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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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第一章「活動」

第一章「活動」


春休みの中、俺は暇を持て余していた。する事と言えば生放送だけ。最近生放送する機会が多すぎで『ゴットマン』ニート疑惑!?というのが出るくらいだ。まだ3日目だというのに…

そんな中俺の携帯が鳴る。電話だ。誰からだろう。


「もしもし?」


「もしもし!?神崎か!?」

声を荒げながら電話主はそう言う。この声は落葉だ。落葉以外に、この声でこんなテンションの奴が俺の携帯番号を知っているはずがない。


「俺以外誰が出るんだよ」


「えっと…お母さんとか?」


「アホか…で、何の用だよ」

落葉の言うことはアホすぎて呆れてしまう。まぁ、そこがあいつの魅力なのだろう。


「そうそう!明日前の喫茶店で会えるか?」


「別に構わないが、何の用だ?」


「おっけー!じゃ明日十時に、そこ集合な!」

落葉は要件だけ言うと俺の話を聞かずに電話を切った。


「お、おい!?」

なんだあいつ要件だけ言いやがって。まぁこうなった以上明日十時に喫茶店に行くしかないか。




そして翌日、俺は喫茶店に向かった。五分前には着いたので先に中に入って待っていることにした。


「いらしゃいませ!ご注文は?」


「コーヒーで」


「かしこまりました!」

こないだの紫髪の店員だ。あいつ、春休みも働いているのか。俺と同じで暇なのだろうか。まぁ高校生の春休みなんてそんなものか。

…それより、落葉がなかなか来ない。もう三十分は過ぎている。そう考えていると…喫茶店のベルがカランカランと鳴る。入店してきたのは落葉だった。入り口で席をチラチラと確認している。

