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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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第二章「魅力」 前編

第二章「魅力」 前編


長い様であっという間だった春休みが終わり、新学期が始まる。いざ新学期となると休みだったあの頃が懐かしい。というか戻りたい。そんなことを考えながら登校する。


学校に着くと、案の定賑わっていた。その理由は俺にもわかる。クラス替えだ。

ここにいる者の大半が、『〇〇君と一緒か?』だとか『〇〇ちゃんと同じになりますように』だとか考えているんだろう。まぁ、俺には関係無いが。

さっさと自分のクラスを見てそのクラスに向かう。俺は二組だった。


教室に入るとほとんどの奴が揃っていて、教室も賑わっていた。


(お、俺の席窓際じゃないか。しかも最後尾。)

これは嬉しい。誰もが喜ぶ最後尾の窓際の席なんて…っと、そこで”あること”に気がつく。

隣の席の奴…何処かで見たことあると思っていたら喫茶店でバイトしていたあの紫髪の女の子だった。

とは言え、喫茶店でしか面識が無いわけで、話す事もないのでそのまま自分の席に座った。


少しすると、新しく担任なるであろう人物が入ってきた。見ない顔だった。


「えー、今日からここのクラスの担任になる浅田(あさだ)次郎(じろう)だ。みんなよろしく」

見た感じ身長190cmぐらいのでかい教師だった。まるで巨人だ。


「それじゃ自己紹介をして貰う。一番前の君から頼む」

前の生徒から自己紹介が始まる。自己紹介か…話すことないな。


「じゃ次、久堂」

ぼーっと自己紹介を聞いていると、どうやら俺の横の喫茶店の女の子まで順番が回ってきた様だ。


「はい、久堂(くどう)(むらさき)です。一年の時は二組でした。皆さんと仲良くなりたいので、一年間よろしくお願いします!」

そう言い終わると久堂紫は席に着席する。


「じゃ次神崎!自己紹介頼む」

久堂の自己紹介が終わり俺の番が回ってきた。席を立つ。

「神崎享です。一年間よろしくお願いします」

と言い俺は席に再び着席する。


「それだけでいいのか?他に何かないのか?」

と先生はこちらを驚いた顔して見ている。当たり前だ。


「はい、以上です」


「そ、そうか。じゃあ次は…」

と再び自己紹介が進む。

俺のこの態度には、恐らくほとんどの生徒が快く思わないだろう。だが、悪目立ちするよりはこっちの方がいい。変に興味を持たれても困る。


「まともに自己紹介出来ないの?」

と横からボソッと言われた。さっき自己紹介をし終わった久堂だ。久堂は、目線もこちらに向けずそう呟いたが、間違いなく俺に言っている。


「する意味が無いからね。関わる気ないし」

こちらも視線を合わせず、頰を付きながら言ってやった。


「あんた友達いないでしょ」


「そういう解釈になるわけか。まぁ当たってるよ」

実際、この学校でまともに話す奴はいない。見栄も張る必要はないだろう。


「あ、でもマノールでは友達といなかった?でも確か違う制服だったか」


「マノール?」

聞き覚えのない言葉だった。


「前に金髪の子とうちの喫茶店来たでしょ?そこの喫茶店の名前」


「ああ、マノールって言うのか。ところで、俺らの事よく覚えてるな」


「そりゃ二回も来たら覚えてるよ。もう一人の方うるさかったし」

確かにあれは目立つな…でも、二回来たくらいの客を覚えているもんか?…いや、俺も覚えてたし普通か。


「それじゃ休み時間だ。次は委員会とか決めちゃうからな」

自己紹介が終わり先生が教室から出て行く。委員会か…まぁ入らないかな。こうしてホームルームは続いていった。






「紫ー!」

休み時間。机でふて寝していると、隣の会話が聞こえてくる。どうやら久堂の友達が来たようだ。


「亜美、また同じクラスだね」


