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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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第三章「団結」 中編

第三章「団結」 中編

「ふわぁ…ねみ…」


「あ、おはよう神崎君!」


「お、江東と久堂か」

ここ最近この二人と絡む事が多くなった。まぁ久堂はサークルに入ったから当然か。


「神崎君、朝いつも眠そうだね〜」


「まぁね」


「てか聞いてよ!久堂が小説ばっかり読んでてアタシの相手してくれないんだよ!」

見たところ久堂は推理小説を読んでいる様だった。


「…じゃ無理にでも相手させてやるか」


「お、なんかいい案があるみたいだね!」

俺は久堂に近づき顔を覗き込む。


「あー、これ読んだ事あるなぁ〜。確か犯人は…」


「ちょっ!ネタバレはやめてよ!」

ネタバレは推理小説で一番読む気が失せるよな。


「ほら、相手してくれたろ?」


「神崎君さっすがー!」

江東が尊敬の眼差しでこちらを見る。


「だろ?」


「何で邪魔するの?亜美」


「だって全然構ってくれないんだもん!」


「分かった構うよ、構う。でも後にして」

久堂が適当に言って江東をあしらう。


「全然分かってないよ!!」


「朝から元気だなぁ」

俺は席に座り横目で微笑ましく見ているとチャイムが鳴る。


「あ、時間だ!じゃ紫、昼休みは私に構ってね!」

そう言って江東は自分の席に戻っていった。


「分かった分かった」

江東に久堂は手を振る。


「…そういえば神崎、新メンバーの件どうするの?」


「さてさて、どうするかねぇ」


「リーダーなのにそんな適当でいいの?」


「まぁ、なんとかするよ」


「神崎が言うならそれに従うけどさ…適当にやってると落葉がうるさいと思うよ」

それは正直避けたい。仕方ない、真面目に動くことにしよう。


「はぁ…メンバーになりそうな奴、探すか」





「じゃあ気をつけて帰る様にな」

そんなこんなでいつの間か帰りのホームルームが始まっており、担任の浅田先生が話を終わらせる。


「そうだ。言い忘れてたが、今日から一年生の部活体験だからな。ちゃんと一年生の事見てやれよー。後、明日はボランティア活動があるから参加したい奴は参加するように。」

一年生の部活体験…?あぁ、そういえばそういう時期だな。


「起立、礼」

メンバーを探す方法を考えていると、帰りのホームルームも終わり放課後になった。


……これだ。これを上手く使えば一年生をサークルに入れられるかもしれない。


「久堂、見つかったよ。メンバー探しの方法」


「ボランティア活動の事?」


「そっちじゃない」


「そう、じゃ頑張って。私バイトだから」

そう言って、久堂はカバンを肩に掛ける。


「おいおい、お前乗り気だったくせに適当なんだな…」


「だから最初から乗り気じゃないって」

頑固としてそこは譲らない様だ。

まぁ入ったばかりの久堂に頼るすぎるのも良くないし仕方ない、ここは俺だけでメンバーを探すとするか。


「分かったよ、俺一人で探すさ。じゃあな」


「ま、待って」

教室を出ようとすると久堂に止められる。


「ん?何だよ?」


「もし困ったら喫茶店に来てよね…力になるから」

背後からだったのでどんな表情で言ったかは分からなかったが、久堂はそう呟いた。


「…サンキューな」

俺は教室を後にした。


教室を一歩出ると、学校の何処も彼処も体験入部の勧誘で賑わっていた。

さて、とりあえずどこに入るか迷っている奴を誘えばいいか。


「……いないな」

迷ってる奴が見当たらない。そんな事があるのだろうか。想定外の出来事だ。

と、逆に自分が悩んでいる時だった。複数人の声が聞こえる。何やら騒ついているような…

あそこは確か新聞部の部室だった筈だ。そしてそこには俺の知ってる人物もいた。

どの道この調子じゃ勧誘できないし、丁度いい。揉め事に手を突っ込んでみよう。


「ごめんね…ちょっと人数オーバーで、後二人までなんだよ!ほんとにごめんね!」


「えー、まじですかー?どうする?」


「どうするって…ねぇ?」

どうやら下級生と上級生で揉めていた様だ。


「どうしたんだ?江東」


「あ、神崎君!どうしてここに?」


「まぁ色々とあってね。江東は何でここにいるんだ?」


「あー…言ってなかったっけ?実は私新聞部の副部長なんだよ」


「へー、初耳だな」


「えへへ、意外だった?」

何となく、江東は何かしらの部活に入っているとは思っていたが、まさか副部長だとは思わなかった。


「ああ、そうかも」


「それで、新聞部に何か用かな?まさかの君も入部希望かい?」

江東は冗談交じりな感じで言ってきた。


「それはまさかだな。いや、用って言うほどの事じゃないんだが、何か揉めてるみたいだったから。気になってさ」


「あー…実は今年、新聞部が人気みたいでさ…人数オーバーしちゃったんだよね…」

