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長多橋セブン  作者: 杉本誠
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序章「始まり」 後編

序章「始まり」 後編


「あそこの喫茶店でいいか?」

と喫茶店を指を指して俺に尋ねてくる。飲み物を奢ってくれるという事だろうか。


「ああ。構わないよ」

正直コーヒーは好きだったし喫茶店の飲み物は値段が少々高いので正直お礼を受けて良かったかもしれない。


「よっしゃ、じゃ入ろうぜ」


カランカラーン


「いらっしゃいませ〜」

若い紫色の髪の女の子の店員が席まで案内して貰った。高校生だろうか。店の雰囲気は静かな感じで人もそこまで多くなく好印象だった。これは結構いい穴場だ。意外な発見がありお礼を受けて本当に良かったかもしれない。


「ご注文が決まり次第お呼び下さい」

さっきの若い紫色の髪の女の子の店員がお冷を持ってきて、にっこりと笑顔で対応し持ち場に戻っていく。


「それよりお礼って?」

さっき話をしてたお礼の件に対して尋ねみた。ここに来た以上、大体察しはつくが、一応聞いてみた。


「ああ、好きな物頼んでいいぜ!あ、でも三つまでな!」

予想以上に太っ腹だった。


「じゃ好きに頼ませて貰うが」


「おう!好きなの頼んでくれ!すみませーん!注文お願いします!」

と声をかけるとさっきの店員が数秒後くる。


「オレンジジュース一つ!」


「アイスコーヒー一つで」


「かしこまりました。オレンジジュース一つとアイスコーヒー一つですね!」

注文を繰り返し、紫の髪の女の子は持ち場に戻る。


「コーヒーを頼むなんて大人だな〜」

と感心してる様な表情で俺を見てくる。


「そうか?」

高校生ぐらいならコーヒーを飲むなんて普通だと思ったが、あえて言わなかった。


「そだ!お前に俺の生放送の裏話聞かせてやるよ!」


「えっ…あ、ああ」

しばらくくだらない話を聞かされていると、注文した飲み物も来た。砂糖かミルクは入れないのかと尋ねられたが、どちらも要らないと答えた。


「そういえば名前を聞いてなかったな!なんて言うんだ?」

と聞かれた。ここは少し鎌をかけてみるか。


「普通、名を名乗るのは自分が先だろう?」

ここでハンドルネームと本名どちらを名乗るか…流石ハンドルネームで答えるだろうけど…。


「あ、そうだなわりぃ!俺の名前は落葉鋼樹(おちばこうき)だ。下橋(したはし)高校の二年生だ」


「……」

こいつ…馬鹿か?自分の本名だけではなく自分の高校の事まで言うなんて…あり得なかった。普通あり得ない事だった。俺がアザルコレクターの事を知ってるんだからアザルコレクターの本名が落葉鋼樹だとネットに書き込む可能性もあるし、ましてや住んでいる場所もだいたいの察しがついてしまう。この街に住んでいることは確かだからだ。ネットで人気な奴ってのは人気になるだけアンチ、つまりそいつの事を良く思わない人が必ず出てくる。そのアンチに本名をバラされたり家を特定される可能性は普通にあり得る。流石に偽名だろうか?などと考えると…落葉の口が開いた。


「なぁ…あんたも『配信者』なんだろ?」


「……」

こいつ…なんで分かったんだ…?いや適当に言った可能性もある。


「…そんなわけないだろ?俺はただの生放送好きなだけだよ」

顔にださない様に気を付けながら俺は言った。


「嘘だ」

落葉は即答でそう答えた。


「…なんでそう思うんだ?」


「なーんかお前の声聞いた事あると思ってよ、で、そいつも丁度コーヒー好きだったからよ喫茶店でお礼するって言ったら頼むと思ってたら思った通りだったわけさ!」


「…成る程ね」

まさか俺の放送を見てたなんてな。俺も自分を過小評価していたみたいだな。ここで変に嘘付くとこいつが俺が配信者だと言いふらす可能性があるし…こいつがアザルコレクターなら俺も弱みを握ってしまったしお互い様か。


