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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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第二章「魅力」 中編

第二章「魅力」 中編

次の日


今日から普段通り授業が始まる。チャイムが鳴る10分前に登校する。


「ねっむ……」

そう言いながら俺は席に着く。席に着くなり机に顔を伏せ、腕を枕代わりにする。腕をずらし横を見ると久堂はもう席に着いていた。読書中の様だ。


「よ。おはようさん」

久堂に向かってそう言うが反応は無い。


「…無視かよ!冷た」


「…関わる気、無いんじゃなかったの?」

顔は小説の方に向いているが応答した。


「いやー、気が変わってさ」


「そう」

無関心なのか素っ気ない。

不意に久堂の読んでいる小説の表紙に目がいく。


「あ、それ最近出た奴だろ?」


「え、知ってるの?」

久堂は小説から目を離し神崎の方を向く。


「ああ、その作者が書く話、面白いからな」


「そ、そうなんだ…」

久堂は驚いた顔を浮かべ、呆然としている。


「お前も好きなのか?」


「う、うん。まぁね…」

歯切りは悪いが、久堂は素直に肯定した。


「ふーん。なかなかいい趣味してるんだな」


「何?その言い方」

その発言に久堂は眉間に少し皺寄せ、不機嫌そうにする。


「いや、別に。なんかお前って友達と喋ってる時と雰囲気違うな、喫茶店でも違うし。それは営業スマイルって奴か」

そう言うと久堂は黙り込んでしまった。


「そんな無愛想だと友達出来ないぞ?」


「別に無愛想になんかしてないし。あんたと同じにしないで。私はあんたと違って、友達だっているし」

こちらを睨みながらそう言い放った。


「あ、それも意外だったな。友達いるんだな、お前」


「失礼極まりないね、あんたって。別に友達がいるのなんて当たり前でしょ」


「ここに当たり前じゃない人がいるんだが」


「それはあんたが普通じゃないんでしょ」


「まぁそうだな。で、そんな久堂ちゃんに折り入って頼みがあるんだが、いいかな?」


「このタイミングでよく頼み事なんてできるね…後、ちゃん付けはやめて」

久堂の言う通り、この流れで頼み事を呑むようなお人好しなんていないだろう。


「まぁまぁ。そう言わず聞くだけ聞いてくれ」


「……」

久堂は再び黙り込む。どうやら聞いてはくれる様だ。


「前に喫茶店で俺と一緒にいた奴がいるだろ?」


「あー、あの金髪のうるさい人」


「そうそう、そのうるさい奴」


「否定しないんだ…」

久堂は俺が落葉を庇うと思った様で、唖然とした表情を浮かべる。


「うるさいのは間違ってないし。まぁ話を戻そう。そのうるさい奴と俺でサークルを立ち上げたんだ、そこでだ。久堂ちゃんにも入って欲しいってわけなんだ。どうかな?」


「は、はぁ?」

久堂は驚いた反応を見せる。

当たり前だ。こんな頼み事だなんて予想出来るはずが無い。


「えっと…話が見えないんだけど…」

頭を抱えて久堂は言う。


「サークルの内容を簡潔に言うと、長多橋で起きた面白そうな事に関わろうっていうサークルなんだけど…どうかな?」


「何そのわけわかんないサークル、私はパス。そんなことに付き合ってられないよ。というかなんで私に言うわけ?」

案の定、俺の誘いは断られる。


「何だよノリ悪っ」


「ノリとかの問題じゃないし」

二人でそんな会話をしていると、女の子が教室の扉を開きこちらに駆け寄ってきた。


「おはよっー!紫!」

昨日も久堂と話していた女子生徒だ。お団子ヘアが特徴の名前は確か…江東(えとう)亜美(あみ)だったと思う。久堂とはクラスは一年の時からの付き合いだと思う。それらしい会話が昨日、横から聞こえていた。


「おはよう、亜美」


「あれ?紫が私以外の人と話してるなんて珍しいね!」

亜美は満面の笑みでそう言った。

……ん? 今の発言、こいつまさか?