成る程。それで揉めていたわけか。新聞部が人気な理由は正直分からないが、揉めてる原因は納得した。


「本当に悪いんだけど、一人諦めて貰えるかな?…本当にごめんね!」

江東は深々と一年生三人に頭を下げる。


「ど、どうする?」


「えー、どうしようか?」


「……」

見たところ三人の一年生が入りたかがっているが二人しか入れないって状況だ。


「羽野さんさ、うちらに譲ってよ」


「そうそう、お願いだよ」

一年生の女子二人が、もう一人のツインテールで眼鏡をした小柄な女の子に言う。


「で、でも…私が先に来てたのに……」


「え、後先なんて関係なくない?」

一人の女子が羽野と呼ばれた女の子を睨みつけ威圧する。


「えっ…う、うん。…分かった、譲るね」

羽野は苦笑いをしながらその場を去っていった。


「やったー!ありがとね!羽野さん」


「本当にありがとー!」

一年生の二人はその場で喜び、羽野はトボトボと歩いて行ってしまった。


「何だか可哀想だな」


「う、うん。あの子、見た感じ内気だと思うから…譲ってあげたんだと思う。もっと公平に決めさせれば良かったかなぁ…。失敗だなぁ」

そう言って江東は自分を責めた。しかし、今の感じだったらもし、あの羽野って子が入れたとしてもどの道あの二人からヘイトを買うのは確実だ。ともすればあれが一番平穏な終わらせ方だと思う。


「……なぁ江東、正式に入部する日っていつなんだ?」


「えっ? えーと、仮入部期間は明後日までだと思うけど…何でそんな事聞くの?」


「いや、別に大したことじゃないさ」


「もしかしてやっぱり新聞部に入りたいとか!」


「いや、それは本当にない」

入部をしないことを伝え、その場を去った。




「やぁ、ちょっといいかな?」

俯いたまま下校しようとしているさっきの少女に声をかける。


「えっと…貴方はさっきの」


「羽野さん…だよね。少し話がしたいんだが…いいかな?」


「は、はい…」

羽野は少し困惑している様子だったが、こちらの要求を飲んでくれた。


「そう…だな。ここで話すのもなんだし、ちょっと付いてきてくれないか?」


「わ、分かりました…」

羽野はこくりと頷いてくれた。

無事羽野との接触しには成功したが、これじゃまるでナンパの手口と同じだな…こうするしかないけど。


「……」


「……」

二人で目的地まで歩いて向かう。勿論ほぼ初対面なわけで気まずい雰囲気だ。


「なぁ」


「は、はいっ?!」


「そんなに驚かれても困るんだがな…別に取って食うわけでもないんだし」


「ご、ごめんなさい!」

…謝られても困るが…それを指摘したらまた謝られる気がする。ここはスルーするべきか。


「…羽野さんは、どうして新聞部を諦めたんだ?」


「…人数制限じゃ仕方ないですし…それに、二人に悪いので…」


「…ふーん。優しいんだな。でもそれは本心じゃないだろ?」


「えっ?」

羽野は驚いた顔をした。


「違うか?」


「い、いえ!で、でも何で…分かったんですか?」


「そりゃ…あの二人に羽野さんが譲って去っていくときの顔…あれは諦めがついた顔とは思えない。そう見えたんだ」

あの時の羽野さんの顔は…凄く残念そうな顔だった。納得した人間がする様な顔ではない。


「…せ、先輩凄いですね!!」


「凄くはないさ。あれくらいは見てれば分かるよ。第三者から見ればね」

凄くはないと自分では言ったが、そう関心されると調子に乗ってしまいそうだ。


「そういえば先輩、お名前聞かせてくれませんか?」


「あ、ああ。そういや、まだ名乗ってなかったな。俺は神崎享だ」


「神崎先輩…ですね。えっと一応私も自己紹介しますね!一年二組の羽野(はや)(ひかり)です!」

羽野さんの顔はさっきまで顔は打って変わって明るいものだった。恐らくこれが本来の彼女の顔だ。


「光か。いい名前だ。お、ついたついた。さて羽野さん。中に入るよ」


「あ、はい!えっと…ここは喫茶店…?」


神崎は喫茶店のドアに手を掛け、そこで止まり羽野の方を向いて

「羽野さん、新聞部入りたいか?」

と尋ねた。


「え…」

羽野はその場で固まる。きっと建前を言うべきなのか、本音を言うべきなのか悩んでいるのだろう。


「勿論、本音で大丈夫だよ」

神崎はと口元をニヤッとさせ言う。


「…は、入りたいです!!」


「…いい返事だ。なら、俺が絶対羽野さんを新聞部に入れてみせるよ」

本当はサークルメンバーに入れるつもりだったが、これはどうも入れられないな。


「で、でもどうやって…?」


「まぁ、詳しくは中で説明するとしよう」


「わ、分かりました!」


「…光…か。羽野さん。ちょっとしたニックネームを思いついたんだが、それで呼んでいいか?」


「え、は、はい!」


「ピカ。羽野さんのあだ名はピカだ」


「ピ、ピカですか…?私の名前とあまり関係無い様な…?」


「ほら光ってなんかピカピカしてそうだろ?だからピカ」

そう言って神崎は先に喫茶店に入っていく。


「…へ?」


(そ、そんな安直な!!?)


