第6話:友人から仲間に
図書館の地下にある地下鉄に乗り込む。電車内は人が少なく車両は独占状態だった。
「次はショッピングモールNEOかしらね」
電工掲示板にも次の駅には”ショッピングモールNEO”と表示されていた。聖貴学園の地下鉄は環状運転を行っており外回りと内回りが存在している。
「確か有名なテナントが入っているんですよね」
「そうね、有名なものしか入っていないからこそ困る点もあるわ。例えば、従者コースの生徒からは百円均一の店を入れてほしいっていう意見が出ているけど、現実的に考えれば不可能なの」
「そうなんですか」
現実的にできない理由として、場所がない、つまり既に空きが無い。そのため夏穂も全力で動いてはいるものの現実的には進歩がない。
「さあ、着いたわ」
地下鉄のホームに降りて階段を登ると輝く光景が目の前に広がっていた。普通のショッピングモールと変わらないが、気品はまるで別物だった。
「なんかここに居ては、いけない気がする」
「そんなことはないわ。貴方はもうここの生徒だから」
ショッピングモールは五階建てで五階がフードコートにもなっている。元々食堂があるからフードコートは必要ないと喚く周囲を創立者が”私のお金で建設する夢の学園だ! お前らに文句を言われる筋合いはない!”と反対を押し切ってフードコートも建設されることになった。
「とりあえず、ぐるっと一回り案内する方がいいかしら? それともどこか行きたいテナントとかある?」
「特には無いですけど……」
優は夏穂の背後を指差した。その先には大勢の女子生徒が遠目で夏穂のことを眺めていた。夏穂が振り向くと歓喜の声を上げていた。
「……困ったわね」
「……支持者はいなかったんじゃないんですか?」
「……そんなことを言っていたかもしれないけど、今はそれどころではないわ。捕まったら今後の学園の方向性とか色々聞かれるわ。貴方は走るのは得意?」
「まぁ幼馴染みが陸上部でなから強制的に付き合わされていましたから」
夏穂は不敵に微笑むと「じゃ行きましょうか」と、いきなりトップスピードで駆け出した。祐は梓ほど陸上に詳しいわけではないが、それでも梓の勉強に付き合ったときに多少は教えてもらっている。そのときの知識では夏穂の速度は普通に経験者のペースだった。それどころか「祐、大丈夫? 振りきれる?」と祐の心配をする余裕を見せている。
そう言われて祐は後ろを降り向くが、既に追いかけてきていた生徒は諦めて歩いていた。
「油断はできないわ、彼女たちには優秀な専属従者がついているの。彼らに任せた可能性があるわ」
「それって……」
祐の発言を遮るように「その通りでございます。流石は暁月家のご令嬢です」と祐のすぐ後ろを燕尾服の生徒が平然とした顔で走っている。この学校の男性は燕尾服とスーツを器用に使い分けている。
「こっちよ」
夏穂は、一度速度を落として祐の腕をつかむと再び速度をあげて細い通路に入り込んだ。細い通路に入る直前で祐は振り向くと燕尾服の男性は通路直前で立ち止まっている。
息を整えながら祐は「ここは?」と訊ねると、夏穂は壁に寄りかかって「関係者以外立ち入り禁止の通路よ」と答えた。確かに祐の目の前にあるT字路の先は業者らしき姿しかなかった。そして祐は自分がその関係者に入っていないことに気がついた。
「でも、俺は関係者じゃないですよね!?」
「確かに、そうかもしれないわね。本当は、しっかりした場所でちゃんと正式にお願いしたいところだけど。祐、副生徒会長になる気はない?」
祐は、いきなりの夏穂の言葉に困惑を隠せなかった。いきなり、関係者以外立ち入り禁止の通路に連れ込まれて生徒会に入らないかと言われているのだから。こういった場合、断ることはできないが祐はあえて断る選択を選んだ。
「お断りします、と言ったらどうなるんですか」
「そうね、手始めに毎日のように勧誘するわ。それでも動かないんだったら暁月家の名前を使ってでも貴方を生徒会に勧誘するわ」
祐は夏穂から距離をとるように、少しずつ少しずつ関係者以外立ち入り禁止の通路から出ようと試みる。しかしそれも夏穂にはお見通しで「この通路を出れば、あの子達に根掘り葉掘り聞かれるのは間違いないわ。それでも構わないのだったら戻ればいいわ」と釘を刺されてしまう。
「でもさ、俺には優れた能力も誰かを支える能力も無いぞ」
「……それはどこの誰が決めたのかしら」
夏穂は先ほどまでの子供のような笑みを表情から消して真顔を通り越して少し残念そうに「……それは一体、どこの誰が決めたことなのかしら」と繰り返した。
「そうですね、初め言われたのは小学三年生の頃ですね。そのあとは、そのままです」
夏穂は壁に寄りかかるのをやめて「その判断を覆すのが私の役目ね」と言って微笑んだ。
「貴方に対する評価は、私が決める。誰だか分からないような三流教師に文句を言わせないわ」
そう言って夏穂はブレザーのポケットの中から校章とは違ったバッチを取り出して祐に手渡した。初めは受けとる気もなかったが、夏穂の笑顔の圧には敵わず祐はそのバッチを受け取って校章の隣に付けた。
「もう少ししたら、学園長直々に腕章が渡されるわ。そのバッチはあくまでも生徒会長が認めた人物って証拠よ。大切にしなさい」夏穂は、そう言って通路の奥に行こうとしたとき振り向いて再び祐のところに戻ってきた。
「それと、これは聖貴学園絡みでも生徒絡みでもない個人的なお願いなんだけど」
「なんですか、夏穂さん」
「よかったらでいいわ、私と……その……友人になってもらえないかしら」
夏穂の周りにいるのは大人か媚を売る人間しかいなかった。そのため夏穂にとって友と呼べる人間は誰一人いない。そんな孤独に耐えられなくなったのか定かではないが、夏穂は祐に友人になってほしいと願ったのだ。
「そんなことを言うために戻ってきたんですか? そんなのもう友人ですよ。貴女のことは副生徒会長として、そして友人として支えますよ」
「……ふふっ。ありがとう。私のことは呼び捨てで良いわ。改めてよろしく、祐。それじゃあ案内は、ここまででということでごめんなさい。このあと少し用事があるのよ」
そう言って通路の奥に消えていった。その背中を見送った祐は、そのまま来た道を戻る。通路から首を伸ばして周囲を確認すると誰もいなかったので少し安心して通路に出て入り口の方向に戻っていった。
一方、祐と別れたあとの夏穂はスマートフォンからとあるところに電話をかけた。
「もしもし。そう、夏穂よ。至急お願いしたいことがあるんだけど、山谷祐の小学三年生の担任を探してほしいの。ええ、資料を送って。彼の人生を作ってみたいの?」
夏穂は、そう言って一方的に通話を終了した。そしてポケットの中にスマートフォンを滑り込ませて微笑む。
「私の力を甘く見ないことね」
通路の光が怪しく夏穂を照らす。このあと、一人の中年男性が職を失ったのはまた別の話。