俺を発見すると、息を切らしながら小走りでこちらに来る。


「わ、わりぃ!寝坊した!!」

まだ息を切らしているようで、ぜぇはぁと呼吸を整える。大方、寝坊して走ってきたのだろう。


「三十分も遅刻だぞ」


「ほんとわりぃって!」

そう言うと落葉は俺のお冷を一気に飲み干し、俺の向かい側の席に着いた。


「ぷっはー!生き返るー!」

いちいちオーバーな奴だ。落葉は深呼吸して落ち着くと俺の向かいに座る。


「で、話ってなんだよ?」


「そうそう、実はサークルのことについて詳しく話し合いたくてな」

そういえばサークルは結成することは決まっていたが、まだどうするかを決めていなかった。した事と言えば連絡先の交換くらいだ。


「そういえばまだ何も決めてなかったな」


「だろ?活動していくんだからいろいろ決めないとな!」


「そうだな…まず一番先に決めなくてはいけないことは…」


「お、リーダーっぽいじゃないか!」

子供の様にきゃっきゃと喜ぶ落葉は置いといて一番に決めないといけないことは俺の中ではもう明白だった。


「活動場所…か」


「活動場所?」


「ああ。俺達は学校が違うし、部室みたいなものがいるんじゃないかと思ってさ」

現状のメンバーは俺と落葉だけだが、サークルをやっていく上においてある程度人数は必要だと神崎は考えていた。


「確かにそれは必要だな!」


「ああ、今後のことを考えると絶対必要になるだろうしな」


「どこか適当に借りるか?」


「資金に充てはあるのか?」

その問いに落葉はその場で固まる。

まぁ俺も落葉も高校生だ。普通の高校生なら資金の当てになるわけがない。


「あああああ!じゃどうすんだよ!」

落葉が頭を抱え叫ぶ。ここが喫茶店の中という事を思い出して欲しい…。


「落ち着けよ…当てがないなら探すしかないさ」


「そうだな…そうするか…」

こうして俺達は喫茶店を後にした。




「とは言ったものの…どう探したものか…」

探すとは言っても、当てが無い以上虱潰しに探すしかない。落葉も頼れそうにないしな。


「よし!神崎!まずは下橋高校辺りを探そうぜ!」


「お前の高校付近か?もし見つかったとしたら俺が放課後毎回そこまで行かないといけないじゃないか…だるいな」


「大将!!そんな事気にしてる場合じゃないだろ!しかもだるいってなんだ!だるいって!」

だるいは聞こえない様に言ったつもりだったが、どうやら聞こえていたらしい。


「冗談だ、冗談。ほら、さっさと探そうぜ」


「ならいいけどよ。ま、はりきっていこうか!」

落葉は一人でガッツポーズを決める。


「ちなみになんで下橋高校の付近から探すんだ?」


「そりゃ俺が楽だからな!」


「おい」

全くなんて奴だ。俺は冗談(半分は本音)で言ったのにこいつは…まぁ活動場所が見つかるならいいか。


「落葉、下橋高校付近は何があるんだ?」

下橋高校は、俺の通う上橋高校とは真逆の場所にある。通学する時は勿論、休日も出掛けるとしても長多橋駅に行くのがほとんどで滅多に下橋高校の近くには行かない。だから下橋高校付近は詳しく無かった。


「んーそうだな…河川敷とか鉄塔が近くにあるくらいか?」


「ほう、のどかでいいな」


「そうか?俺は上橋高校付近のがいいと思うけどな」


「なんでだ?」


「だってお前の高校の方が長多橋駅に近いじゃねーか」

長多橋駅は上橋高校と下橋高校の中心地にある為、上橋の生徒も下橋の生徒も利用する者が多い。


「そんなに距離は変わらないと思うけどな。それに鉄塔から景色を眺めるとか、よくないか?」


「そうかぁ?俺は駅前で美味い飯食った方俺はいいんだが」

落葉は花より団子なんだな、と心の中で思った。


「ま、いいや!じゃ活動場所捜索といきますか!」

と言って走り出す。


「おいおい、何も走ることは無いだろ…?」

と言った瞬間石につまづき転ぶ。


「おいおい…幸先不安だなこりゃ」






「ここの河川敷なんてどうだ!?少年達の野球を見ながらサークル活動なんて乙な物じゃないか?」


「却下だ。野球少年達の邪魔になるだろうが…お前自分が野球好きだからだろ」


「…ばれた?」


「ばればれだ。ほら次行くぞ次」


「ちぇー。いいと思ったのになぁ〜」

と渋々落葉は諦める。

ったく…部室が欲しいと言ってるのに外を選ぶ奴がいるかって…


「ところで神崎はスポーツとかってやるのか?」


「んー…あまりやらないな。やるとしても学校の体育の時間くらいか。運動神経も良くないしな」

スポーツが嫌いなわけでは無いが、好き好んでやる方でも無かった。学校の休み時間は本を読んでいるか寝てるかのどちらかだったし、アウトドアよりインドア派だ。


「だったら今度俺とキャッチボールでもやろうぜ!俺野球なら教えられるぞ」

そう言って落葉はボールを投げるフォームを取り、投げる振りをしながら言った。


「活動場所見つけたらな」


「了解だ」





「じゃ!ここの図書館はどうだ!本も沢山あるしパソコンだってあるぞ!長多橋の事を調べるには十分な場所じゃないか?」


「…悪くはないけど」


「だろ!流石の大将もこれはおっけーだろ?」


「…確かに本は沢山あるし、長多橋の歴史とかも興味はある。だがこのご時世、パソコンが無くても携帯でインターネットは利用出来るだろ?そして、決定的にここでは活動出来ない理由がある」


「そ、それは?」

落葉がごくりと固唾を飲み、こちらの顔を伺う。


「…図書館は静かに利用しなくてはならない。お前…絶対うるさいだろ。図書館はこれからも利用はしたいし出禁をくらうわけにはいかない。よって却下だ。」

俺は暴れる落葉の服を引っ張り図書館を後にした。




こうして下橋高校付近を俺と落葉は歩いて回った。

だが、部室に出来る場所は見つからなかった。


「はぁー…結局何処も駄目かよー…」

肩を落としがっかりする落葉。

まぁ5時間も下橋高校周辺を歩き回ったんだ、肩を落とす気持ちもわかる。が、落葉が紹介する場所は何処も彼処も部室と呼べる様な場所では無かった。もう少しまともな場所を紹介して欲しかったな…