「うん、よろしくね!でも良かったよー!紫が同じクラスで」


「私も亜美が同じクラスで嬉しいよ」

なにやら仲が良さそうだ。

…意外だな。久堂はさっきの俺の対応と違い、声が朗らかだ。初対面の相手と仲の良い友達。態度がこうも変わるものなのだろうか。


「そういえば自己紹介の時、なんか一人で喋ってなかった?」


「き、気のせいだと思うけど」

久堂は俺の方を向いて話してなかった為、そう捉えられてしまうのは仕方ない。


「そう?そういえば委員会どうするー?」

とほのぼのした会話が聞こえていたが、いつの間にかそんな会話は聞こえなくなり俺はそのまま眠りについた。






「じゃあ明日から授業があるから、教科書等は忘れず持ってくるようにな。それじゃ解散!」

そう先生が言い、みんな解散する。今日は午前中で学校が終わり体が軽く感じる。

さっさと帰ろうと支度していた時だった。俺の携帯が鳴る。どうやらメールが来た様だ。

誰からだろうと確認してみる。メールは落葉からだった。


〈喫茶店集合!〉

と一文だけが送られてきていた。

せっかく早く帰れると思ったのに…と思いながら「了解」と返し、しぶしぶ喫茶店に向かう事にした。



喫茶店に着き、中に入る。


「いらっしゃい」

どうやら今日はこの喫茶店にはオーナーしかいない様だ。前は久堂を合わせてバイトが二人いたんだが…それともまだ来てないだけだろうか。流石にオーナーだけで店を回すのは無理だろうし、恐らく後者だとは思う。


「お友達はもう来てるよ」

オーナーはカウンター席の奥でティーカップにコーヒーを注ぎながら、優しい口調で教えてくれた。


「え、あぁそうですか」

落葉の奴珍しく早く来てるな。そう思いながら、テーブル席を見ると落葉がこちらに手を振っている。


「よ、神崎!先座ってたぜ」


「ああ」


「そちらのお客さんは注文どうしますか?」

オーナーは俺に聞いてくる。落葉は先にメロンソーダを注文していた。


「じゃあ、アイスコーヒーで」


「かしこまりました。では少々お待ちを」

そう言うとオーナーは調理室に戻っていた。


「で、何の用だよ落葉。折角の早い下校を無駄にしてしまったんだが?」


「いや〜お互い新学期じゃん?だからこのサークルに新しくメンバーを加えようと思ってな!」


「ほう、それで?」

新入部員を入れる事は俺も頭に入れていた為、反対はない。寧ろ賛成だ。


「メンバーに入れるなら、俺の高校か大将の高校かなって思ってよ」


「まぁ…自ずとそうなるな。でも具体的にまだ活動してないのに、メンバーを入れるのもどうかとは思うけどな。やる事自体がふわっとしているわけだし」


「まぁそうだけどよ…じゃ何かしら問題に突っ込むか!」

手をポンと叩きながら落葉は言う。


「そんなに簡単に言うなよ…そもそも突っ込む問題が無いじゃないか」

話していると、さっきのオーナーがアイスコーヒーを持って俺達の席まで運んで来た。


「お待たせしました。アイスコーヒーです」


「あ、どうも」

マスターがテーブルの上にアイスコーヒーを置く。


「君、久堂ちゃんと同じ高校の子だよね?」

オーナーが俺を見ながらそう言った。


「ええ、そうですけど…」


「おお、やっぱりそうか!久堂ちゃんとは仲はいいのかい?」


「まぁ…一応。今席隣なんで」

ほとんど話したことが無いとは言いにくかったので誤魔化した。嘘は言ってない。


「そうかそうか!いやー久堂ちゃんはいい子なんだ、こんな人があまり来ない喫茶店でバイトしてくれるなんてさ!」

マスターはまるで自分の子の様に褒める。親バカに違いはないが。


「そういやこの店人少ないっすよねー?何でですか?」

そんなマスターの話を遮る様に落葉がそう尋ねた。

普段ならKY、空気読めと思うだろうが、この場面は助かった。


「喫茶店なんだしこんなもんなんじゃないか?」


「いや、それでもうちは少ない方だよ。ここら辺って駅に近いだろ?けど君らくらいの歳の子は、喫茶店には寄らないからね…。マノールに来るお客さんといったら、ご老人の方々か奥様の集団くらいだよ」