「ちょ、ちょっと亜美!!」

久堂は亜美の口を急いで塞ぐ。

そして……恐る恐る俺の方を見る。


「あっれ〜?『友達がいるなんて当たり前』じゃなかったの?」

俺はニヤニヤしつつ小馬鹿にしながら言った。


「う、うるさい!」

久堂は顔を真っ赤にしながら言う。


「えっと…神崎君だっけ?」


「ああ、江東さんだよね。初めまして。よく俺の苗字分かったね?」


「うん、初めまして!そりゃあんな自己紹介してたらねぇ。紫と仲がいいんだね!」

どうやら、あの自己紹介は逆効果だったみたいだな。


「いんや、最近話すようになっただけだよ。江東さんは一年生の時からの付き合いなんだっけ?」


「うん、そうだよ〜。紫の数少ない友達なんだよ〜!えっへん!」

江東も久堂を茶化す様に言った。


「亜美!!あんま言わないで!!」

久堂が顔を更に真っ赤にして言う。


「ごめんごめん、そんな怒らないでよ!」

江東は笑いながら謝る。


「〜〜〜最悪ッ!!」

久堂が顔を本で隠しながら、言葉として認識できないような声で言う。


「まぁまぁ、そんな気にすんなって。友達一人いるだけで十分、十分」

まだニヤニヤと笑いながらなだめる。もちろん、なだめる気など、更々ない。


「うるさい!ボッチなんかになだめられる筋合いはないから!」


「えっ?神崎君、友達いないの?」

江東は驚いた顔で言う。


「まぁ、そうなるな」


「へぇ〜意外。紫と話せるぐらいだから、友達いっぱいいそうなのに」

その言い方だと久堂は一癖ある性格なのだろうか。

今のところ俺に対しては一癖あるみたいだが。


「まぁ、久堂とは何かと趣味が合ったってだけだよ」


「ふーん、そうなんだ」

そう言い終わると、江東は久堂の方をじーっと見つめる。


「な、なに?」


「いやー?ただ、良かったねー。と思っただけだよ」


「何それ…」

そう話し込んでいると、いつ間にかホームルームが始まる時間になっていたらしく、チャイムが鳴る。


「あ、ホームルーム始まっちゃうね。じゃあ紫、また後でね!」

そう言い終わると、江東は自分の席に向かって行った。


「いい友達だな」


「…う、うん…」

久堂は顔を下にしながら呟く様に言った。

意外な返答だ。

てっきり「どこが?」とか言って否定すると思っていた。根はいい友達だと思っているんだろう。

ホームルームが始まった。

今日はもう、久堂と話す事は無かった。







学校が終わり、帰宅して部屋でパソコンを立ち上げる。


カタカタカタカタカタカタ


慣れた手付きでキーボードを打つ。


「ゴットマン…っと」

インターネットでゴットマンで検索をかけ、new meを開く。「ゴットマンまとめ」というページだ。ここでは俺の噂や評価などが載せられている。日頃からチェックし、視聴者の評価を見ている。まぁ配信者なら当然だろう。周りの目は気にしておかないとな。

早速見てみよう…どれどれ?


1《ゴットマンって何歳なの?》


2《多分20歳とかそれぐらいじゃね?》


3《25だよ》


4《どこ情報だよそれ》


5《わかんね。出回ってたからそう思っただけ》


6《てか昨日のゴットマンの生放送みた?》


7《みたみたwwwあいつまじ面白いw》


8《本当にあれやんの?》


9《ネタだろ》


10《多分ネタ》


11《本当だったら面白いのになー》


…といった感じで書き込みが流れている。こういうインターネットの書き込みは話題が三回転も四回転もするため話が途絶える事はあまり無い。

それにしても…誰だ俺の年齢が25だと流したのは!?実物はバリバリ現役の高校生なんだが…

まぁ、こういうデマが出てる時点では俺の正体はバレていないという事だ。ある意味安心できる。


さて…飯は済ませて来ちゃったしな…

今日は風呂に入って寝るか。生放送は明日にとっておくことにしよう。




同日午後五時頃、マノールのベルがカランカランと音を鳴らした。


「いらっしゃい…って久堂ちゃん?」


「どうも」


「どうしたんだい? 今日のシフトは入ってないはずだよね?」


「ええ、まぁ…今日は普通にお茶しに来ただけです」


「ああ、そうだったのかい。いや〜びっくりしたよ。いつものカプチーノでいいかい?」

久堂が頷くと、マスターは慣れた手つきでカウンターでカプチーノを作り、久堂に差し出す。


「どうぞ」


「どうも」

私はカプチーノを一口啜った。うん、いつも通りマスターが入れる味だ。とても美味しい。


「今日は何でまた、お茶しに来たんだい?」


「いえ…ちょっと、マスターに聞きたい事がありまして……最近うちの高校の人来ませんか?」


「あー、神崎君の事かな? 最近落葉君と一緒に来たよ」

やっぱり。神崎は私がいない時にここに来たのだ。


「久堂ちゃん、席が隣なんだってね」

マスターは皿やコップを片付けながら久堂に話しかける。


「神崎とですか?まぁ、そうですけど」


「神崎君、久堂ちゃんと趣味が合いそうだし、いいお友達になるんじゃないかな?」

確かに神崎とは趣味は合ってると思う…私が読んでいた小説とかも知ってたし。 意味不明なサークルなんかにも誘われてた。


「そうだと…いいですね」


「なれるなれる、もっと積極的に話しかけた方いいよ」

マスターは嬉しそうにそう言う。何故マスターが嬉しそうなのか久堂には分からなかった。


「って、どこまで話聞いてるんですか」


「い、いや〜えっと…カプチーノの味はどうだい?」

オーナーが無理矢理な誤魔化していると電話が鳴る。


「あ、電話だ。久堂ちゃん話はまた後ね!」

そう言い、足早に逃げて行った。まったく…困ったオーナー。


「神崎…か」

私はカプチーノをまた啜った。






翌日。

予定通り、十分前に教室に着く。今日も隣の彼女は小説を読んでいた。これも予定通り。


「よう」


「…何の用?」


「いや、昨日の件で話があってさ」


「その件はもう断ったはずだよね?」


「まぁまぁ、聞くだけ聞いてくれ。…明日には、お前は俺のサークルに入ってるって言ったら…どうする?」

最初、久堂は冗談で言ってるのだと思った。

でも神崎の顔は至って真剣…というわけでもなくニヤニヤとしていて、おちょくってるか分からない。この男……読めない。そう思った。


「ど、どういう意味?」


「ただの勘だよ勘。」

そう言うと神崎は自分の席に座り、腕を枕代わりにして机に俯せた。

その日、久堂に神崎が話しかけて来る事は無かった。




放課後になり、生徒は一斉に下校を始める。


「さて…ミッション開始だな」

俺は携帯を取り出し、電話を掛ける。電話先の主は5秒くらい後に出る。


「もしもし?」


「もしもし。落葉か?」


「お、その声は大将じゃねぇか。どうしたんだ?」


「今からサークル活動を行う。場所は喫茶店、マノールだ。今から来れるな?」


「お、おう!それで、何をするんだ?」


「後で説明する。じゃ」

そう言って電話を切り、俺は喫茶店マノールに向かった。

登場キャラが増えて書く側も楽しいです。見て下る方々も楽しんでくれると幸いです(笑)


追記

小馬鹿にする神崎君が僕は大好きです


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