」 後編


「で、何?羽野さん私達に何か用?」

次の日の放課後、羽野は新聞部に入る予定だった二人を呼び出した。

神崎の案では江東に三人を呼び出して貰い、そこで勝負の話を持ち込んで貰う予定だったのだが、羽野自身が自ら呼び出すと言い、現在に至る。


「ご、ごめん!やっぱり私新聞部諦めきれないの!」


「今更そんな事言われても…」


「そうだよ、私達も困るんだけど?」


「だから私と勝負して欲しいの!」

そう聞くと二人は顔を見合わせ再び羽野を見る。


「勝負?」


「お互いに記事を書いて、明日新聞部の先輩に見てもらって良かった方の記事の勝ち。どうかな?」


「…勝負って…」


「うちらが勝ったらどうするの?」


「その時は…私は何でも言う事聞くよ!」

羽野は息を飲み、覚悟を決める。


「分かった、そこまで言うなら乗ってあげるよ。じゃ、お互い頑張ろうね〜」

そう言って二人は去っていく。


「はぁ…」

羽野は息を吐く。


「よく言えたな、偉いぞ」

陰から神崎と久堂が出てくる。


「せ、先輩…こ、怖かったです…」

羽野はその場に座り込みガクガクと震える。


「よしよし、よく頑張ったな」

神崎は羽野の頭をそっと撫でる。


「でもここからだね…」

久堂は指を顎に当てながら難しい顔をして言う。


「ああ、後は羽野次第だけどな」


「わ、私!頑張ります!早速ネタを探しに行くので、失礼します!」

羽野はペコリとお辞儀をして走って行ってしまった。


「…大丈夫かなあの子。結局、記事も自分一人で考えるって言ってたし…」


「自分の力で勝ちたいってことだろうな。ま、後は彼女次第だ」


「相変わらず適当だね…でも…」

その先は久堂は何も言わなかった。


「でも…何だ?」


「何でもない」


「何だよそれ」






「はぁはぁ…」

羽野は記事の内容を求め、学校中を駆け回っていた。


(手伝ってくれた神崎先輩と久堂先輩の為にも勝たないと…っ!)


「でも…何を記事すればいいかな…」

提出は明日だし、今日記事にするものを見つけないと明日提出できない。今日中に探さなくては…。


「どうしよう、どうしよう」

辺りを見回しネタを探す。


(そうだ、提示版に何かあるかも…)

羽野は提示版がある場所に向かった。


羽野は提示版を見上げる。


「んー…どれもピンとこないなぁ…」


「どうしたの?そんな難しい顔して」

不意に羽野は話しかけられた。


「あっ!えっと!ちょっと…ネタを探してて!」

急に話しかけられてあたふたしてしまう。


「あ、ごめん。驚かせちゃったかな?」

目の前には、自分より少し身長が高い美形の少年が立っていた。どこかで見た事があると思ったら、確か同じクラスだったはずだ。


「あ、えっと確か同じクラスの…」


「そうそう、同じクラスの羽野ちゃんだよね。こんな所で何してるの?」


「えっだからその、ネタを探してて…」


「そういえばさっきの二人組みもネタがどうとか言ってたなぁ」

少年は提示版を見上げながらそう呟いた。


「えっ!?」

きっと彼女達だろう。じゃあこの提示版は使えない。ネタ被りは一番ダメだ。


「えっと、よく分からないけどさ。落ち着いて考えた方がいいネタが見つかるんじゃないかな?」


「そ、そうだね…」

羽野は、落ち着くと深呼吸し、考える。


「あっ!いいネタ思いついたかも!」

羽野の頭に一つの案が浮かんだ。


「そっか、それは良かったね」


「うん!ありがとう!じゃあ私急ぐから!」

羽野はその場を足早に後にした。


「……」







そして次の日の放課後がやってきた。決着の時だ。両者共に新聞部に集まっていた。


「へー。羽野さん逃げるかと思ったら逃げないんだ」


「う、うん!逃げないよ!」


「えーとじゃ二組の記事を読んで評価すればいいんだね」

判断するのは副部長の江東だった。




「さてさて、結果はどうなるかな」


「神崎…結果を見届けるのはいいけどさ」


「なんだ、久堂」


「何でこんな遠くから見るの」

神崎達がいるのは西校舎の二階の廊下。そして羽野達がいるのは東校舎の一階である。

神崎達は西校舎の窓から羽野達を見守っているという事になる。


「この方が見守ってるって感じするからな」


「そんな理由…?」






「さてと…どっちを先に見ようか?」


「じゃ私達からで」

先に二人組の方が記事を渡す。


「ほうほう、これは部活体験の事を記事にしたんだね」


「はい、今の私達にぴったりかと」


「いいね、写真もちゃんとしてるし…記事も細かく書けてる!」

江東の評価は好評だ。それを聞き、羽野は不安になる。


「次は羽野さんの番だね」


「は、はい!」

羽野も記事を渡す。


「……ふーん」

江東は黙々と記事を読む。


(神様…!お願いします!)