マスターの言う通り、この喫茶店…マノールも駅付近にあるから、もう少しお客がいてもおかしくはないが…


「なるほど〜。そりゃ俺らくらいの歳じゃコーヒーの味なんか分からないしな」

現に落葉が注文した飲み物は、前回はオレンジジュース、今回はメロンソーダだ。わざわざ喫茶店で頼むメニューではない。


「まぁそうだよなー…君らくらいの歳じゃ分からんよなぁ」


「俺は結構好きだけどな。この店もこの店のコーヒーも」

そう言うとオーナーは目を輝かせて俺の方を見る。


「ほ、ほんとかい!?」


「え、ええ…この店の内装も悪く無いと思いますし、コーヒーだっておいしい。俺は好きですよ」

そう言うとオーナーは俺の手をぎゅっと握り涙目になっていた。


「あ、ありがとう!君名前は?君ぐらいの歳で分かってくれるのは二人目だよ!」


「えっと…神崎享ですけど…って二人目?」


「神崎君か!いい名前だ!」


「おっさーん、神崎って苗字だぞー」

落葉が珍しくツッコミを入れる。


「で、オーナーさん、二人目って?」


「ああ、久堂ちゃんだよ。彼女がこの店で働いてくれてるのも、この店を気に入ってくれてるからなんだ。給料も大して高く無いのに…本当感謝しきれないね!」

オーナーは自慢気にそう言った。本当に久堂の事を大切に感じているんだな。


「ふーん…久堂紫か」

と、話していると電話が鳴る。音が厨房から聞こえてくる。


「おっと、失礼。電話がきたようだ」

そう言うとオーナーは厨房の方に戻っていった。


「で、大将。どうするんだ?」


「………」

落葉の問いに無反応な神崎。


「おい、聞いてるのか?」


「あ、悪い、聞いてなかった」


「ったく…しっかりしてくれよな!俺らのリーダーなんだからよ!」


「俺らって…お前と俺だけだろ」


「新人、目星ついてんじゃねーの?さっきオーナーと話してる時なんか思いついた顔してたぜ?」

ニヤリと落葉が笑う。

全くこいつは、馬鹿なんだか馬鹿じゃ無いんだか…いや、察しがいいだけか。


「まぁ…ね」

深みを持たせ、そう言った。


「よーし!なら俺も手を貸すぜ!何をすればいい?」


「そうだな…簡単に説得しても入ってくれないだろう。だが、入れられたら…かなりサークルの活動範囲が広がると思う」


「そんなすごい奴なのかよ!で、誰なんだそいつ?」

さっきのオーナーとの会話で気がついたならそこも分かると思うんだが…誰を誘うか分かってないのかよ…。

やっぱりただの馬鹿なのかもしれない。


「…久堂紫だ。彼女をサークルに入れたいと考えている」


「久堂紫って…さっき話に出たここで働いてる奴だよな?」


「ああ、そうだ。お前も一度ここで顔は合わせてる」

そう言うと落葉が一瞬考える素ぶりを見せた後、眉間に皺を寄せると、今度腕を組み、「うーん」と唸り声を上げる。どうやらコイツの頭に久堂紫は影さえ残ってない様だ。


「てか、今席隣なんだよな。なら普通に誘えば入ってくれるんじゃねーか?友達なんだろ?」

結局落葉は思い出すことを諦めた。


「いや、全く?」

落葉がギャグ漫画の様にがくっと倒れる。


「友達じゃねーのかよ!?それなのによく入れたいと思うな…」


「その方が面白くなるかもよ?」

神崎はニヤリと笑って見せた。


「へー、その根拠は?」


「んー、根拠は無い。まぁ直感って奴だ。これは配信者(ゴットマン)としての直感だ」

そう言って神崎は席を立つ。


「お、おいどこ行くんだよ?」


「今日は帰る。作戦、練らないとな。後で連絡する」


「お、おい!大将!!」

そう言って神崎は帰っていってしまった。



久堂紫…ねぇ。一体どんな奴なんだ?

まぁ神崎が入れたいっていうんだし、すごい奴なんだろうな。

俺と神崎はまだ出会って間も無い。だから神崎が何を考えているかは分からない。new meでの神崎享…ゴットマンなら俺も多少は知っているが、現実の神崎はあまりにもnew meのゴットマンとかけ離れてる。生放送のゴットマンはあんな落ち着いた感じでは無く、もっと口数が多く、うるさい奴というのが俺の印象だ。

けど、現実の神崎からはそれを感じられなかった。

new meでは携帯のカメラ機能やパソコンに付いているカメラ機能をonする事で自分の顔や風景を生放送で写すことが出来る。けど、俺も神崎もこの機能を使ったことがないから会って判断するのは難しい。俺は偶然分かったけどな。


「…見極めさせて貰うぜ。ゴットマン…ってあいつコーヒー代置いてってねぇ!?食い逃げして行きやがった!!いや、アイスコーヒーだから飲み逃げか!」

自分は窓際の席になったことないです。

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