「ああ、そうだ。俺が『ゴットマン』だ」


「おお!まさか配信者仲間に会えるなんて!」


「それは俺も同じだ。まさか長多橋に配信者がいるなんてな。それも生放送の。それより、俺の事も知ったんだ。今日は俺をはめるためやった事だろうが、軽率な行動はやめて欲しい」


「はめる?」

落葉はキョトンとした顔をしている。まるで自分ははめたつもりは無いような顔だった。


「…あー…もしかしてだが…喫茶店選んだのってたまたま…か?」

恐る恐る聞いた。まさかな…そんなはず…ないよな?


「じ、実はたまたまだ」

と照れるように笑顔に答える。俺はとんでもない奴に正体を教えてしまったのかもしれない。


「それよりお前部活とかバイトやってんの?」


「いや、やってないな」

突然そんな質問をされた。人と関わりを極力持たない様にしているためどちらともやっていない。


「おお!なら都合がいいな!俺野球部だったんだけど坊主にするのが嫌で辞めちゃってさ、放課後暇なわけよ!」


「ふーん。で?」

対して興味は湧かなかった。それぐらいで辞めるくらいなら辞めた方が正解だと思ったしそもそも野球部にいる様に見えなかった。見た目はちゃらちゃらとした高校生って感じだった。


「なんだよその反応!もう少し興味ぐらい持ってくれてもいいだろ!」


「あー…悪い嘘付くの苦手なんだー…」

目を伏せてテーブルに肘をついて棒読みで言った。


「棒読みじゃねぇか!」

流石に気がつくか。ちょっと馬鹿にしてた。いや、だいぶか。


「と、とにかくよ、何もやってないならサークル一緒に開かないか!」


「サークル?」


「ああっ!配信者同士が会えるなんて奇跡さ!ここで会ったのも何かの縁なわけだし!」

まぁ配信者同士がこんな形で会うのは確かにそうそうない。しかしサークル…かあまり気乗りしなかった。


「サークルって具体的に何するんだよ?」


「んーそうだなー」

腕を組み考えてる。何をするかも考えて無かったのか。


すると数秒後に指を鳴らしこう言った。

「じゃこの街、長多橋について調べるサークルはどうだ!」


「この街について…?」


「ああ、後この街で起きる事件とかに手を突っ込んだりさ!」

落葉の発想は正直高校生のものとは思えないものだ。


「事件…ねぇ」


「どうだ!面白そうだろ!」


「はぁ…わかった。だがそれだけじゃ目的が曖昧だし、長多橋の文化やイベントにも触れる活動にしよう」

これなら隠れてやる分にも問題ないし、する事もだいぶ明確だ。


「よし!決定!じゃお前が大将だ!つまりお前がリーダーな!」


「な、何で俺なんだよ」


「だってお前リーダーとか得意そうだし!それに俺に任せるの不安だろ?」

それを自信満々に言われても困るのが事実だった。


「…わかったよ引き受けるよ」


「よっしゃ!じゃそんな大将の名前を聞いてもいいかい?」

そういえば名乗ってなかった。今更隠す必要は無いしな…言うことにした。


「神崎」


「かんざき?」


「ああ、神崎享(かんざきとおるだ)

そう言うと落葉はニッと笑った。


「そうか!じゃよろしく頼むぜ!神崎!」

そう言って右手を出し握手を求めてくる。まるで少年漫画でありそうな展開だな。


「…おう」

俺は落葉の右手をぎゅっと力強く握った。


「さっそくだが、落葉」


「お、なになに!」

落葉は目を光らせこちらを見てくる。


「コーヒーのお代わり頼むぞ。後3品までいいって言ってたしデザートも頼もうかな」

落葉は机に頭ガンッと下に落とした。


「なんだよそれー!!」


こうして俺の新しく長多橋での生活での楽しみが増えたのであった。

こんな青春も悪くはない?

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