羽野は神様に拝んだ。


「うん、両者共によく書けてるね」


「結果はどっちですか?」


「結果は……」

両者、黙り込む。この一瞬で結果が決まる。


「羽野さんの勝利!」

江東ははっきりとそう言った。一瞬、羽野は聞き間違えかと思ったが、間違いなく江東は自分の名前を呼んだ。


「えっ…私の…勝ち…?やったー!」

羽野はその場で飛び跳ねて喜んだ。


「えっ!?」


「そんな!?」


「いやー、まさかボランティア活動の事を記事にするとはね。うちのボランティア活動は規模が小さいから大した記事にはならないと思ったけど、こういう小さい行いって何だかほっこりするね」


「羽野さん…私達の負けだね」


「まさかボランティア活動の事を書くなんてね…」

二人は自分達の負けを素直に認めた。


「ふ、二人共…ありがとう」


「私達の分も新聞部頑張ってね」


「応援してるから!」






「どうやらピカの勝利みたいだな」

神崎はそう言って昇降口に向かった。


「会いに行かないの?」


「もう俺達は必要ないからな。さて、さて。喫茶店に行こうか。なんか落葉が来いってうるさいし」


「分かった」






「おいおいどういう事だよ大将!何でメンバーの勧誘じゃなくて人助けしてるんだよ!」


「いやー、色々あってな。本当は彼女を勧誘するつもりだったんだがねぇ」


「ったくよー!俺はちゃんと探してたのに!」


「で、見つかったの?」


「いや、全く駄目だった!」

無言で久堂に殴られる落葉。

そんな中喫茶店のベルがカランカランと鳴り、ある人物がやって来た。


「あ、あのー、こんにちは!」


「あれ?羽野ちゃん?」


「何!?噂の新聞少女か!」


「どうしたんだ?もう俺達に用はないだろ?」


「いや、えっと…実は…私新聞部入るのやめたんです。あの二人の記事を読んで思ったんです。二人も新聞部に真剣に入りたい事が。だから、私は諦めたんです。でも、このサークルだったら上橋高校の事を知れると思うんです…!だから私をサークルに入れてくれませんか!」


「おっ!大将どうするんだ?」

落葉はニヤニヤしながらこちらを向く。答えを分かってて聞いてるのだろう。


「はぁ…ああ、勿論歓迎する。だが、何でお前がサークルのことを知ってるんだ?」

俺は一度もサークルのことは口にしてないはずだ。


「…お前か?」

俺は久堂の方を見た。


「…べ、別に構わなかったでしょ?結果的にこうなったわけだし」


「……ああ。そうだな。じゃあ…ピカ、お前を歓迎しよう」


「あ、ありがとうございます!」

こうして俺達のメンバーに新たに一人加わったのだった。





喫茶店の外、一人の少年が窓を覗いている。

「…面白そうだね。興味あるなぁ」


「翔林君〜、立ち止まってどうしたの?」

少年の彼女だろうか。立ち止まった彼の元まで戻ってくる。


「…ごめん、別れよう」


「えっ…?」

その急な一言で彼女は言葉を失う。


「な、何言ってるの? 冗談だよね?」

苦笑いしながら彼女は言う。


「いや、本気だよ」

少年は表情を変えずにいる。


「なんで…?」


「君、ルックスはいいけど性格は最悪だろ?ほら、僕のこと自分のステータスしか思ってないし…」

パチン!話してる途中で何かを弾く音が聞こえた。気がつくと頬が赤くなっていた。


「最低!」

そう言って彼女は去っていく。


「……」

少年は、赤く腫れた頬を撫でる。


「フフ…これだから、恋愛は面白いね」

少年はほくそ笑みながらそう言った。

こんなサークルいかがですか?

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