「今日は解散だな。近日上橋高校付近で部室になる場所を探すか」


「くッ!仕方ねぇか。…俺が行くのが面倒くさいが…認めよう!」

ポーズを決め俺に指を指しながらキメ顔で言った。


「何でそんな偉そうなんだよ…」


「別に偉そうにはしてないぜ?かっこよく言っただけだ」

何処がかっこよかったのかは俺には分からないが、彼がそう言うならそうなんだろう。彼の中ではだが。


「なぁ大将、最後に行きたい場所があるんだ。付き合ってくれないか?」


「今からか?もう日が暮れそうだが…」

五時間も歩き回っていたせいで夕方になろうとしていた。


「それがいいんだよ!まぁ来れば分かるさ!」

そう言われて俺は(ほぼ強制的に)落葉に付いて行く事になった。




「さ、着いたぜ」


「ここは…鉄塔か」

目の前にはとても立派で頑丈そうな鉄塔が建っていた。


「さぁ登るぞ!」


「お、おい。ちょっと待て。立ち入り禁止って書いてるんだが…」

鉄塔ハシゴの横には大きく「立ち入り禁止」と書いてある看板が立て掛けてある。


「ああ、前にもヘルメット被ったおっさん達が登っていた人いたし大丈夫だろ」


「それ業者の人だと思うんだが…」

そう言っているうちに落葉は登っていく。登るのに慣れているのか登る速さは異常だった。猿かあいつは。やはり野球をやっていたから筋力もあるという事だろうか…?

落葉の姿が見えなくなりそうなので俺は渋々登る事にした。


「夕日が綺麗だなー!」

登り終えた落葉は一人はしゃいでいた。


「大将!ほらはやく登ってこいよ!」


「そう急かすなよ…登るのに一苦労だっての…」

やっと落葉の所まで登りきり一息つく。すると鉄塔から見える景色が目に入るそこから見える景色は絶景だった。


「…確かに景色はいいな」


「だろー?俺のオススメ場所だからな!」


「でも普通は登っちゃ駄目だろ」


「え!?そうなのか!?」

唖然とする落葉。やはり落葉は抜けている所がある。いや、ありすぎると認識した。


「なぁ、神崎…」


「なんだ?」


「活動場所、ここはどうだ?」


「却下」


「やっぱ駄目か!……なぁ、神崎。俺の話聞いてくれないか?」

急に真剣な顔で俺に尋ねてくる。いつものおちゃらけている落葉とは違う雰囲気だった。


「なんだ?急に改まって」


「実は俺中学卒業した後に親の都合でこの街に来たんだよ」


「へー、そうだったのか」


「高校では知り合い一人もいなくてさ、最初は全然馴染めなかったんだよな」

まぁ学生時代は一番環境が変わりやすい時期だろうから、転校の事は驚かなかった。だが、落葉が高校に馴染めないという点は意外だった。


「でもnew meを知って俺の世界が変わったんだよ。なんつーか、元気を貰えたんだよな!見てくれているいろんな人から励まされたり、俺がどうでもいい話をしてそれを笑ってくれてよ」


「そうか」


「それで高校でも友達出来てよ、今でもnew meは辞められないんだよな!」

これを聞いて落葉が何でnew meで人気なのかが分かった気がした。何に対しても本音で語りかけてくれる。見ている奴はそんな所に惹かれたんだと俺は思う。


「でも俺って引っ越して一年も経つのに長多橋の事はあまり知らなくてさ…もっと知りたいんだよな!この街のこと!今よりもっと好きになりたいんだ!」


「いや…惹かれたのは俺も…か」

この時俺は配信者としてのアザルコレクターの魅力に惹かれていたのだと気づいた。


「なら、俺もサークル活動頑張らないとな。お前がもっと好きなるかは大将の俺にかかってるだろうし」


「神崎!」

俺達はしっかりと互いの手を握りしめた。


「これからよろしくな!大将!」


「ああ…ってか前も握手したよな?お前握手好きだな」


「…そうだっけか!覚えてねーや!」

これが俺と落葉の初めてのサークル活動だった。この後俺達は鉄塔にいた事がバレて逃げる事になるんだが、それは語らずにおこう。

第一回目のサークル活動。

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