「ま、待ってください!神崎先輩!」



カランカラーン


「いらっしゃい…って神崎さんじゃないですか!」


「ああ、田畑さん、今日もちゃんと仕事はやってるみたいですね」


「勿論っすよ!店長に早く借金を返さなきゃいけないんで!」

田畑は笑いながら言う。もう昔の田畑の面影はなく、真っ当に仕事しているみたいだ。


「えーと、横にいるのは…」


「は、羽野光です!」


「…神崎さんの彼女さんですか?」


「い、いや!ち、ち、違います!違います!」

羽野は顔を真っ赤にしながら両手をジタバタさせる。


「ただの後輩だよ。あっちのテーブル席座らせて貰うよ。ほら行くぞピカ」


「は、はい!!」

羽野はいそいそと神崎を追いかけていく。


「さて、ピカ。話を詳しく聞きたいんだが、いいかな?」


「は、はい!もちろんです!」

首を縦に強く振るピカ。そこまで強く振らなくてもいいが…ま、いっか。


「まず…あの二人とはどういう関係なんだ?一応顔見知りだった様子だが」


「は、はい…あの二人は、私と同じクラスの子なんです。まだあんまり関わったことはないですけど」


「成る程ね…変に機嫌を損ねて今後のクラスでの関係を崩すくらいなら、自分が引いた方がマシってとこか」


「す、凄い!先輩何でそこまで分かるんですか!?」


「ただの勘だよ。で、二人はクラスでどういう立ち位置なんだ?」


「立ち位置…ですか。女子の中では結構中心にいる感じですね」

クラスの中心人物の機嫌を損ねるわけにはいかないだろう。このピカの行動は正解だ。

中心か…。参ったな。変に機嫌を損ねたらピカがいじめの対象になる可能性がある。これは一筋縄ではいかないかもな。


「そりゃ、誰だって譲るだろうな」

同じクラスのピカなら尚更だ。


「私、新聞部で色々な記事を書いて学校のみんなを楽しませたい…そう思ってたんです。学校の事も知れるし、学校ももっと好きになれるなって」


「そうか、なら尚更入部させてやらないとな。まずは情報を集めないと」

神崎はそう言うと店員を呼ぶ。


「はい、何でしょうかお客様」

何故だかちょっと不機嫌そうなこの店員。まぁ、俺のサークルの部員なんだが。


「よ、久堂。お前の力を貸してくれ」


「…了解」


「あ、こっちは羽野さんね」


「あ、どうも!初めまして!羽野光です!」


「ど、どうも。私は久堂紫です」

お互いにペコリと挨拶をする。


「お前さ新聞部について詳しく知らないか?」


「新聞部…?うちの?」

その発言に俺はこくりと頷くと、久堂は少し考える素ぶりを見せた後、答える。


「新聞部…ねぇ。そういえば亜美が、今年の一年生は部活内容が楽そうだから入る子が多そうってぼやいてたよ」


「成る程ねぇ…あの二人もその可能性大だな」


「久堂先輩詳しいですね…」


「まぁ、私の友達が新聞部だから」


「それだけじゃないぞ。久堂が詳しいのはな」

神崎が話に混ざり説明する。


「久堂には四日前から、うちの学校の情報を集めておいて貰うのを頼んだんだよ。今のこいつは上橋高校の隅から隅まで知ってる。まさにくーどぅる先生だな」


「へ、変なあだ名をつけるのはやめて。でも神崎の言ってる事は正しいよ。この四日間はそういった情報を集めておいたからね。でも何で私なの?」


「お前は記憶力がいいからな。その仕事に適任だったわけ」


「久、久堂先輩も凄い…」

羽野は目をキラキラと光らせて俺ら二人を見ている。


「さて、なら明日勝負を仕掛けよう。入部をかけた勝負ね」


「勝負…ですか?」


「ああ、あの二人にね…それで新聞部さんに判断して貰うんだ」

有能な方を採用…ってわけだ。新聞部も腕が立つ人の方が欲しいだろう。


「でも勝負って…何するわけ?」


「そんなの決まってるだろ?どっちがいい記事を書けるかで勝負すればいい。これならピカが負ける事はないだろうし」

楽だと思ってる奴らにピカが負けることはないだろう。


「ピカ?」

久堂は顔を傾げる。


「あ、私の事です!でも私、記事書いたことないんですけど大丈夫でしょうか?それにもし負けたら…」


「そりゃ、相応な事はされるだろうなぁ。例えば…一生パシリとか?」

もちろん冗談で、俺はそう言った。


「ええええ!?一生…?」


「こら神崎、後輩をからかうな」


「悪い、冗談だよ冗談。まぁ、要するに負けなければいいんだよ」


「まーた無茶なこと言う…」


「どうだ?ピカ、やるか?」


「…私、やります!新聞部入りたいですし!」


「よし!なら何の記事を書くか考えよう。こっちはくーどぅる先生がいるわけだし」


「だから!変なあだ名つけるな!」

新キャラ登場

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